Gz08917世界 ゲートオブラグナロク 【本題】
目が覚める。
暗いままだが無色では無く、夜の黒だ。
俺は確かにGz08917世界に到着した。
手元に目をやった後、顔を上げる。
「よお。久々だな、不良エージェント。」
「ん。そうですね、チンピラエージェント。」
「だれがチンピラだてめえ。」
「アンタですよアンタ。それ以外に誰がいるってんですか。」
「あのなあ。
おまえのエージェントコードはGx208。
俺のエージェントコードはAa015。
さらに言うならおまえは俺の弟子。元、俺の受け持ちの研修生。
もっと言うなら俺は今や最古参のエージェントだ。
敬え。崇めろ。」
「だから最低限度の敬意を表して、敬語で喋ってんじゃないですか。」
「いやおまえ、誰に対してもそのなんちゃって敬語じゃねえか。」
「まあ、そうなんですけどさあ。」
黒いコートを着た長身の女、エージェントGx208。
俺の肩よりも少し高いという女性にしては長身なコイツは、表情が読みにくいくらいに無造作に伸びた黒髪と独特な喋り方でどことなく影のある印象を与えることだろう。
いわゆるダウナー系?とでも言うべきコイツは、俺とタイプが似ている。
任務に積極性を持たず、ただ自分が生き延びるために淡々とこなす。
生存力とでもいうのか、生き延びることに長けていて、エージェントとして優秀だ。
それでも俺にとっては弟子として可愛い教え子の一人であり、また気の置けない友人の一人であり、いまや肩を並べる戦友でもある。
「しかし、おあつらえ向きですね、私たち。
深夜、高層ビル群の隙間。黒いコートを着た長身の怪しい男女が二人。
その正体は互いをコードネームで呼び合う胡散臭い組織のエージェントで、しかも舞台は異能者が一般人に溶け込む国。
その国の名前がゲートオブラグナロクなんていう如何にもなものだから、もう笑うしかないってもんです。」
コートのポケットに両手を突っ込んだGx208が、壁に寄り掛かりながらクツクツと笑う。
確かに、これほどまでに『厨二病』的な世界はそうそうお目にかかることができない。
「とはいえ、今回は事前の絞り込みの精度がかなり高かったからな。
事前情報がちゃんとあった分、動揺も無いに等しいだろう。」
「まあ、そうですね。
愚痴をこぼすのはクセみたいなもので。許してください。」
「知ってるっつーの。」
俺たちがこんなくだらないやりとりをするのには意味がある。
周囲に俺たちのことを探っている人間がいないか、あえて会話を垂れ流すことで探っているのだ。
俺たちの会話を拾おうとする者がいるならば、どうあってもある程度の距離までは近づく必要がある。
それこそ盗聴の類の能力でも使わない限りは。
だが。
「……で、人の気配も無いみたいなんでそろそろ本題に入りましょうか。
私の能力はお伝えした通り、【自身の半径20m以内で発動する能力を感知・無効化することができる能力】みたいです。
んで、今は私たちの他に能力者もいないみたいなんで、そっちもどんな能力か試してみてください。」
俺が目覚めた直後、手元には既に先に到着していたGx208によるメモが用意されていた。
内容は、
「自分の能力は【自身の半径20m以内で発動する能力を感知・無効化することができる能力】。周囲に敵性人物がいないかサーチするんで、てきとーに話しに付き合ってください」
というもの。
こういう抜け目のないところは、やはり優秀だ。
「……おお。
なるほどな。」
「え?何にも起こってないですけど。
結局どういう能力ですか?」
この世界での能力は、どうも自分が念じることで能力を行使することができるらしい。
そして、その能力の内容は実際に行使することで直感的に理解できる。
「俺の能力、【自分と自分の一部に触れている人間の身体能力を強化する】能力だわ。」
「へえ、そりゃあシンプルだけどいい能力なんじゃないです?」
「まあそもそもが俺たちがこの世界に選ばれた理由が、世界と器との相性が抜群らしいってことだったしな。」
これでこの世界でのお互いの【能力】という手札を明かし終えた。
……さて。
「じゃ、ここからが本題その二だ。
――黒い騎士について、知っている限りの情報を教えてくれ。」