“0”
視界が沈む。暗く、黒く。
最初こそ激痛が走れど、もはや何も見えないし何も聞こえない。
しかし参った、なるほど偽物か。
いくら変身しようとも、アクションを起こせばそこで捕まっておしまいだ。
良くてその場で殺害、悪くて拷問・実験体になるのが目に見えている。
まさか死ぬ覚悟で乗り込んでくるとは思わなかった。
きっと僕を狙ったのも偶然ではないだろう。
転移者を殺害して回ったのは僕とイガラシだが、変身前のイガラシの姿など転移者は知る由もない。
ならばこそ狙うのは、変身前後で面影のある僕だったのだろう。
ただ、今となってはそんな分析すらどうでもいい。
そして意外と後悔もない。
イガラシは言った、見ず知らずの他人をぶっ殺してでも守りたいものがあると。
しかし僕にはついぞそういったものは持てなかった。
Ih014がそれに近かったのかもしれないが、結局のところ大切なもの・かけがえのないものになり切る前にこのザマだ。
それに、この期に及んで死にたくないとは思わない。
思えば僕はいったいどれだけの人間を殺してきたのだろうか。
これは報いだと考えれば、いくらでも受け入れられる余地はあった。
……ああ。
だらだらと考えを巡らせてみたものの、どうも本当にここまでのようだ。
とっくに視界は闇に染まり、まるで意識の海にいるかのような感覚を得る。
けれど違うのは、猛烈な眠気のようなものに襲われているということだ。
何故か確信がある。
この眠気には抗えず、そしてこの意識を手放した時、僕は死ぬ。
ああ、ああ。
もう、本当に眠くなってきた。
次は、楽しい人生を、送れると、いいな。
次は、たくさんの友達に、囲まれて、生きていけると、いいな。
次は、彼女、なんかも、作れたら、いい、のに。
次は、親孝行、だって、しよう。
次は、次は、次は。
……。
……次って、本当に、あるの、かな。
ああ、それに、しても、ストリングス、あの、詐欺師め。
何が、近い、うちに、好機が、訪れるよ、だ。
ははは、はは。
はは。
は。
。
ああ。