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He83245世界 英雄帝国 【個室】

 

 盗聴開始からなんと12時間が経っていた。

 開始当初は明るかった空も、既に日は落ち真っ黒に染まっている。

 エージェント研修生の二人がこれだけの時間集中して全力で取り組んでいる手前、ベテランのエージェントとして僕とイガラシも途中で引くわけにはいかず、若干の休憩を挟みながらもひたすら盗聴音声の前で無言を貫いていた。



「おつかれさま、アイ。流石に疲れたろう?」


「いやあ、なんだか猫の身体って随分と眠くなるみたいで、実は大部分は寝てたんですよー。

 大丈夫ですかね、いびきとかかいてなかったかな、なんて。」


「えっ。」


「……おい、ちなみにサティ。お前はちゃんと起きてたんだろうな。」


「何言ってんだ師匠、コウモリは夜行性だって知らねえのか?」


「つまり寝てたんだな?」


「おう。なんで?」


「……いや、なんでもない。」



 二人が無事に帰ってきた後、こんなやりとりがありイガラシがムスッとしていたが、そんなことはどうでもいい。

 二人が寝ていたかどうかなんてことは当然どうだってよく、得られた情報が大事だ。

 そう、どうだっていいのだ、と、ムスッとする気持ちも理解できてしまう自分に言い聞かせてみる。


 ただ実際に、二人の成果は上々だった。

 長時間に渡るアイとサティの張り込みの結果、いくつかの情報が得られたのだ。



「しっかし学校では落ちこぼれだったおれたちが英雄とはねえ。」


「ああ、まさか小学校低学年で習ったレベルの魔法で大感激されるとはなあ。」


「そうそう。まさか空気砲や肉体強化なんかでここまでちやほやされるなんてさ。

 ……ちなみに知ってる?こういうの、元の世界のフィクション用語でクラス転移って言うらしいぜ。」


「読んで字のごとく、クラス単位で異世界に転移するってこと?」


「そうそう。」


「しかしクラスとはいっても休みの補習期間中の、寄せ集めのメンバーだろ?

 それも補習を受けるレベルの落ちこぼれ集団。格好つかねえなあ。」


「でも補習のおかげでこんな世界まで来れて、ちやほやされてんじゃん?

 補習さまさまってところよ。」


「ん、まあそれもそうか。」



 盗聴された会話の中に、こういうものがあった。

 どうやらこの転移者たち20人は元の世界では落ちこぼれの学生、つまりただの一般人ということらしい。

 とはいえ魔法の使えない世界で事実として魔法を使用することができている以上、僕たちにとって厄介なことには変わらず喜んでいいのかは微妙なところだった。

 どうもこいつら、空気砲やら肉体強化とやらで建物の壁に穴をあけることくらいのことは朝飯前にできるようなのだ。



「まあ、そもそも帝国の正規兵の警護網をかいくぐったうえでどうにかしなくちゃならないわけだから、どうやったって一筋縄ではいかないだろうけどさ。」


「まあ、そりゃあそうだ。

 ただよっちゃんよ。今回はありがたいことに協力組織がいるんだ、作戦は組織の方に任せときゃあいいんじゃねえの?」


「そりゃあそうなんだけど、万が一に備えて自分でも展望は持っておきたいなと思って。」


「相変わらずマジメだねえ。」



 僕の会話のお相手はアイ……ではなくイガラシ。

 組織内でも改造人間という重要な役割を持つ僕たちには二人ずつの個室が与えられていたが、僕とアイ、イガラシとサティという指定の組み合わせではなく単純に男女での部屋割りだった。

 悪の組織でありながら健全なことだ。

 そもそも悪の組織というのが自称であり、客観的にみて少なくとも根底にある信念は清く正しそうな組織ではあるが。



「ただ、うーん、そうだなあ。」


「ん、どうした?」


「いやあ、どうすっかなあ。」



 個室の壁にぐだりともたれながら、珍しくイガラシが口ごもる。

 僕の知る限り、イガラシという男は良くも悪くも思ったことはすぐに口にするような性格をしていたはずだが。



「ま、いっか。

 おまえもしかして、前世の記憶取り戻した?」



 ドクン、と。

 突然のその問いかけに心臓が跳ねるのがわかった。


 記憶を思い出したことは誰にも悟られないように。

 その助言もあり、また任務達成への支障のことも踏まえたうえで、今はまだ考えないようにしよう、そう思っていたこと。

 そこを的確に突かれ、僕はすぐには答えられなかった。



「おお、この反応は当たりだな。

 なんか憑き物が落ちたような顔してるからそうじゃねえかなあとは思ってたんだ。

 あーよかった、もし違ってて、俺の発言を意識の海でチクられでもしたらどうしようかなーと。」



 こちらの反応を見て、そう続けるイガラシ。



「い、委員会について、何か知ってるのか?」



 辛うじて絞り出した僕の言葉にイガラシはひと言。



「ん?いや、なんにも知らんよ?」



 なんじゃそりゃあ。

 思わずそう叫びたくなった夜更けだった。


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