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He83245世界 英雄帝国 【帝国】

「なあエージ。おれ達がこの世界に来てからちょうど一ヶ月だってよ。」


「そうかあ。やっぱビートも元の世界に戻らなきゃ、みたいに思ってるわけ?」


「まさか。だっておれ達、この世界では『英雄』なんだぞ?

 ちやほやされるし、充実してるし。

 そりゃあ家族のこととか少しは元の世界に未練もあるけど、それでも戻りたいとはとても思わんね。」


「ははは、だよなあ。

 なんかこう漫画とかの主人公って、たいていは真っ先に元の世界に戻らなきゃ!とか思ったりするじゃん?

 アレ、いつも違和感を感じてたんだけど、いざ自分の身に降りかかってみてもやっぱりヘンだぜ。」


「そうそう。」


「えー、アタシは帰りたいけどなあ。

 そりゃたしかにこの世界面白いけれど、やっぱり元の世界に置いてきたものが大きいっていうか。」


「はいはい。そりゃあシーナは元の世界に愛しい愛しい彼氏様がいるからなあ。

 そりゃあ帰りたくもなるだろうよ。」


「なっ、そうじゃなくて!

 アタシは純粋にお母さんとかお父さんとかが心配してるだろうと思って!!」


「はいはい、そういうことにしとこう。」


「まあその心配しているであろう人物の中に、間違いなく彼氏も入ってるんだろうけどな。

 いいねえ、おれも彼女ほしい。」


「もう、エージもビートも!!」



 聞こえるのは男二人の声と、女一人の声。映像は無い。

 この音声は一体何かといえば、会話の内容からも察することができるようにこの世界への転移者、ターゲットたちの会話である。


 この会話を聞いているのは僕とイガラシと悪の組織情報部の面々。

 場所は情報部の盗聴室という、まさにといったネーミングの機械に囲まれた部屋で行われていた。

 そしてこれらの音声を拾っているのは他でもない、アイとサティの二人である。


 二人は猫とコウモリにそれぞれ変身し、この国で転移者に与えられているという厳重警戒の敷かれた屋敷に忍び込んでいる。

 警備の意味合いもあるのか人気のない場所に屋敷が建てられているおかげで、猫やコウモリの侵入は容易いようだった。

 ただし流石に映像を撮るほどに接近するにはリスクが高すぎるため、このように音声だけを拾う形となっている。



「なあ、」


「はじめにも言いましたが、この部屋では無言でお願いします。

 英雄、いえ、転移者を殲滅するためには、少しでも情報を逃すわけにはいきません。」


「……。」



 僕に話しかけようとしたイガラシが情報部の一人に叱られる。

 叱られたイガラシはひどくバツの悪そうな表情を見せるが、そりゃあ今のはイガラシが悪い。


 多少の私語も許されぬほどに皆が真剣に音声を確認しているのは、先ほどの言葉にもあったようにこの組織の重要な目的の一つが転移者の排除だから。

 この世界の悪の組織と僕たち転生撲滅委員会のエージェントの目的は、幸いにも完全に一致しているのだ。




 英雄帝国という国家は千年の歴史を持つ大国である。

 その昔初代皇帝となる男が国を立ち上げようとした際、あらゆる脅威を振り払い手を貸したのが異世界から現れた人々、後に『英雄』と呼ばれる転移者であったとされている。


 以来英雄への捧げものとして、この帝国では毎年帝国民の中から生贄が捧げられてきた。

 もっとも、一年に一人という国民の分母を考えれば極めて少ない数ではある。

 とはいえ文明が発達し人々の暮らしの近代化が進んでも、生贄などというオカルトな風習が廃れず形も変えず続いたのには理由がある。

 それは単純な理由。

 数百年に一度、異世界から本当に『英雄』が現れてしまうからだ。


 異世界から現れる英雄は、必ず何かしらの超常的な力をもって現れる。

 ある者は手から魔術を生み出し、ある者は特殊な刃物を携え獣よりも早く野を駆け抜け、またある者は非常に高度なオーパーツを持って現れた。


 故に帝国は大多数の国民の心を掴んで離さない。

 ただし生贄として選ばれた者たちの関係者や、ごく一部の者の中には当然不満を持つものも現れる。

 そんな者たちが時代によって名前を変えながらも存続させてきた組織こそが、今のこの悪の組織ということなのだそうだ。



「……。」



 精神を集中して音声から情報を拾おうとする組織の人々。

 彼らもきっと生贄にされた人間の親族であったり、いつか突然自分に死の宣告が突き付けられる体制に真っ向から立ち向かおうとする人間で合ったりするのだろう。


 この任務、成功させたいな。


 口に出せない言葉は、心の中にとどめておこう。

 そう思った。


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