表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
107/207

He83245世界 英雄帝国 【半獣】

 僕に施術した改造は実はイガラシとサティのものとは大きく異なる。

 イガラシとサティの改造の効果は別の生物に完全に変身するもので、先ほど見たように人語を発することさえできない。

 当然ながら四肢も人間とは異なり複雑な動作を行うには不向きなため、別の方向性で進められた改造手術が僕の部分変身。



「と、いうわけですな。なかなか似合っておりますよ。ほっほ。」


「いいなあ。オレ、そっちの改造の方が良かったなあ。」



 ダイジョウ博士の説明に思わずつぶやくサティ。

 二人の、いや、この場いる全員の視線は僕に向いている。



「狼男ってやつじゃねえか。格好いいじゃん。」



 僕を見てニヤニヤと茶化す様にそう投げかけるのはイガラシ。

 彼の言う通り僕の身体には体毛が生え、まるで二足歩行する狼のような姿だった。

 とはいえ手や指、首から上は人間ベースになっているようで、言うなれば随分とマイルドな狼男だ。



「先生、どこか変なところがあるとか、気分が悪いだとかはないですか?」



 不安そうに尋ねるのはアイ。

 次は自分の番ということで不安も強いのだろう。

 あるいは優しい彼女のことだ、純粋に僕のことが心配で気遣ってくれているだけなのかもしれない。


 問題ないと答えようとする。

 が、実はこの身体、問題が無くはない。



「ああ、大丈夫だよ。ただ、強いて言うなら。」


「強いて言うなら?」


「めちゃくちゃ身体が熱い。」


「ほう?くわしく教えてくれませんか。」



 そう、体が熱い。

 比喩のようで、けれどもしかしたら本当にその通りなのかもしれないが、自分の身体を流れる血そのものが熱いように感じる。

 クロノ総帥に答える形で感じたままのことを言ってみると、ダイジョウ博士がそれはそれは嬉しそうに口角を上げた。



「ほっほっほ!それは面白い表現ですなあ。これは期待通りの成果が得られそうだ。

 どれ、フォーさん。ちょっとそのままこの実験棟の反対まで走ってみてください。」


「はい。」



 ここの広さは体育館程度。

 反対側までということは、50mくらいというところだろう。


 血が騒ぐ。

 今なら風のように走れる気さえする。

 ……ははは。

 思い出してみれば生前の僕は、運動音痴だったというのにな。



「行きます。」



 一言だけ残して走り出す。

 スピードはぐんぐんと上がり、反対側までたどり着くと衝動のままに壁を蹴る。

 そして方向をひるがえしてもといた場所へと走り戻った。



「ああ。気もちいぃ……。」



 思わず声が漏れる。

 なんだこれは、たまらなく気分がいい。


 アイやサティ、イガラシが走り終えた僕の周りに寄ってきて何か声をかけているが、耳に入っては通り抜けてしまう。

 ただうっすらと聞こえたことには、どうやら僕は自分でも気づかぬうちに四足で走っていたようだった。



「ダイジョウ、どれくらいの速さが出ていたと思いますか。」


「ま、時速50~60㎞は出ているでしょうなあ。」


「なるほど、十分ですね。」


「ほっほ、十分ですな。」



 ようやく我に返ったのは、ダイジョウ博士とクロノ博士が満足げに交わす言葉が耳に入ってきた頃だ。

 僕自身は風にすらなった気分でいたものの、時速50~60㎞とは意外と現実的な速さで少しだけがっかりする。



「なんというか、思っているよりは早くないんですね。」


「早くない?ほっほ、冗談を。時速60㎞で走ることができるということは、簡単に人が殺せるということですよ。」



 すかさず答えるダイジョウ博士に思わず納得させられる。

 なるほど、車の走るスピードか。たしかに人が殺せる速さだ。

 正面衝突であればもちろんこちらもただでは済まないだろうが、そこはこんな改造手術なんてものを実現してしまう組織のことだ、何かしらの対策くらいあるのだろう。



 その後しばらくは僕のデータを取る時間が続いた。

 実験棟というだけあって次々とわけのわからない測定器らしきものが出てきたが、ダイジョウ博士やクロノ総帥の喜びようを見るに期待に添えた結果を残すことができたのだとは思う。



「ほっほっほ。そろそろ十分です、最後にアイさんにお願いしましょうか。」



 その声で実験が切り上げられる。

 この変身とやらはとても都合の良いようにできていて、自分の意志一つで簡単に変身することも変身を解くこともできる。

 僕は変身を解いてアイの側へと寄った。



「けっこう気分のいいもんだったよ。気負わずにね。」


「はい、ありがとうございます先生。」



 その後、アイの変身は滞りなく行われた。

 アイの変身は実物大のコウモリ。

 鳥じゃなくてよかったですと呟いたアイの言葉が、なぜだか妙に印象的だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ