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He83245世界 英雄帝国 【変身】

「流石のワタクシも、やはり何度見ても興奮を隠しきれませんよ、これは。」


「ほっほっほ、相変わらず出来は上々ですな。これは素晴らしい仕上がりと言えるでしょう。」



 場所は基地に隣接する大規模実験棟。

 広さはなかなかのもので、中には体育館ほどのだだっ広い空間が広がっている。

 その広い空間に反し、その中にいる人間はクロノ総帥、ダイジョウ博士に加え、イガラシを除く僕たちエージェント三人のみ。


 ただし、人間は、である。



「お、おおう。師匠、ずいぶんとイカした格好になってんじゃねえか……。」



 誰が見ても無理をしているとわかる引きつった笑みでサティが言葉を投げかける。

 その視線の先にいるのは身の丈6mはあろうかという巨大な蜘蛛。

 もちろんこのHe83245世界の蜘蛛がみんなこれくらいの大きさをしているなどという馬鹿げた話ではない。

 この蜘蛛こそ、改造人間イガラシが変身した姿だった。


 サティとイガラシは僕たちより先に既に改造手術を済ませていたためダイジョウ博士やクロノ総帥はその姿は既に知るところだったが、サティとイガラシが互いの変身を見るのはこれが初めてらしい。



「サティさん、変身中は発声できませんから返答は期待できませんよ。ほっほっほ。」


「あっ、そうだったな。うん、そうだったそうだった、ははは……。」



 なんとか無理にでも言葉を振り絞り、明らかな無理をしているサティとは裏腹に当の本人である巨大蜘蛛は、ポリポリと大きな足の一本を使って器用に頭を掻いていた。



「ダイジョウ、しかし発声ができないだけで自我は保たれてあり、当然彼は人語も理解できているという話でしたね?」


「ほっほ、もちろんその通りですよ。さてイガラシさん、蜘蛛の糸でも出してくれますかな。」



 クロノ総帥への返答に、イガラシへの指示。

 ダイジョウ博士のその言葉を聞いたらしい巨大蜘蛛はまるで頷いたかのような動作を見せると、今度は腹の先から糸を出してみせた。


 隣のサティから「うわっ」、と声が漏れる。

 実はこの子、蜘蛛が苦手なんじゃなかろうか。

 対するアイはといえばケロッとした様子だったが。



「もういいですよ、イガラシさん。ほっほ。」



 その後しばらくの間、指示に従って巣を張るといった蜘蛛らしい行動をとってみせた巨大蜘蛛だったが、その言葉を受けてやはり頷いたかのような動作を見せるとまるで手品か魔法のように消えた。

 正確には人間の姿のイガラシが残った。



「ああー、疲れた。

 でも見ただろ?まさに大怪獣だぞ、俺。」



 いい笑顔で言い放つイガラシ。

 そうだな、かっこいいな。

 僕はとりあえずそう答えてやった。




 ---




「いやー、笑った笑った。さっちゃん、おまえ最高だな。」


「うっせえ笑うなって言ったろ!あと、さっちゃん言うな!」


「でもアイも笑ってたぞ。」


「え!?」


「あの、その、ごめん。ちょっとだけ。」



 そのやりとりを見て、僕は少し前を回想する。


 イガラシの巨大蜘蛛への変身。

 これを見た後ということもあり、どんな姿に変身するのだろうかと少なくとも僕とアイには緊張が走っていた。



「……笑うなよ。」



 変身する直前に小声でそう呟いたサティ。

 彼女は僕たちの予想を完全に裏切り、猫に変身した。

 その体長は50㎝~60㎝といったところか。


 つまり、何の変哲もないただの猫だ。



「こちらも問題なく成功ですね。」


「ほっほ、成功ですな。」



 当然あっけにとられる僕とアイとイガラシ。

 けれどそんな僕たちを意にも介さず猫に支持を伝えるダイジョウ博士とクロノ総帥。

 二人と一匹はいたって大真面目である。


 ……と、こういうシュールなやりとりがあったからこそ、馬鹿にするイガラシと怒るサティの図ができあがっていた。



「それにしてもなんでこんなに師匠とオレで差があるんだよ!聞いてなかったぞ!

 オレには改造手術の適性が無かったとかそんなオチか!?」


「ほっほっほ、まあまあサティさん。あなたとイガラシさんでは役割が違うんですよ。

 そしてお一人真剣な顔をしているところを見ると、どうやらフォーさんはその意図を理解しているようですな。」



 サティの怒りの矛先がダイジョウ博士に向いたところで、話が僕に振られた。

 キョトンとした顔をこちらに向けるサティ。ついでにイガラシ、アイ、クロノ総帥も僕の方向に向き直る。



「合っているかどうかはわからないですけど。

 きっとイガラシは言うなれば攪乱用の改造人間。サティは潜入用の改造人間じゃないですか。

 人をも食べられそうな巨大蜘蛛が突如現れたとなれば当然現場は大混乱。

 その混乱に乗じて暗躍するのがサティの役割。見た目が普通の猫と変わらないのであれば、まさか疑われることもないでしょう。」



 例えば重要施設の中なり玄関なりでイガラシが巨大蜘蛛に変身。

 そこで暴れている間に猫になったサティが施設に忍び込むだとか、活躍の場は広いだろう。



「そのとおりですよフォー君。

 いやあ、この二人の改造人間の組み合わせはワタクシの発案なのですが、ここまで正確に汲み取ってくれるとは!」


「え?じゃあもしかして、俺は囮で痛い目見る役?」


「さあ続けましょう、次はあなたたちの番ですよ!」



 僕の予想は合っていたらしく、クロノ総帥が食いついた。

 その勢いは挟まれたイガラシの言葉を無視するほどで、いい歳をした大人だというのに目がキラキラと輝いている。


 そしてそう、次は僕とアイの番なのだ。

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