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8話 女学校あるある?

 アンナがお菓子とお茶を持ってきてくれたのでユリアーナとテーブルに向き合う。半ば強引に連れてきてしまったからかご機嫌斜めなように見える。


「私はめったにお城の外に出る事がないのですが、学校ではどのような事を学んでいらっしゃるのかしら?」


 無言も辛いのでこちらから質問をさせてもらう。内心お客様であるユリアーナのご機嫌を取り戻せるかドキドキしている。


「私の通っている女学校は主に身分の高い娘が集まっているので勉強は建前程度でほとんど花嫁学校と言っていい場所ですわ。勉強は苦手だけれど本当は父の仕事を手伝えるようにもっと色々学びたい…言い過ぎましたわ。お気になさらないでくださいっ」


 アンナはお付きの人が持ってきた革のカバンから数冊の本を取り出しテーブルに乗せはじめた。


「では私は課題を片付けますのでコトネ様はどうぞダンスの練習に励んでくださいまし。目に余るようでしたら教えて差し上げますわ!」


「それは嬉しいです…と、今日の課題は数学ですか?」


 ユリアーナが広げた本をちらっと覗くと見慣れた数列が並んでいる。


「そうですわ。明日までにこの印の範囲までを終えないと…」


 ふむ、と顔を近づけて本を読みつい「ユリアーナ様、ここはそれよりもこの数式を当てはめたほうが分かりやすいかと」と口を出してしまった。


「え?どれですの?」


 自慢ではないが子供の頃から数学には強かった。こちらの世界で学ぶ数学も共通するものがありあちらの世界で学んだ事を応用したりして解いていたらサンタさんとカーネルさんに誉められていた。


「なるほど、ここを代入して…こうですわね?」


「そう!次いでこの問題は…」


「あら!こうすると簡単ね。コトネ様教え方がお上手だわ!」


 小一時間はユリアーナの課題に付き合っただろうか?お皿に盛られたお菓子がなくなった頃…すっかり仲良くなっていた。ユリアーナは元からのお嬢様で素直な子だったのですんなり私を受け入れてくれたようだ!


「終わりましたわー!ありがとう、コトネ!」


「どういたしまして!ユリアーナは飲み込みが早いわね!」


 すっかり打ち解け見た目年齢年下のお友達ができた!嬉しくてもうお互い様なんてつけずに呼び合う。ユリアーナの課題が終わったので今度は私にダンスを指導してくれる。


「苦手なのよ。お手柔らかにね」


「コトネ、ダンスなんて頭ではなく身体で覚えるのものよ。数学みたいに難しく考えないでもっと気軽に取り組めばいいのよ!ほら、こっちに来て!」



 ・・・



「いったぁーい!また踏んだわね!」

「ごめんね!このね、ターンが苦手なの!」

「ターンはこう、重心をこちらに置いてくるっと!優雅に!姿勢を保ちつつ!もう一度!」



 私が何度もユリアーナの足を踏んでしまうので途中から靴を脱いで裸足で練習に勤しむ。


「こっちに、重心をおいて…こうかっ!?」

「そう!上手よコトネ!もう一度よ!」


 ダンスの先生との時は間違えないように、間違えないように!とそればかり頭の中で考えてしまうからかいつも同じところで躓いていた。ユリアーナと一緒だと間違えても足を踏んでしまってもダンスが止まることはない。

 随分とスパルタだが遠慮せずどんどんぶつかっていくことで苦手な部分も克服しつつある!



「コトネは随分と上達したな!素晴らしい!」


 いつの間に様子を見に来ていたのか、椅子に座り見ていたイザークに声をかけられるまで部屋に入ってきたことに気づかない程私達は熱中していた。



 ・・・



「今度の夜会で着るドレスはお決りになって?」


 いつもは広いテーブルにイザークとふたりで食事をしているが今日はユリアーナも同じ席につき賑やかだ。


「私はドレスとかよく分からないからほとんどお任せしてるわよ?」


 お城での夜会は久しぶりに行われるらしくユリアーナも楽しみにしているようだ。今着ているドレスも可愛らしいわねと伝えると一番気に入っているものだと教えてくれた。ユリアーナは自分の可愛さを引き立てるドレスをよく分かっている。


「そうですの?私はお父様にお願いして今流行りのお店にデザインからお願いしてますのよ」


 残念ながらドレスについてのガールズトークは盛り上がりそうになかった。夜会で着るドレスについては採寸は先日終えたけれどアンナが連れてきてくれたデザイナーの人達には可愛らしいフリフリやリボンはやめてほしいとだけお願いしていたのでどんなものが出来上がるのかは把握していない。


「コトネのドレスは代わりに俺が口を出しておいたから楽しみにしていてくれ」


「えぇっ、イザークが?」


「そうだ。コトネには当日までのお楽しみにしておくがな」


「キャー!素敵っ!!私も当日楽しみにしていますわ!」


 いつの間!イザークが気にかけてくれたなんて驚いたがユリアーナは目を輝かせている。しかし、そんなに注目されると当日にはせっかく習ったダンスも頭から消えてしまいそうだ。


「イザークお兄様主催の夜会ともなると各地から人が集まるでしょう?皆コトネにはもちろん注目しますが大半の人は自分のパートナー探しに忙しいはずですわよ?」


 聞くと夜会には身分の高い家の者が呼ばれ、例えばユリアーナのシュタイーヒ家は領主と妻、独身の娘を連れて参加する。どの家も娘息子を伴って来るのでその中に魔力の似ているパートナー見つかればと思っているのだそうだ。有力な参加者も集まる王主催の夜会は重宝されるのだとか。


「なるほどね、確かに出会いが多ければ多いほど確率は上がるものね」


「早く私もイザークお兄様のような素敵なパートナーが見つかるといいですわ!そうだ、今度夜会の準備をかねてカザトラの宝石店へお買い物に来ようと思っていましたの。コトネも一緒に行きませんこと?」


 このお城に来てから外に出たことといえばアマロに乗って湖へ出掛けたきりだ。日々忙しくしていたしお城も広くて充実しているので外に買い物という機会はなかった。ユリアーナの提案に街も見てみたいのでぜひに!と、すぐにでも返事をしたいところだけれど「それはイザークに聞いてみないと…」ちらっとイザークに目をやる。


「うーん、そうだな…必ず警護を付けて行動する事と、街中に多めに騎士団を配備するって条件でなら出掛けてもいいぞ」


 少し頭を悩ます仕草をしていたが、慕ってくれいてるユリアーナの頼みだからか思いの外早くOKがでた!


「さすがイザークお兄様!決まりねコトネ!さっそく日にちを決めましょう」


「本当はコトネが心配だから俺も付いて行きたいが街中に俺が行くとなると目立って騒ぎになってしまうからな…」


 とっても残念そうなイザークをよそにお兄様大好きユリアーナははしゃいでいる。お年頃の女の子にお買い物は一大イベントだ。





 夕食後、客人のユリアーナを皆で部屋まで見送る。


「それにしてもコトネは本当にあれだけの量でお腹いっぱいになりますの?」


 やはりユリアーナも魔族なのでけっこうな量の料理をぺろっと平らげていた。


「そうね。これでも私の世界では食べる方なんだけれど」


 友達とのランチでパスタ大盛りは必ずしている。その度に相変わらず良く食べるわね!と言われ慣れていたのでこちらでは逆の事を言われて何とも不思議な気分だ。


「そうですの?あれしか食べないからスリムだなと思っていましたけれどきちんとお胸にお肉はついてますのね。うらやましいですわ」


 言いつつユリアーナは私の胸を後ろから掴んでくる…と、前を歩いていたイザークが大きく咳払いをする。


「羨ましいことは俺の前でしないように!」


 羨ましいって…。ちょっと頬が赤くなる。

 しかしユリアーナとは互いに目をあわせて


「女の子同士ですもの、女学校では普通ですわ」


「わかるわ。どこの国でも同じなのね…」


 女学校あるあるで更に盛り上がることとなった。





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