67話 永遠に向かって
窓から差し込む光により輝きを増す純白のドレスは、上品な光沢のある生地に贅沢に彩られたレースとパールがより高級感を醸し出している。
クラシカルなデザインのAラインドレスは10分袖のロングスリーブだけれどオフショルダーのおかげか、程よく抜け感があり重厚すぎない。
バックスタイルにはバラをあしらったリボンに続き、柔らかく広がる幾重ものレースが重なったロングトレーン。全てがうっとりとするほど美しい。
いつも以上に時間をかけ丁寧にヘアメイクを終えると、いよいよ私の為だけに作られたこのウエディングドレスに袖を通す。
いよいよ本日、私とイザークの結婚式が執り行われるのだ。
伏し目がちに立ち、着付け係が姿鏡を持ってきたところでゆっくりと顔をあげた。
「コトネ様、大変麗しいですわ」
アンナは熱いため息をついてからしゃがみこんでロングトレーンの細かな調整をしてくれる。
自分でもこのウエディングドレスを着ているのは私?と疑いたくなるほどまるで別人だ。…とても、良い意味で。
鏡の中の自分に見とれていると部屋の扉がノックされ、バルドさんとエーリアルさんが入室してきた。
バルドさんは正装、エーリアルさんはバルドさんの瞳の色に合わせてかブルーのドレスにヴェールがついた素敵な帽子を合わせている。
今日はバイトさんにも角が生え、その形はイザークとそっくりなのでやはり親子なんだなと改めて感じた。
「キャーッ!コトネちゃん素敵!お嫁さんっていいわねぇ」
「今日はおめでとう。緊張はしていないかな?」
「お二人共、ありがとうございます。緊張…というか実感がわかないというか…。不思議な気持ちです」
数日前から続々と今日の結婚式のためにゲストが到着し、国をあげてのお祭り騒ぎが行われていた。
私は参加していないけれど昨晩はゲストのために前夜祭としてオペラが上演され、華やかなパーティーも行われていたのだ。
賑やかな様子を横目に私はアンナに連れて行かれるがまま、城内のあちこちの部屋でエステやマッサージ、ネイルと大忙しだった。
おかげでこの大切な日を万全の状態で迎えることができた。
「ふふっ、その気持ちよーく分かるわ?式が始まったらあっという間だから早めにそのふわふわした気持ちを整えておくといいわよっ?」
なるほど、と胸に手をあて深呼吸するとアンナが赤いベルベットのボックスをエーリアルさんに差し出した。
エーリアルさんが細い指でパチンと箱を開くと、中にはまばゆい宝石に彩られたティアラが待ってましたとばかりに輝いていた。
中央にはバルドさんの母であるアナスタージアさんの腕輪に使われていた青い宝石が、そしてそのまわりの蔦が広がるような複雑なデザインにはエーリアルさんの父である聖霊王から賜ったダイヤモンドが丁寧にはめ込まれている。
デザインのモチーフである蔦は繁栄を意味していると言う。
「では、私の手から失礼するわねっ」
ひざを曲げエーリアルさんにティアラを乗せてもらう。ずしりと重みのあるティアラが私をより輝かせてくれ、鏡を見るだけでもう感極まって泣きそうになってしまう。
「あらあら、コトネちゃん泣くのはまだ待ってね?」
「はい、頑張って…抑えます!」
そんな私達のやり取りをバルドさんはあたたかい眼差しで見つめている。「それと、最後に!」と、エーリアルさんが人差し指で空中に円を描くとドロップ型のブーケが現れた。
「これ、私が育てた庭の花を使って作ったのよ。私達ふたりと、聖霊からの贈り物よっ」
ブーケには優しい色合いをした聖霊界でのみ育てられている大変貴重な品種のバラが使われていてアクセントには鮮やかな緑色のアイビーが添えられている。
花の色の優しさはエーリアルさんの心そのものだと思った。
「ありがとうございます!」
ブーケを顔に近づけ花の香りを楽しむと気持ちが落ち着いてきた。
改めて、二人に向き直りひざを曲げてティアラを落とさないよう軽くお辞儀をした。
「バルドさん、エーリアルさん…異世界からきた私を快く受け入れてくださってありがとうございます。そして、イザークを産み育ててくださってありがとうございます。…私、この世界に来れて…お二人にお会いできて本当に幸せです。まだ未熟な私ですが、どうかこれからもよろしくお願いします」
「コ…コトネちゃんっ!」
エーリアルさんが私を強く抱き締めてくれた。あぁ、私の涙腺は今日一日緩みっぱなしだろう。涙をこらえるのに精一杯だ。
「コトネさん、私達からも息子のお嫁さんになってくれてありがとう。これからも末永く息子と、この国を宜しく頼みます」
お二人が私にゆっくりとお辞儀をすると扉の向こう側から間もなくお時間です、と声がかかった。
「では、コトネさん会場までエスコートさせていただきますね」
「楽しみね!コトネちゃんっ」
「よろしくお願いします」
差し出されたバルドさんの腕にそっと手を乗せて城の敷地内に設けられた会場へとゆっくり歩き出した。




