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66話 慌ただしい日々

 

 キエア火山の魔物討伐以降、イザークはその後の処理に追われてより仕事が忙しくなってしまった。

 私とエルクは魔力が回復するまで城でゆっくりと生活し、しばし安息の日々を過ごした。


 それから約二週間後、執務を終えたイザークが私の部屋へやって来た。


「コトネ、入るぞ」


「お疲れ様!」


 魔力が戻りつつあり元気になった私は部屋で一人勉強をしていた。イザークは入ってくるなり部屋を見渡して困ったような顔をした。


「エルクスレーベンが一緒にいると思ったんだが?」


「それがね…」


 エルクも私と同じく魔力がある程度回復すると、今回の魔物討伐に関して「事細かく文章で後世に伝えなければ」と張り切って仕事を再開していたのだ。


 先日差し入れにドライフルーツのケーキを持って訪ねると、机の上にはエルクが見えなくなるほどの大量の書物が重ねられ、その中で忙しく文字を綴るエルクの姿があった。

 一応ノックをしてから入室した私に気付かない程の集中力だったので、ノックの音に気付き出入り口まで出迎えてくれたティティに差し入れを託してそっと邪魔にならないよう帰ってきたのだった。


「そうだったのか。大切な話だからなるべく早く伝えたいんだがな…今から行ってみるか?」


「ええ、ぜひ連れていって」


 イザークと共にエルクの仕事部屋がある塔まで歩き、部屋の扉をノックすると今日は小さくだけれど返答があった。

 扉を開けると目の下にクマをつくり疲労困憊といった様子のエルクがお茶を飲んでいた。入ってきたのが私達だと気付き慌てて立ち上がると机の上の書類が雪崩を起こした!


「エルクそんなに疲れた様子をして!無理しないで?」


「お二人共、こんな汚い部屋に…すいませんっ」


 慌ててエルクは指をはじき魔法で部屋中の書物を整頓した。


「仕事熱心なのは結構なことだが、まだ魔物討伐の疲れも残っているだろう?エルクスレーベンに倒れられたらこちらも困るからな。ほどほどにするように」


「はい、勿体ないお言葉です」


 どうやらつい先程やっと魔物討伐についての書物を書き上げ一息ついた所だったらしい。満足のいく仕上がりだとエルクはにこりと笑った。


「ところで、どうしてイザーク様までこちらに…?」


「ああ、エルクスレーベンに一点許可をとっておこうと思ったんだ」


 私達はエルクが魔法で出してくれた椅子に腰掛け話を始めた。

 魔物討伐で重要な役割を果たしてくれたノア様の剣はイザークが持ち帰っていた。つい先ほどまで行われていた会議でこの剣を国宝に指定して保管すべきだとの意見が出たらしい。

 イザークもなるほど、と思ったが念のためエルクに許可をとってから可否を決めようと思ったとの事だった。


「そんな、わざわざ私の許可だなんて恐れ多い!」


「しかし、エルクスレーベンにとっても大切なものだろう?もし自身の手元に残しておきたいのであればもちろん、喜んで託そうと思っている」


「とんでもありません!私は…現在この国で6500年経ってもノア様が語り継がれていることがとても嬉しかったのです。ですからぜひこの剣も然るべきところに保管や展示をしていただき更に後世にまで語り継がれるのであれば、これ以上に嬉しいことはありません!」


「展示か、それもいい案だな。エルクスレーベン感謝する」


 エルクの提案をきっかけに、ノア様の生い立ち…もちろんアヴァさんとの結婚の話も含めて。それと魔物封印についての説明と共にノア様の剣が国民皆が立ち入れる場所に展示されるのはもう少し経ってからの事…。




 ・・・




「コトネ様っ!大変です!」


 魔物討伐より更に一ヶ月ほど経った頃、街に買い物へ出掛けていたアンナが息を切らしながら私の部屋へ駆け込んできた!

 アンナの慌てた様子に何事かと驚いて立ち上がるとアンナは握っていた一冊の冊子を私の目の前で広げて見せた。

 それはよほどアンナが力を込めて握りしめたのか、しわくちゃだったけれど文章を読み、挿し絵を見て…私の顔から火が出た!


 それは町で出回っている冊子の一ページだった。魔王であるイザークとその婚約者の私、眠りから覚めた最高魔導士の力でキエア火山の魔物を退治した事が詳細に書かれていた。


 中でも私が異世界から召喚され強い魔力を身に付けている事や、どこから調べたのか私の性格、好みの食べ物まで書いてある!

 挿し絵には私達が魔物に立ち向かう様子が描かれている…が、剣を持ち魔物を睨むイザークと、その後で杖を持ち補佐する様子のエルクに対し…まるでギリシャ神話の戦いの女神アテナのように長槍と盾を持ち神々しく描かれている私…?の姿があった。


「なに…これ!?」


 どうやらラジオやテレビのないこの世界ではやっと国の隅々に魔物討伐の話が広がったが、私の話はずいぶんと神々しく盛られて広まっているようだ。


「素晴らしいですよね!今国民の話題はコトネ様の事で持ち切りなんですよ!あぁ、私も心から嬉しいです」


 アンナはうっとりと再び記事を読み始めると「あっ、保管用にもう一冊雑誌を買わなくちゃいけませんね!」と喜んでくれていた…。


「コトネ、いるか!?」


 私が呆けていると突然、ノックもなしにイザークが私の部屋へ駆け込んできた。珍しく頭には角が生えている。


「どうしたの!?」


「今日はもう暇か?暇だよな?アンナ、コトネに予定が入っているようならキャンセルしておいてくれ!」


 慌ただしく私を抱き上げると返事を聞かないイザークに連れ去れてしまった。小走りに歩くイザークに「急に何?」と問いただすと、とにかく急ぎで対処したい事案ができてしまったので私が必要だと言う。


 イザークに連れ去られた部屋は初めて入る場所で、部屋中に古い油のような鼻につく匂いが立ち込めていた。

 ふかふかの椅子に降ろされるとイザークは横に立ちしばらくこのままでいるように、と言われた。

 私達の前には白い服を着た中年男性が座り、懸命に手を動かし始めた。これは…


「国中で魔物討伐の話が広まって国民の指示が急激に上がったんだ。それで、結婚式後に描かれる俺達の肖像画に注文が殺到してるらしい。画家が式の後じゃ間に合わないから今から顔の部分だけでも描いて用意させてくれと言い出してきたんだ」


「ええっ!?じゃあこれ、肖像画を描いてるの!?私…お化粧とか…」


 せっかくの記念の肖像画だから言ってくれたらもっと念入りにメイクしたのに!と、泣きそうになった。


「お任せくださいお二人共!心を込めて全身全霊で三割増…いや、もっと凛々しく!お美しく!描かせていただきます!」


 画家の方もこんなに大量注文が入るなんて腕が鳴ります!と嬉しそうだ。

 そうよね、絵だから肌のくすみだって美肌に描いて貰えるのよね。と少しホッとした。


「コトネが今以上に美しく描かれるとそれはそれで心配事が…でも最高に可愛く描いて貰いたいしな」


 何やらイザークはぶつぶつと話している…。


「目線をこちらへ真っ直ぐにお願いします!」


 画家の声に顎を引いてふわりと口元に笑みをつくり動きを止めた。

 …はじめての肖像画に間もなく(まだ動いちゃだめなの…?)と弱音をはくとも知らずに。


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