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63話 キエア火山.3

 

 コンコン、とイザークの部屋の扉をノックするとすぐに返事が返ってきた。ゆっくりと扉を開くと椅子に腰掛けテーブルの上に並べた書類に目を通す姿があった。


「せっかく執務室が新しくなったのにまだ自分の部屋でも仕事をしているの?」


 空には満点の星と月が輝いている。本来なら寝ていてもおかしくない時間なのだけれど、何となく寝付けなくてイザークの部屋にお邪魔した。


「何かしていないと気が紛れなくてな。そう言うコトネこそどうしたんだ?こんな時間に」


「寝付けなくて、イザークと話がしたくなったの」


 キエア火山の噴火が確認されてから一週間が経った。相変わらず小さな地震は日に一度程あるが噴煙は少なくなってきたので、いていよいよ明日私とイザーク、エルクの三人でキエア火山の魔物を討伐しに出掛けるのだ。


 テーブルへ近づくとイザークは書類をまとめて端に置き立ち上がり、私を軽々とお姫様だっこで抱き上げた。


「ちょっと…」

「横になっていた方が眠くなるだろ?」


 そのまま広々としたベッドに降ろされる。なんだか寝付けない子供が親に寝かしつけてもらうみたいな感じになってしまった…。イザークは私の髪の毛に顔を埋めると近くに引き寄せた。


「うん、これなら俺も眠れそうだ」


「イザークも、やっぱり不安?」


「不安という感情が無いと言ったら嘘になる。でもそれ以上にやり遂げなければって気持ちが大きいからな。コトネもエルクスレーベンも協力してくれるから心強いよ、ありがとう」


 イザークの方を向いてぎゅっと腕をつかんで胸に顔を近づけた。心臓の音に耳を済ませ気分を落ち着かせる。


「コトネ、俺は結婚式をすごく楽しみにしてるんだ」


「ええ、私もよ」


「だから絶対に式を挙げたい、この先長い時間をコトネと一緒に年老いていきたい。だから絶対に魔物なんて奴でつまずいてなんかいられない」


「うん」


「約束する、絶対に俺はコトネを一人にしないよ」


 私の瞳には涙が浮かびイザークが滲んで見えた。嬉しさと、愛おしさでイザークの髪の毛に手を這わせると私の頬を暖かい手が包み込んだ。

「ありがとう」そう言う代わりに一度…、二度唇を合わせるとそのままイザークの温もりを確かめ、しばらく話を続けやっと眠りについた。



 ・・・



「コトネ様、キエア火山の標高は高く寒いでしょうから暖かくしていってくださいね」


「ありがとうアンナ。そんな寂しそうな顔をしないで?大丈夫よ」


 私の着替えを手伝うアンナは不安そうにしている。無理もない、私は昨日イザークと話をして何とか落ち着いたけれど城の皆がそわそわしている様子なのだから。


「そうだ!アンナ、帰ってきたらチェリーパイが食べたいわ」


「ええ、そうですか分かりました!とっておきのを焼いてお待ちしていますからね」


「ありがとう、必ず美味しくいただくわ」


 するとここでエルクが「準備は出来ましたか?」と部屋に入ってきた。相変わらず真っ黒なローブを身にまとっているが、今日は左手にエルク自身の身長とほぼ変わらない大きさの杖が握られていた。


 白銀に輝く杖には上部に黄色く透明な石が埋め込まれていて、飾りには細かくいくつもの魔方陣が彫られている。


「その杖は?」


「これは魔力を増幅させる為のものです。念のためと急ぎ用意しました」


 そんなアイテムもあるのかと近くに寄りよく見せてもらった。杖があると益々魔道士といった面持ちだ。

 と、じっくり見すぎたのかエルクかこほんと咳払いした。


「そろそろ行きましょうか?」


「はい!じゃあアンナ、行ってきます!チェリーパイ楽しみにしているわね!」


 エルクと一緒に部屋を出てまっすぐイザークの執務室へ向かって歩く。エルクはいつも通り飄々とした面持ちだけれど緊張とか…しないのかしら?


「コトネ…緊張や不安は大丈夫ですか?」


「えっ…うーん、それはとってもあるけれど、イザークとエルクが一緒なんだもの!心強いからもう考えないようにしたわ」


「そうですか。では私も緊張するのはやめにします!コトネの魔力は十分に高いですから私も心強いです」


 私の心を読んだの!?というようなタイミングでの質問には驚いたけれど、エルクも緊張していたのが分かるとなぜだかほっとした。

 執務室へ入るとイザークもすっかり準備が終わっていていよいよ、キエア火山へ出発する事となった。


「よし、さっさと片付けて帰ってくるぞ」


「「はい!」」


 エルクが杖を降り下ろし床にトンッと音を響かせると、白銀の杖の飾りがシャラっと高い音を奏でて光に包まれた。あっという間に白い煙が充満するキエア火山山頂へ到着した。


「念のため個々に空気の層を作っておきます。では、噴煙を散らしますね」


 エルクがこう言うと体のまわりを新鮮な空気が包み、辺りに立ち込めた噴煙は散らされ目の前に白い石で作られた正四面体の祠が現れた。


「エルクスレーベン、この祠の下が魔物の封印されている場所なんだな?」


「はい、そうです。以前ここには深いエメラルドブルー色の水をたたえる湖がありました。魔物の吐く炎で水が干上がってしまったのですが、ちょうどその窪みを利用して魔物を地中深くへ封印し魔法でまわりを永久凍土にし固めたのです」


「どうやって魔物を外に出すの?」


「手荒ですが、魔法で永久凍土を溶かし魔物を外に出します」


 エルクは私達に「少し離れていてください」と指示すると、イザークは私の腰に手を回し魔法で数メートル離れた。

 私達が離れたのを確認するとエルクは左手に持った杖を降り下ろした!

 すると、氷が蒸発したのか辺りに真っ白な蒸気が立ち込め土砂が大きく動くようなドドドッと低い音が地面を震わせながら響いた。


 イザークが手をかざし目の前の蒸気を分散させるとエルクの前、祠があった先には大きなクレーターが出来上がっていた。


「あっという間に…こんなに大きなクレーターが!?」


「しかし、魔物の姿が見当たらないな……!? すごい魔力だ!」


「! お二人ともお気をつけください」


 イザークとエルクが何かに気付き辺りを見渡す!すると、私の胸元で聖霊の雫石が輝き熱を帯びた!



『キヲツケテ、ウエ』



 私は聖霊の雫石を掴むと大きく声をあげた!


「二人とも、上よ!!」


 その時、私達の上空に立ち込める蒸気の間から赤く輝く丸いものが見えた!



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