62話 キエア火山.2
エルクが紐をほどき丸まった用紙をテーブルに広げる。畳一畳分ほどの大きさの用紙は応接テーブルからはみ出した。
「エルク、これは…?」
用紙に書かれたものは先ほど東の塔で見せてもらった魔法陣に良く似ていた。しかし、基礎や煉瓦に描かれた魔法陣は単調な一つの円の中に模様が描かれたものだったが、エルクが広げた用紙には複数の三角形といくつかの円が重なり、複雑な図形と文字が書かれたとても凝ったものだった。
「これは、私がキエラ火山の魔物用にと長年かけて編み出した魔法陣です」
魔法陣はエルクが眠りから覚める前までは複雑なものは、ほとんどの文献が消失してしまい継承されていなかったので日常に利用されていた簡単なものしか魔界に残っていなかった。
一部複雑な魔法陣は賢者の方々に語り継がれ稀に利用されることはあったけれど、それでも数は少なかった。私もナイトメアの件で見たのが初めてだったほどに。
エルクが目覚めたことにより様々な魔法陣が復刻し今後魔界発展の大きな足掛かりとなるだろうとされている。
その中でもこの魔物用に編み出された魔法陣はエルクオリジナルのものでいずれ自身が亡き後、魔物の封印が解けてしまった際に…と考えていたそうだ。
「複雑だな…これはどのような効果をもたらすんだ?」
「あの魔物は闇を吸い力に変化させています。それをノア様の光の魔法で包み封印したのです。この魔法陣は魔物が溜め込んだ闇の力を吸い尽くし無に変えてしまいます」
「どうすれば発動するんだ?」
「この魔法陣を魔物の胸にかざし、突き刺すのです。魔物は闇を心臓部に溜め込み力に変えていました。そこから直接力を吸い取り尽くせば…今度こそ封印ではなく討伐できます!」
なるほど、とイザークは魔法陣をなぞり考え始めた。
しかし、エルクの説明だと魔物が地上に出てこなければこの魔法陣は使用できない。現状、魔物はまだ封印されている状態なので封印中の魔物を無理に起こす必要があるのかと悩んでいた。
「魔物が力を蓄えたことでキエア火山がの噴火を誘発するとは思ってもいませんでした。今後もし数十年…数百年に渡りまだ魔物が封印された状態にあったとしても噴火は続くでしょう。そのリスクを考えたら魔物の力が戻り切らないうちに手を打つのがよろしいのかと…」
確かに、キエア火山には少数だけれど生き物が生息し、麓には村や魔界の施設もある。延々と噴煙が上がり万が一溶岩が流れ出したら森は燃え、人里に影響が出てくるだろう。
「そうだな…。エルクスレーベンは現在の状況で魔物を討伐できると確信しているか?」
「私の魔力は最大まで戻り切っていませんが、イザーク様のお力は強大です。そして…コトネ様のお力もお借りすることができれば十分に勝算はあります!」
エルクの魔力は永く眠っていた事もあってかゆっくりとしか戻り切っていないらしい。現在は三分の二ほどまで魔力が回復しているという。それとノア様を上回る魔力を持つイザークの力と、私の魔力もあれば大丈夫だとエルクは力強い瞳で訴えた。
私はイザークの手をぎゅっと握りゆっくりと視線を合わせた。
「私も、一緒に行かせて」
心の中で今まで懸命に魔法の練習をしてきた事、魔力を暴発してしまった事で結果より大きな魔法が使えるようになった事を心から良かったと思っていた。
「イザーク様、万が一の時には私が必ずコトネ様をお守りします!」
エルクは立ち上がり胸の前に拳を作りぐっと力強く言った。私達の硬い決心にイザークは私の手を強く握り返して微笑んだ。
「女性二人にそう言われたら立場がないな。大丈夫、コトネは俺が守るしエルクスレーベンにも万が一なんて時が無いよう全力で挑む。お前たち、俺がこの国の王だってこと忘れてないか?俺は国民すべてを守る。もちろんエルクスレーベンもだ。そして、大切なコトネに傷なんてつけさせない」
「私も大切なイザークに傷を負ってほしくないわ。いえ、負わせないわ」
「お二人の幸せな未来をお守りさせてください」
ノア様がこの場を見ていてくださったら何ておっしゃるだろう?時が経ち女性がこんなにも強くなるなんて思ってもいなかったかしら?男性、女性関係なく大切なものを守りたいとき、大切な人の役に立ちたいとき、人はより大きく強くなれる。
「エルクスレーベン、キエア火山をより詳細に調べて魔物討伐の計画を練るぞ」
「はい!すぐに調べます!」
エルクはすぐに情報を集めます!と部屋を駆け出して行った。
「ありがとう、イザーク」
「俺こそ二人に礼を言うよ。皆は俺が絶対に守る。誰の命も捨てさせはしない」
今の私の心には先ほど渦巻いていた負の感情は消えていた。
笑顔でイザークの胸に抱き着き不安を打ち消すように抱きしめると、それ以上の力で強く抱きしめられた。




