61話 キエア火山.1
キエア火山噴火の知らせを聞き、急いで城の屋上へ上がって遥か遠くキエア火山の方向を見てみる。
晴れて霧もないので遠くまでよく見渡せた。遠いので本当に小さくだけれど、地平線から灰色の煙が上がっているのが目視でも確認できた。
サンタさんは袂から小型の望遠鏡を取り出すと長い時間をかけてキエア火山を見てから小声で「大変だ…」と、唸っている。
「誰かを確認へ行かせたのか?」
「はい、エルクスレーベン様が一番に確認すると出かけられました!」
「そうか、それなら安心だな…」
キエア火山の観測を行っている機関から魔法で連絡が来てすぐにエルクは魔法を使いキエア火山の様子を見に出て行ったらしい。ほかにも新しい連絡が届いていないかと急いでイザークの執務室へ戻っていたら部屋の扉を開けようとたタイミングで廊下に魔法の光が輝き、エルクが戻ってきた。焦るようなその顔には噴煙のせいなのか頬が黒く汚れていた。
「エルク!大丈夫なの?」
「イザーク様、コトネ様、ただ今戻りました」
「急ぎ確認してくれてご苦労だった。具合が悪くないのであればすぐに部屋に入って報告を頼む」
エルクは魔法を使い一度手を振ると体中についた噴煙の汚れを綺麗に落とし、私達に続いて執務室に入ってソファに座るとすぐに状況報告をはじめた。
エルクの話によると、まず移動魔法でキエア火山頂上付近に降り立つと、辺りは一面真っ黒な噴煙に包まれていて目視で確認することはできなかったという。有毒ガスは出ていないようだったので風の魔法で周囲の噴煙を散らし、何とか山頂付近を確認すると山の南側に亀裂ができていて、新たな火口が確認できたそうだ。まだ溶岩は噴き出していないけれど、もしかしたら時間の問題かもしれないと言う。
しかし、皆が一番心配しているのは6500年前にキエア火山に封印された"魔物"の存在だ。
「魔物は頂上東側に封印されています。見たところそちら側に亀裂は見られませんでした。しかし…」
6500年前にノア様が封印したドラゴンは未だキエア火山東側に眠ったままだ。ノア様が封印して以降、協力な結界を張り一般人が近づけないようにしているが封印自体を補強したというような記録は過去残っていない。エルクが確かめると封印は時が経ったせいか緩くなっており、南側より立ち上る噴煙からは微量の魔力が確認できたという。
「魔力か…。では、この噴火は単純に火山の噴火ではなく魔物の力が影響しているかもしれないのか?」
「そうかもしれません。キエア火山内部で封印の緩くなった魔物が魔力を蓄え始めた事により火山活動に影響を与えたという見方も十分にできます」
イザークはソファに座ったまま天を仰ぎ、ため息をついた。
まさか6500年守られてきた封印が解けようとしているかもしれないなんて…。私もエルクの話にただ静かに手を口に当てて驚くしかできなかった。
「イザーク様、もしかしたら私が今目覚めたのはノア様の啓示なのかもしれません。キエア火山の件はぜひ!私にお任せください」
この魔物の封印はノア様が自身とエルクの魔力を使い命を懸けて施したものだ、エルクがこの件に積極的になるのは当然だろう。
「ああ、助かる。エルクスレーベンの知識が必要だ。この件はぜひ手伝ってもらいたい。…しかし、己の命を懸けようなんて考えるな?全ての指揮は俺が取る。勝手な行動は控えていただきたい」
「はい、仰せのままに致します」
イザークの横で話を聞いていて、先日エルクが見せてくれたノア様の最期のビジョンがよみがえり、私はそっと目を閉じて手で顔を覆った。今の表情をイザークに見られたくない。きっとひどい顔をしている。
不安、心配、焦り、恐怖…マイナスな事なんて考えちゃいけないのに、駄目だと思うほどどんどん私の中に負の感情が沸いてきてしまう。
その時、私の頭を横からぐっとイザークが引き寄せて強い力で私を横に倒し私はイザークの膝に膝枕されてる状態になった。
「…!?」
「コトネ、心配かけてすまないな。でも信じろ!俺は絶対にコトネを一人になんてしない」
「そうですよコトネ様、私も全力でお手伝いいたします。もうこの魔物の件で二度と犠牲を出してはならないと強く心に誓っています」
目に嬉しさから浮かんだ涙がこぼれ落ち頬を伝った。なんとか涙を一粒だけにとどめてぐっとこらえると目元をぬぐって心に渦巻く負の感情を押し殺した!
「二人とも、ありがとう…!」
イザークの大きな手が私の頭をがしがしと乱暴に撫でるのでなんとか起き上がり笑ってみせると、イザークとエルクはほっとしてくれたのか柔らかな顔を見せてくれた。
「今後の事を考え文献に残そうと考えていましたが…万が一の時の為と研究していたものをお見せします」
そう言うとエルクは魔法を使いすっと空を撫でて一枚の巻物状に丸まった用紙を取り出した。




