60話 地震
結婚式まであと数か月、いよいよ招待状を発送する時期となった。
私たちの結婚式には国外からもお客様をお招きするので一般的な結婚式より随分と余裕をもって発送をする。が、その招待客リストに目を通すのも大変だ。
「こ…これが全部招待状?」
イザークの執務室に置かれた大きなテーブルには山のように招待状が積まれていて、発送直前再度リストを確認するイザークの姿があった。
「ああ。式に1800名、昼食会に1000名、晩餐会に700名ってところだな」
とてつもない数字にクラクラしてしまう。これが異世界から来た私の親族や友人を含まない数なんだからものすごい事だ。王族の結婚式だもの、凄いんだろうなとは思っていたけれど想像以上だわ。
ちなみに招待客皆さんの顔は覚えているの?と聞いたらそんなわけないだろ。と答えが返ってきた。さすがにそうよね。
封をしていない見本の招待状を手に取り中を確認すると、インビテーションにはアマロとアサヒをイメージしたシルエットが印刷されていて嬉しくてつい笑みがこぼれた。
結婚式に関しては魔界のやり方があるだろうし、基本私はお任せしていて口は出していない。
ただひとつ、ドレスは白のウエディングドレスを着たいとだけお願いしておいた。
こちらの世界では結婚式=白という事はないと聞いたからだ。
小さな頃からお嫁さん=無垢な白という刷り込みがされている私にはどうしてもこれだけは!と頼んでみたところイザークは快く了承してくれた。
デザインに関しては素人なのでデザイナーにお任せだ。久しぶりに行われる王族の結婚式とあってか、皆の気合いの入れようは凄まじいものである。
「疲れた!後は他の者に任せて出掛けるぞ!」
「え、どこに?」
膨大な量のリストに嫌気がさしたのか、伸びをして後を側近の方に任せるとイザークは私の手を掴み部屋の外へ歩き出した。窓から見える空は青く明るい日差しが目にまぶしいくらいだ。こんな日に部屋に閉じこもっていたら嫌になるのも分からなくはない。
ショートカットのためか、庭園を抜け歩き着いた先は改修中の東の塔だった。
随分と大がかりな改修のようで、一部の壁は大きく取り払われ新たに増築するのか庭の一部に基礎ができていて、横にはこれから積まれるであろうレンガの山が置いてある。
バルドさんの書斎も中身が空っぽになっていてこの前来た時とは同じ部屋なの?と疑うほど雰囲気が変わっていた。
「リビングを広げて梁を無くし開放的にするよう設計師に頼んでおいたんだ」
「そうなの、出来上がりが楽しみね!」
喜んで広くなったリビングスペースに足を踏み入れた時、グラリと地面が揺れた。
驚いて慌ててイザークへ駆け寄り様子を見守ると少し建物が揺れただけですぐに揺れは収まった。
「地震…よね。震度3ってところかしら?」
「シンド…?」
「あ、日本で揺れの大きさを数値に表すとこれくらいかなって。魔界にも活火山があるんだもの、地震があってもおかしくないわよね」
そういえばこちらに来てから地震を体感したのは今日が初めてでつい驚いてしまった。日本にいた頃はこれくらいなら特に気にもしていなかったのに。
「久しぶりに揺れたな。遠くの地域で大きな地震が起こってないといいんだが」
「そうよね。もし大きな地震が起きたらこちらは煉瓦造りの建物が多いから被害も重大なものになりそうね…」
ふと、今いる東の塔を見上げもしも…などと考えて少し怖くなってしまった。私の様子に気づいたのかイザークは増築部分の基礎が組まれている外へ連れ出した。
基礎はすでに出来上がっていてあとは煉瓦を積むだけとなっているが、イザークが基礎の中央部分に黒く書かれた円陣を指さした。
よく見るとそれは以前ナイトメアの件で見たような魔法陣だった。
イザークの話によると魔界の建物の基礎にはこのような魔法陣が必ず書かれているそうだ。建物の場合書かれている魔法陣の効果は地震等の揺れに対して建物を守るものらしい。横に積み上げられている煉瓦の山から一つ煉瓦をとると、側面にまた少し違った魔法陣が焼き印で印字されていた。こちらの魔法陣は地震等で揺れても煉瓦事態を強固に結びつける魔法陣で、基礎と煉瓦に書かれた魔法陣によってどんなに大きな地震が来てもこれら効果が発動されて建物の倒壊は防がれると言う。
「そうだったのね!とても便利な魔法陣ね…!」
「室内の家具にもこのような魔法陣を書いていれば大体の物の倒壊は防げるんだ。そんなに心配しなくても大丈夫だぞ?」
このよう魔方陣は魔界にたくさんあって、ほとんどの魔方陣はエルク達魔道士の方々が研究、開発したものだと言う。今でも新しいものが日々研究されているとも。
「素晴らしいお仕事ね。改めてエルクを尊敬するわ」
「そうだな、賢者のじい供もエルクスレーベンの知識量に驚いてると言っていた。失われた文献が続々復活したと喜んでたよ」
エルクが仕事をしている場所は私達の居住区とは離れていてなかなか会う機会がないけれど今度会いに行って差し入れでもしようかな!などと考えていた。
しばらく東の塔を見て回ってから執務室へ戻ろうと歩いているとイザークを見つけ、慌てた様子でサンタさんが近づいてきた。
「イザーク様、お話ししておきたいことが…!」
「どうしたんだ?」
「大変です!先程の地震ですが、どうやらキエア火山が噴火したようで噴煙が確認されました!」




