58話 たくらみ
今日は一日休みをいただいている日なので朝から城のキッチンを借りてエルク直伝の”栄養ドリンク”を作っている。
材料の白い花はエルクにお願いして朝一番にアサヒをエルクの家へお使いに行ってもらい受け渡してもらった。私がクッキー以外のものをキッチンで作るのは初めてなのでシェフも何を作っているのかと後ろからたまに覗き込んでいるけれどシェフは回復魔法を使えないので自分には作れないなー、と残念そうにしている。
エルクの家で3回作ったので分量は完璧だ。出来上がったドリンクを手っ取り早く魔法で冷まし、粗熱が取れたところで大きなガラスの容器に移すと5本分、約5リットルもの量ができた。
「シェフ、キッチンお借りしました!有難うございます」
「またいつでもどうぞ!」
アンナが手伝ってくれ片づけをしてからキッチンを後にする。ガラス瓶に中身が入るとなかなかの重さになるので騎士団員さんを3名お借りして運んでもらう。
運び込む先は…
「お邪魔します!ケヴィンはいますか?」
先日ティティの件でお世話になった騎士団詰所へ運び込んだ。普段体力勝負の仕事で疲れているであろう騎士団の皆さんへの差し入れとして作ったのだ。
「コトネ様!すいません、団長は今日お休みなんです。いつもなら休みでも稽古してるんですけど今日は外出してるみたいで…」
「あらそうなの?まぁ、お休みは大切だものね。では、この栄養ドリンクを置いていくのでぜひ皆さんで飲んでください!ケヴィンにもよろしくお伝えください!」
詰所にいた全員が声をそろえて「ありがとうございます!」と元気よく返事をしてくれた。私はインドア派なのでこの体育会系のテンションにはいつもびっくりさせられるけれど元気さが羨ましいくらいだわ。
昼食前に一度自室へ戻ると、イザークがつまらなそうにソファに横になっていた。
「どうしたの?なんだかつまらなそうな顔をしてるわね」
「今日は久しぶりに剣の稽古でもと思ってケヴィンを探したんだが見つからないんだ」
「ケヴィンは今日お休みだと聞いたわよ?」
「それは知ってる。でもいつもなら大体外出もせずに城内にいるんだが…」
ケヴィンは騎士団長という立場もあって城内の一角に設けられた寮のような施設に住んでいる。どうやらいつもなら休みでも声を掛ければ捕まるのに今日に限って城外に出ているようで捕まらないとつまらなそうにしている。
ケヴィンもたまには街へ買い物に出かけたり実家へ帰ったりするのでは?と聞いてみても「うーん…」と考え込んでいる。
「あとは…城外の友人に会いに行ったり?」
「だとしたら、今度誰に会うって話をしてくるんだけどな」
「あと考えられるのは…恋人に会いに行ったり?」
うーん、ともし自分が仕事が休みで外出をするとしたら買い物か友達に会いに行く…あと私はなかったけれど一般的に休みの日はデートに行く人もいるわよね、と話すとイザークはガバッと起き上がった!
「そうだとしたら…興味深いな」
「え?」
イザークが話すには今までケヴィンからそのような浮いた話を聞いたことはないらしい。昔からイザークと一緒に剣の稽古と魔法の練習三昧で休みの日もほぼ城内で鍛練をしていたりして外に出て女性と出会う機会なんてほとんどないのでは?との事だ。
そうは言ってもケヴィンもすでに結婚適齢年齢、そういえばそんな話があってもおかしくないはずだ!と、私の推測を聞いて気づいたのだとか。
「もしそうだとしたら、静かに見守ってあげなくちゃね」
「そうだな。静かに、見守る…か」
ケヴィンはイザークほどではないが…ってこれは私の欲目だけれども。見た目も格好いいし背も高い。職業も騎士団団長という素晴らしいものだからまだ運命の人と出会っていなくても彼女くらいいてもおかしくないわよね。
昼食後、イザークは何をしたいのかふらりと部屋を出たあと自室へは戻らず反対方向に歩き始めた。不思議に思って付いて行った先は騎士団詰所だった。そこでいきなりイザークがやって来て驚く団員達に最近のケヴィンの様子について聞き取りをはじめたのだ。
「特に変わりはありませんよ」「新しい剣を手にしてから稽古により熱心になってます」など、一様に皆おかしな様子はないと言っていたが、一名「そういえば、昨日は今日が休みだとそわそわしてました」と言い出した。気になって「何かあるんですか?」と聞くと「まぁな」と濁され会話は終わったらしい。
それを聞くと満足したのかイザークは自室に戻りどかっと椅子に座り込んだ。
「どうしたの?探るような真似をして」
「俺達は昔からどんな些細な事でも相談しあってきた仲なんだぞ?それなのに今回は俺に何も相談がないなんて、悲しいじゃないか」
「それは…イザークが仕事や私の事で忙しいからと遠慮しているとか…?」
「あちらから言ってこないなら、こちらから理由を探るまでだ!」
そう言い、寂しそうな顔をしたイザークは詰所から貰ってきた騎士団のシフト表を取り出すと自身の執務スケジュールと見比べはじめた。
まさか…とは思っていたけれど、一体どうやって理由を探る気なんだろうか?
「なぁ、コトネ来週一緒に出掛けないか?」
「いいわね!どこへ出掛けるの?」
しばらくシフト表とスケジュールを見比べ予定の調整をしていたイザークは紙から顔を離してにやりと私に笑いかけた。
「それはケヴィンの行き先による」
「それって…後をつけるって事!?」
驚く私にイザークは面白い玩具を見つけたような満面の笑みで「そうだ!」と返事をした。
あぁ、これはもう止められないやつだ…!と私は頭を抱えるしかなかった。




