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55話 魔法使いの弟子?.6

 市が開かれていたメイン通りを後にし、食事処を探す。

 私もお店に詳しくないし、エルクも久しぶりの街なので特に目的の店はなく、お店の前に掲げられたメニューを見ながらゆっくりと探していた。


「うーん、どこがいいかしらね?エルク」


「せっかくの外食ですから私はビールのおいしいお店へ行きたいです」


 そういえば、市が終わってもまだエルクがおばあちゃんの姿だったのはそういう事だったのね。いつも子供の姿しか見ていなかったので、エルクがビールを飲む姿を想像できずにいた。


『ビールのおいしいお店でしたら、昼間小耳にはさみましたよ!』


 籠の中で丸まっていたティティがぴんとしっぽを伸ばしお店を教えてくれた。さすがティティは耳がいいからか、昼間いつの間にか情報を仕入れてくれていたようだ。ティティの記憶どおりに通りを探すと、店の外に設けられたテーブルにまで人が集まり盛り上がっているお店にたどり着いた。


「すいません、二人と猫もいるんですけど入れますか?」


「いらっしゃい!中庭の席はいかが?そこならペットも連れでも歓迎よ!」


 ダメ元でティティも入れないかお願いしたところ、店の奥には芝生を敷いた中庭にテラス席が用意されていた。さっそく席につき店員さんが進めるまま人気メニューをいくつか注文する。


「エルク、お疲れさまでした!乾杯!」


「か、乾杯」


 お店自慢のビールを注文すると大きな木でできたジョッキに溢れんばかり注がれたビールがすぐに席へ届いた!私は久しぶりのジョッキビールにテンションが上がって積極的にエルクと乾杯すると、綺麗な黄金色のビールをゆっくりと口に流し込んだ。


「うん、飲みやすくっておいしいわね…ってエルク!?」


 私が一口ビールを飲みぷはっと一息つくと、エルクはジョッキを口につけてそんなに喉が渇いていたの?というくらい一気にビールを流し込んだ。あっという間にジョッキは高く掲げられ、ほぼ一気で一杯目を飲み干してしまった。


「ふぅ、6000年ぶりのビールは…おいしいです!」


『コトネ様、エルクスレーベン様はかなりの酒豪ですからつられて飲みすぎないように気を付けてくださいね』


 私の膝の上に丸まったティティが思い出したように私を見上げて話した。そ、それは事前に教えておいてもらってよかったわ。急いで店員さんを呼びエルクのお代わりを注文する。

 それと同時に、テーブルには白身魚でできたカルパッチョ、羊肉の香草焼き、揚げたイモにとろりとたくさんのチーズがかかったおつまみなどが並べられた。お店の賑やかな雰囲気も手伝ってかエルクは楽しそうに食事をはじめ、どんどんビールを消費していった。





「だから、私は言ってやったの!”女のくせにっていうけれど、あなたは男のくせに私より劣ってるじゃないか!”って。その時の同僚の顔といったら…!」


 もうエルクは何杯のビールを飲み干しただろう?私は二杯目からはジュースをいただいていたのでほとんど酔っぱらっていないけれど、エルクは随分と酔いが回ってきたのか昔話を始めた。どうやら大昔城に勤めているときに魔導士の同僚男性から”女のくせに”と言われ簡単な仕事しか任せてもらえなかった事を未だに根に持っているらしい。

 どうもエルクは酔っぱらうとグチを言い始めてしまうタイプみたいだ。


「ティティ、そろそろ引き上げたほうがいいかしら?」


『そうですね、この昔話は相当長くなりますからエルクスレーベン様がもっと不機嫌にならないうちに…』


 酔っぱらったエルクの扱いが分からずティティに小声で助言を求めると、私たちのやり取りに気づいたエルクがジョッキに残っていたビールをぐいっと飲み干し「そこ!コソコソしゃべらない!」とお叱りを受けてしまった!!


「は、はいっっ…」


 その後もしばらくエルクの”同僚への怒り”の昔話は続き、何とかキリのよさそうなところで「もう夜も遅いからそろそろ帰りませんか?」と提案すると「あら、本当だもう真っ暗…」と、いい頃合いだったので急いでお会計を済ませてお店を出た。

 人気のない裏路地に入るとティティを肩に乗せ、千鳥足のエルクを支えた。酔っぱらっているエルクに移動魔法をお願いするわけにもいかず目を閉じて集中し、私の移動魔法で無事家の前にたどり着くことができた。


「さぁ、エルク着きましたよ」


 家の鍵をエルクのポケットから出し鍵を開けていると「キュ」とイザークの聖霊が鳴き物干し場にとまった。ちょうど家の前にやってきたところみたい。今日は手紙を書くのも遅れたし、イザークは心配してしまうかしら?なんて考えているとエルクがおばあちゃんの姿になった魔法を解き、いつもの子供の姿に戻った。曲がっていた腰がピンと伸び体の調子を確認するためか2、3度屈伸をしたけれど、顔は赤く息はお酒臭いのでアルコールは全然抜けていないようだ。


「このドラゴン…これが魔王様の聖霊ですね?」


「そう。毎日この時間に来てくれているわ」


 エルクは家の中に入らずふらりと聖霊の側に寄り近くで観察している。今日までイザークの聖霊に興味を示したことはなかったのに、どうしたのだろう?お酒のせい?


「…ア様も…」


「え?何を言っているの?」


 エルクがブツブツと小声で話しているのでどうしたのかと声をかけた。


「…も、ノア様も甘すぎなんですよ!!!」


 急に大きな声でエルクがこう叫ぶとティティが『危ない!』と私の顔に覆いかぶさり視界を防ごうとした。


 しかし、それは一歩遅く私はエルクの視線に捕えられ体の中に一気にエルクの魔法が流れ込んできた───!!

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