54話 魔法使いの弟子?.5
エルクが市を管理している事務所で手続きをしているあいだ、ちらっと他のお店をのぞいてみた。
焼きたてのパンを販売しているお店、とれたて野菜を販売している人、その場でフルーツを切り盛り合わせにして販売しているお店まであった。準備中のお店もまだ多いけれどお客さんはすでに入っていて声かけをしている人もいる。
「コトネ、終わりましたよ行きましょう」
「ひゃっ!!」
エルクがまた音もなく私の後ろから声をかけてきた。声が聞きなれないおばあちゃん声になってしまった事もあって盛大に驚いてしまった。
『ふふっ、今日は年寄りエルクスレーベン様の肩ではなくコトネ様の肩におじゃましますね』
驚く私の肩に持っていた木箱を踏み台にしてティティが登ってきた。さすが猫なだけあって動きはしなやかでスマートだ。ティティを肩に乗せて歩いていると道行く子供が指を指したり、大人がかわいいと撫でてくれたりするのでお店の招き猫にはちょうどよさそうだ。
事務所から指定された販売場所には簡素な机と椅子が用意してあり、日よけ用のテントが張られていた。するとエルクはさっそく椅子に座り込んでしまった。
「この体はすぐに疲れるんですよね。ではコトネ、木箱を開いて机に商品の陳列をお願いします」
「木箱を開いて…?」
木箱に商品を詰めた覚えはないし、明らかに中身はカラなのに…どういう事?と思いつつも台の上に木箱を乗せ蓋を開けると中には整頓され隙間なく並べられた商品が入っていた!
「えっ!?」
エルクが近所のお店の人に聞こえないように小さな声で説明してくれたところによると、どうやら魔法でこの木箱の中と家にある商品はつながっているらしい。家に商品がある限りはこの木箱の中から取り出せると。便利…!と感動しながらも机の上になるべく綺麗に、可愛らしく見えるよう商品を並べていく。念のため近所のお店を観察してプロがどのように配置しているのか盗み見る。
お隣はマフィンとクッキーを出している焼き菓子のお店だけれど、細長い木箱に赤いギンガムチェックの布を敷き商品を詰めて販売している。直接机の上におくだけじゃなくてああすれば可愛らしく見えるのね…と感心していると私の目線に気づいたのか、店番をしている女性が話しかけてきてくれた。
「こんにちは、見ない顔だね?」
「こんにちは。今日初めてここにお店を出すんです!」
「そうなの!じゃあお近づきの印にうちのマフィンを食べて!おすすめはこのイチゴが入ったマフィンとバナナのマフィンよ」
商品の入っている木箱からふたつ、マフィンを手渡してくれた。今朝焼いたばかりなのかほんのりと温かく甘い香りが鼻先をくすぐる。
「あ、ありがとうございます!!」
「あら、わざわざすいません。お世話になります。よかったらうちのジャムも試してください」
座って私達の様子を見ていたエルクが木箱からジャムを取り出すと女性に手渡した。女性は受け取るとにっこりと笑い「お孫さんかしら?かわいらしい子ね!」と話しかると、エルクは「そうなんです、よく手伝ってくれるんですよ」とおばあちゃんを演じていた。なんだろう、嬉しさからかこそばゆくて口角が勝手にあがる。
いただいたマフィンはお昼用に取っておくとして、急いで商品を並べた。お隣のように陳列用の木箱は持ってきていないので、ジャムはピラミッドのように高く積み上げてお店っぽくしてみた。
そして、仕上げに机の端にティティ用のクッションを置き寝てもらえれば準備は完了だ!
「できた!これで…お客さんが来るのを待てばいいの?」
「そうですね。さぁ、コトネもこちら側で椅子に座ってください」
個人的に気分は文化祭なのでワクワクと席について通りかかり目を止めてくれるお客さんに「いかがですか?」と声をかけてみる。
・・・
かれこれ一時間は経っただろうか?間もなくお昼時という時間帯、お客さんの数はどんどん増えて市は大盛り上がりだ。しかし、残念ながら私たちのお店はティティのおかげかジャムに巻いた緑のリボンが目を引いたおかげなのか、ちらほら立ち止まり手に取ってくれるお客さんはいるけれど思っていたほど商品は減っていない。
「なんでだろう?おいしいし、薬も効き目最高なのに」
「どこの人も”なじみの店”があるんですよ。私も6000年前は店を開けば大行列ができたものです」
「そうか、ジャムの味も、薬の効能も初めてのお店だと不安だものね…」
椅子に座りながらしばし考え、立ち上がり木箱の蓋を開けた。手を突っ込みながらキッチンにあったスプーンと薬用のヘラを思い浮かべると手の先に目的のものが触れた!
「?そんなもの取り出してどうするんですか」
「試食と試供よ!スーパーの売り子さんみたいにするのっ」
あ、エルクに”スーパー”は通じないかと思いつつも店の外に出てジャムと塗り薬の瓶を開け、寝ているティティを優しく起こして肩に乗せた!
「さぁ、どうですかぁ?800歳を超えるうちのおばあちゃんが作った特製のジャムと塗り薬です!おいしいし、筋肉のほてりによく効くからぜひ試してください!」
恥ずかしいなんてこと言っていられない。なるべく高く大きな声でお客さんに向かってこう声をかけるとさっそく、立ち止まってくれる。手を出してもらってジャムをひとすくい味見をしてもらい、塗り薬は腕を出してもらってヘラで塗り込み実際に体験してもらう。
「うちのおばあちゃんは最近こっちに引っ越してきたばかりなんだけど、田舎じゃおばあちゃんのジャムと薬を求めて行列ができる有名人だったのよ!ぜひ一度試してみてください!」
言いつつ店の奥で椅子に座るエルクを紹介すると皆一様に”なるほど、このおばあさんなら上手に薬をつくりそうだ”と納得してくれたのか、試してもらったそばから塗り薬が売れ、一緒に栄養ドリンクと腹痛に効く薬、頭痛に効く薬が飛ぶように売れだした!
「これからもここの市には出店するの?」
「猫ちゃんかわいい!触らせて!」
「店の名前は…エルクスレーベンさんの店か、縁起がいい名前だね!覚えておくよ」
「さっそく使ってみるわ!また来るわね!」
沢山の嬉しい言葉をいただいて市が終わる夕方前に商品は全て売り切れてしまった。ティティは途中から昨晩もお出かけしていて寝不足なのか、エルクの膝の上に丸まって寝てしまったけれど招き猫効果も十分あったようだ。
「う…売れた!」
「コトネは販売もお上手ですね。まさか初めてで完売するとは思っていませんでした」
淡々としゃべるエルクだがどことなく声色が高く、嬉しそうにしゃべっている気がする。
「試食と試供で蓋を開けてしまった分は私が買い取ります!」
「いえ、すばらしい販売戦略でした。私も勉強になりましたので気にしないでください」
お金をまとめて木箱にしまい、机の上を綺麗にし家に帰るかと思ったらエルクが「今日は外食をしますか」と提案し指を振って木箱だけ家に転送してしまった。エルクとの親睦をより深める為にも!と喜んで首を縦にふってついていった。




