52話 魔法使いの弟子?.3
翌日、空は青く雲ひとつないすばらしい天気になった。
エルクは日の出と共に起き出すと朝食を作り始める。食材を切る音、フライパンで肉を焼く音と匂いにつられて私も随分と早く起きてしまった。
昨晩も早く寝たから睡眠は十分とれてるので起きて一緒に朝食をいただき、朝食後はエルクに言われる用事を片付けていく。
まずはベッドのシーツをはがして小川へ持っていき洗濯をはじめる。ざぶざぶと泡立てて水にさらし、魔法でぎゅっと水を絞る。それを2回ほど繰り返して洋服等と一緒に家の前につくられた干場に干す。洗濯機はないけれど、魔法で水を絞ったり干したりができるのでそんなに苦にはならない。
むしろ青空の下体を動かすのは久しぶりで、綺麗になって風にゆられる洗濯物を見上げると清々しい気分だ!
そして、次は家の中を掃除する。ソファにたくさんついたティティの毛に苦戦しながらも埃を外へはきだし水回りを丁寧に磨く…といっても、まだ引っ 越してきたばかりの綺麗な家なのでそんなに汚れてはおらず掃除はすぐ終わってしまった。
そんな私の様子を見ていたエルクは驚いていた。
「洗濯も掃除もお上手ですね」
「ありがとうございます。元いた世界では一人暮らしをしていて全て自分でやっていましたから、大体のことは出来ると思いますよ」
ふと、手に持ったブラシを見つめてアサヒにも森林浴をさせてあげたいなと思った。
「お天気で気持ちいいので、私の使い魔を出しても良いですか?」
「どうぞ」
手をかざしアサヒを表に出してあげると、外に出るなり一度大きく伸びをしてアサヒはエルクに挨拶するように近づいた。
「思っていたより大きく育っていますね。魔法は得意でしたか」
エルクはアサヒの頭を撫で、体のあちこちを触りながらぐるりと歩き、アサヒをくまなく観察している。
「得意…とまで言っても良いのか分かりませんが城でしっかりと教えていただいてます」
これはエルクに誉められていると思っていいのかしら?そうであればいつも教えてくれている賢者さんとケヴィンに大感謝だ。
アサヒの気配を感じてか、寝ていたはずのティティが外に出てくる。
『使い魔の気配がしたので来てみたら、綺麗な使い魔さんですね!私と反対のまっ白さんですねー!』
嬉しそうにアサヒに駆け寄ると互いに匂いを嗅ぎあって挨拶をしているようだ。
「私ずっと気になってたんですけど、ティティはエルクの使い魔だから魔力が高いはずなのに何で猫のままのサイズなんですか?」
使い魔は持ち主の魔力が高く使いこなすことができればその分大きくなる。現にアサヒも成長しているのでずっとティティの事が気になっていたのだ。大きさは成猫程度だし、しかも喋ることもできている。アサヒも、もしかしたら…!?
「…ティティは特別な子です。私が子供の頃に飼っていた猫が器なのでこれ以上成長はしません」
「猫が器…?」
「はい。私が魔道士になるきっかけを与えてくれたのもこの子です。子供の頃、亡くなってしまったティティを生き返らせたくて…試行錯誤の上、使い魔にすることに成功しました。当時は子供だったのでやって良いこと、悪いことが分かっていませんでした。本当はいけないことなのは良く分かっています。私は亡くなった者を器にして使い魔を産み出す方法を死ぬまで口外することはありません。なので、今聞いたことも…秘密にしておいてください」
言いたいことは分かる。もしこの方法を悪用する人がいればもしかしたら…亡くなった人だって使い魔として生き返らせることができてしまうのかもしてない。
「そうだったんですか。でも、どうしてそんなに大切なことを私に…?」
「気まぐれです。無理矢理私に付き合っていただいていますし…。誰かに喋ってしまいそうならば…今ここでコトネの記憶を置き換えさせていただきますが」
すっと手を前に出して私の頭の方へかざす。驚いて両手を口に持っていき絶対に喋らないと約束する。喋る気もなかったけれど。
「じゃあもうひとつ、喋れるのは何故ですか?」
正直、こちらの方が気になっていたので人差し指を立ててあと1つだけ!と聞いてみた。
「それは…正直私も分からないんです。元々よく鳴く子だったのですが、使い魔になってからは言葉を話すようになったんです。私の魔力が良いように作用したのかなと思ってます」
「残念。私のアサヒもお喋りしてくれるようになるかなと思ったんですけど」
「…たまにうるさい小姑みたいになりますよ」
ぷぷっ!と笑いが込み上げてきて止まらなかった。昨日の話し以降少し心を開いてくれているのかお喋りが増えている気がする。イザークへの手紙に仲良くなれてきていると書いても問題なさそうだ!
「コトネの魔力が高いので、それを生かした商品を一つ作って市で販売しましょうか」
「はい、わかりました!」
ティティがアサヒの側でお昼寝を始めてしまったので二人だけで小川まで歩き魔法で反対側へ渡ると白く細かな花が咲いた木が群生している広場に出た。
高さは3メートル程あって、近くに寄るとマスカットのような爽やかな香りがする。
「これは高さがあるので魔法で結構です。花の部分だけを篭いっぱいにとってください」
魔法でいいと言われたので篭を胸の前に持って木を見つめてイメージして、風の魔法で白い花の部分のみふわりと摘む───。
「こんな感じでしょうか?」
どこからともなく吹いてきた風はあっという間に静かに枝を揺らしながら花を詰み、篭いっぱいに白い花がとれた。
「はい、大変すばらしいです。戻りましょうか」
魔法を使うと本当にあっという間にとれてしまう。心の中で種をつける前に花を摘み取ってしまったので木にお礼をしつつ、スタスタと先を歩くエルクを追いかけた。
家に戻るとエルクはまた大きな鍋を取りだし、魔法で水を半分まで溜めるようにと指示をした。手をかざして流れる清流をイメージをすると、鍋の底からゆっくりと水が溜まる。言われるがまま火をつけて水を沸騰させると先程とってきた花を一気に鍋にいれる!
「ここでこの鍋の中に癒しの魔法をかけてください」
「この状態で?」
ぐつぐつと煮える鍋に花が煮えている。「ほら、早く」とエルクに急かされたので言われるがまま鍋に手をかざし、癒しの魔法をかける。光が弾けて鍋の中に消えるとエルクは火を止めて鍋を持ち上げ、大きなボウルに布を置き花を濾しながら中身を移していく。湯気が部屋中に広がって湯煎された花の甘い香りが部屋中に広がる。
鍋の中身を全て移し終わると布を取る。ボウルの中には薄緑色の液体が出来上がっていた。
「これで出来上がりです。冷めたら瓶に移しましょう」
「これは何ですか?」
「コトネの魔法で抽出した水に癒しの魔法をかけたでしょう?この花の効能と合わさって疲れた時に飲むと体を癒してくれる効果がある飲み薬になるんです」
つまり、栄養ドリンクってことかしら?魔法の効果を薬に反映できるとは驚いた!
「書き物や読み物で疲れた時にも効きますか?」
「ええ、目の疲れや肩の疲れも和らぎますよ」
大きなボウルいっぱいにできた薬は瓶に積めたら何十本という数になるだろう。1本貰うことを了承してもらって使い終わった鍋を片付けた。
・・・
「えっと、今日はアサヒとティティが仲良くなったこと、エルクとたくさんお喋りしたこと、魔法で飲み薬を作ったこと…辺りが書けるわね」
手紙に向かってペンを走らせる。こちらの世界ではボールペンがないので勉強中も常にガラスペンを使っている。随分とガラスペンで書くことにも慣れてきて最近はインクの染みを作ってしまう事も減ってきた。
イザークの綺麗な字程ではないけれど、なるべく丁寧に心を込めて文章を繋ぐ。そして、最後にイザークの受け売りになってしまうが、私も"愛を込めて"と書く。文字なのに顔が熱くなってしまう。
会えない間手紙のやり取りだけなのは寂しいけれど、何度も読み返して手紙の向こうにいるイザークを思い浮かべる。そうすると不思議とより強い絆で結ばれているような気がするのだ。イザークも同じように思ってくれているだろうか?
外に出ると今日もすでに聖霊が来てくれていた。今日は手紙に深紅のバラの花が添えてあった。受けとってから篭を持って帰ってもらう。中には手紙と今日作った飲み薬が入っている。いつも執務で忙しいイザークに一番に飲んでほしかったからだ。
「今日もよろしくね」
籠を首からぶら下げて静かに飛び立つ聖霊の後ろ姿を見送ると
美しいバラの香りを嗅ぎ、わくわくしながら手紙の封をあけた。




