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48話 眠りから目覚めた魔導士

 黒猫が保護されてから早5日、情が沸いてしまうからと言われ名前は付けず”ねこちゃん”と呼んでいる。


 夜は24時間人のいる騎士団詰所で保護しているけれど、昼間は常にイザークの側にいる。毎日朝食後にカゴに入れられイザークの新しい執務室へご出勤するのだ。

 ねこちゃんは基本カゴの中でおとなしく寝たり毛づくろいをしていたりとぬいぐるみのように静かにしている。しかし、イザークが部屋から出ていこうとすると「なぁーん」と鳴きまるで”自分も連れていけ”と言っているようだ。イザークが部屋から出るときにはその後ろに執事に抱えられたねこちゃんがいるのが当たり前になってきている。


「すっかりこの城のアイドルになったわね」


 今日は朝から雨が降っていて昼間なのにどんよりとしている。

 昼食後、私が部屋で読書をしているとイザークが入ってきた。もちろんカゴに入れられたねこちゃんも一緒だ。


「珍しいからだろ。怪我が治ったら飼ってくれる者を探さなくてはな」


「そうなのよね。いつまでもお城にって訳にはいかないのね…」


 しんみりとねこちゃんの頭を撫で顎下をなでると「ゴロゴロゴロ…」と気持ちよさそうに目を閉じて喉を鳴らす。

 うっとりするねこちゃんの表情を見て和んでいたら、突然ねこちゃんは目を見開いてその場に立ち上がった!




『眠りから、目覚められました!!』




 ねこちゃんは私の膝の上からポンっとテーブルに飛び乗ると窓を見上げて口を開き、いつものように「なぁーん」と鳴くかと思ったらしゃべりだした!

 イザークも驚き、とっさに私の前に手を伸ばし守るような姿勢をとった。


「お前…何者だ!?」


『失礼しました、魔王様。私の主人であるエルクスレーベン様がただ今長い眠りから御目覚めになりました。そのおかげで魔力が戻り言葉を話せるようになりました。私は魔王様に我が主人の目覚めをお知らせすべく参っていたのです』


 ねこちゃんはテーブルに座り、前足をちょこんと揃えるとこう言いながら深々と頭を下げた。


「「エルクスレーベン!?」」


 私とイザークの言葉が重なった。エルクスレーベンと言えばつい最近勉強中に出てきた名前だ。もしかして…?まさか…!

 窓から明るい日差しが降りそそぐ。いつの間にか雨が止み太陽が顔を出していたのだ。


「ねこ、どういう事だ?」





「それは私から直接お話ししましょう」





 イザークはねこちゃんにしゃべり掛けながらも私の前に出した手を下げずに警戒している。

 すると、どこからともなく女性の声がして窓からより強い光が室内に入り、私たちが座るソファの向かいに真っ黒なローブを着た一人の人物が座っていた。


「誰だ!?どうやって城の結界を乗り越えた!」


 イザークは立ち上がり私の前に立ちふさがった。すると目の前に座っていたローブの人物もゆっくりと立ち上がりフードをおろす。

 立ち上がる人物の身長は小さく小学校低学年のようだ。赤毛の髪の毛を肩下まで伸ばし、ねこちゃんと同じ黄色の瞳をしている女の子だ。ねこちゃんはテーブルから女の子の座っていたソファに飛び乗りこちらに向かって一緒に最敬礼をする。


「私は、魔導士エルクスレーベンでございます。永き眠りからただいま目覚めましたので突然ではございますが、ご挨拶に参りました」


『使い魔のティティでございます』


「魔導士エルクスレーベン?永き眠りとは何だ…?」


 私もイザークも信じられないといった顔をしているだろう。そんな私たちに顔をあげたエルクスレーベンと名乗る女の子は語りだした。




 魔道師エルクスレーベン、そう名乗る女の子は約6500年前にノア・グラフ・クラストフと共にキエア火山に魔物を封じ込めた魔導士本人だと言う。

 約6000年前に諸事情から時の空間の中で使い魔ティティと共に眠りについていたらしい。ティティが先に眠りから目覚めたが、主人が目覚めていない状態では猫の姿をとどめるのが限界でなんとか城へ行き主人の眠りが間もなく覚める事を現在の魔王に伝えるべく歩き出したが罠にかかって怪我をしてしまったらしい。しかし、幸運にも騎士団に拾われ今に至ると言う。

 エルクスレーベンは第7代、8代魔王に仕えていた身で現在も王に仕える身であるということから、目覚めて一番にイザークの元へ挨拶に来たと説明した。



「そうか、しかし魔導士エルクスレーベンが眠りについていたなどという文献が残っておらず、そうやすやすと信じられないんだが…」


「…6000年もの間に私についての資料は消えてしまったのですね」


 エルクスレーベンが人差し指で二度空を撫でるとテーブルに一枚の古びた紙が現れた。

 イザークが手に取り確認すると第8代魔王の名でエルクスレーベンを国の最高魔導士に任命すること、魔導士として城に仕える事が書かれていた。契約書のようなものだ。

 そこに押された王家の紋章は現在のものと同じで容易に偽造できないものである。

 しかしこの契約書があれば城の結界を乗り越え入ってくることができる。

 信じられないけれど…本当に魔導士エルクスレーベン本人のようだ。




「あの、エルクスレーベンさんは失礼ですが…おいくつになられるのですか?」


 緊迫する空気の中、おずおずと手を挙げとても気になったことを聞いてみた。イザークは廊下にいる警備に賢者の人を部屋へ連れてくるように命令し話は現在平行線なのだ。

 アンナが出したお茶をすするとエルクスレーベンさんは無表情で私を見つめた。


「この体ですが、すでに800歳を超えています。…失礼ですが、あなた様は?」


 どうやら私の事は目に入っていなかったようだ。イザークのすぐ横にいたんですけどね、空気になっていてすいません!


『ご主人様、彼女は現第19代魔王の婚約者様であられますコトネ様です。彼女は異世界から召喚された者です』


 私の代わりにティティが話し出した。”異世界から”の部分で無表情だったエルクスレーベンさんの眉がすこし動いた気がした。



「ところで、エルクスレーベン殿は約6000年の眠りから目覚め今後どうする予定なんだ?」


「契約では私は未だ城に仕える身ですから仕事があればこちらでお世話になります。あとは…まぁ薬を販売していけば城での仕事がなくても生活はしていけます」



 ここでようやく賢者のサンタさんとカーネルさんが部屋に現れた。エルクスレーベンが眠りから覚め現れたと聞きやはり二人ともとても驚いている。

 彼女のもっていた契約書、その他にも王とやり取りした書類をいくつか出され確認したところやはり本人だということになり二人は感激した様子だ。

 ちなみに約4000年程前に城の書庫から火の手が上がり消火が間に合わずに燃えてしまった本や書類があった記録があり、エルクスレーベンさん関係の文献もこの際に無くなってしまったのではないか?との事だった。



「そうか…疑って悪かったエルクスレーベン殿。ひとまず今後の件は少し時間をいただいてもいいかな?急に最高魔導士が現れこちらも驚いている。ぜひ今後も契約は継続していただきたい」


「はい、かしこまりました。王がそうおっしゃるのでしたらそれに従います」


 時刻はすでに夕刻だ。イザークが城に部屋を設けようと申し出るとエルクスレーベンさんは共同生活が苦手なので一人で過ごしたいと申し出を断った。差支えなければ、王が所有する森の一部を貸してほしいと。


「そう言うのであれば止めはしない。森もよかったら城の裏の森であれば好きな土地を使ってくれ」


「ありがとうございます。川と、大きな木と少しの草原がある場所をお借りします」


 エルクスレーベンさんは終始落ち着き淡々と話を進める。城に現れた時から今までずっと無表情を貫いている。緊張しているのだろうか?こういう性格なのだろうか?

 カーネルさんが城周辺の地図を広げると、住むのに最適な場所を提案すると「ではここにします」と彼女の住む場所はきまったみたいだ。



「それと、コトネ様とおっしゃいましたね?」


 横で座り話を聞いていた私のことをエルクスレーベンさんは黄色い目でじっと私を見つめる。まるで猫に見つめられているようだ。急に見つめられてどうしていいのかわからずゆっくりと姿勢を正した。


「はい、そうです」




「しばらく彼女をお借りしたいです」




「「「えっ!?」」」



 イザークと私、アンナの驚く声が重なった。



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