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42話 腕輪

「コトネ様、おやすみ前に失礼します」


 ランプの灯りを手にアンナが部屋にたずねてきた。間もなく寝ようかとしていた時間だ。


「どうしたの?」


「今日お召しになっていたドレスに忘れ物が入っていました。お探しになっているかもと思いまして」


 そう言ってアンナは私にある物を手渡し「おやすみなさいませ」と再び部屋を出て行った。


 私の手には昼間"魔法のゲーム"の中で拾った腕輪が握られていた。


「これ、本物だったのね…」


 ゲーム中のアイテムか何かだと思っていたし、ネズミの事ですっかり頭の中から忘れ去られていた。どうしようかと今考えても仕方ないので腕輪をサイドテーブルに置いて就寝した。



 ・・・



「あれ?」


 目を開けると見覚えのない部屋のソファで横たわっていた。むくりと起き上がり考えてる…。服は寝巻きのままだからこれは現実?そう考えていたら瞬きした次の瞬間、ドレスに変わっていた。なんとも都合のいい!

 頭の隅にモヤがかかったような気分がする…ここは夢の中なのだろうか?


 部屋に家具は少く大きなソファとテーブル、白いクローゼットに同じデザインのドレッサーが置かれている。鏡は閉じられているが櫛やヘアピンが置いたままなので先程まで誰かが使っていたのだろう。

 ここはどこかと気になり窓の外に目を向けた。

 崖と…遠くに見える岩山の数とその形は見覚えがあった。


「これ、お城から見える風景と一緒だわ。でも…森の様子は少し違うわね」


 考え事をしているとガチャリと扉が開いた。


「では、今しばらくお部屋でお待ちください」


 一人の女性が部屋に入ってくる。クラシカルな落ち着いた水色のドレスを着た美しい女性だ。黒い髪の毛をハーフアップにまとめている。扉が締まると女性はふうっとため息をついて前を向いた。

 ───目があった!


「あ、のこんにちは!突然お邪魔してすいません!わたし…」


「あら、あなた聖霊か何かの類いかしら?」


「え?」


「ほら、だって体が透けてるわよ。この城ではもう何が起こっても驚かないわ」


 女性はすっと私の横を通りソファに座った。急いでドレッサーの扉を開けて近くで鏡を見てみると私しか写らないはずなのに、私の体に重なってソファに座った女性がうっすらと透けて見える!

 やっぱり夢だ…へんてこな夢だ!


「まぁいいわ。折角だからお話相手になってくださらない?」


 驚いた!私は自分に何が起こっているのか分からずあたふたしているのに目の前の女性は私を見ても驚かずすんなりと受け入れたのだ。

 …やっぱり夢だから?もうこの際受け入れて夢が覚めるまでやり遂げるしかないか、そう考えた。


「はい、私でよろしければ」


「良かった。私はアナスタージアよ。聖霊さんにお名前はあるのかしら?」


「コトネと申します」


「素敵なお名前ね。…コトネさん、私の悩みを聞いてくださる?」


 アナスタージアさんは私ににっこりと話しかけながらもどこか元気はなく落ち込んでいる様子だった。きっと私がこんな夢を見ているのはアナスタージアさんの話を聞く為なのだろう。


「私でよければ勿論です」


「ありがとう…来週この城で私の結婚式が行われますの。夫となるサファナイト様はそれは素晴らしい方です。でも、私は平民の出身で余りにも身分が違いすぎて本当に妻としてやっていけるのか不安になってしまうの…。サファナイト様を本当に愛しているからこそ私が足手まといになってしまわないかと考えると…今更なのだけれど不安で胸が苦しいの」


「サファナイト様?」


 え、ちょっと待ってそれって?続けて口を開こうとしたらドアがノックされた。また誰かが入ってくる!?そう思い振り返った。


「アナスタージア」


 扉からは一人の男性が入ってきた。ブルーの髪をなびかせその間からは見たことのある角が生えている。


「サファナイト様!来てくださったんですね」


 アナスタージアさんは立ち上がるとサファナイト様と呼んだ男性の胸に飛び込んだ。


「どうした?緊張しているのか?元気がないようだね」


「緊張…なのでしょうか?私、本当にサファナイト様に相応しいのかと考えてしまって不安になってしまいました」


 サファナイトさんはアナスタージアさんを強く抱き締めると手でアナスタージアさんの頬に触れ涙をぬぐい、軽くキスをした。


「この一年私のために懸命に花嫁修行をしてくれただろう?もう誰もが知っているよ、君は素晴らしい女性だって。来週アナスタージアが僕の妻になってくれる事を国の皆が楽しみにしていてくれるんだよ。自信をもって」


 ソファにアナスタージアさんを座るよう促すと隣に座り何かを取り出した。

 それはアナスタージアさんの腕にするりとはまる。


「アナスタージアの為に作ったんだ、結婚式に間に合って良かった。

 君と僕の瞳の色に似た石を探したんだよ。これからずっと喜びも悲しみも全てを私と分かち合ってくれ。私もアナスタージアの不安を分かち合おう」


「サファナイト様…!」


 アナスタージアさんはサファナイトさんの胸に顔を埋め「愛しています」と呟いた。




 ・・・




「───!!」


 目を覚ました。寝起きだけれど頭の中はクリアだ。

 さっきまで見ていた夢は何だったの…?まだはっきりと覚えてる。サイドテーブルの腕輪を見ると、きっと私に教えてくれる為の夢だったに違いないと思わせた。


「この腕輪は先程の夢に出てきたものと全く一緒だわ」


 窓の外はまだ夜が明けたばかりのようで薄暗くシンと静まり返っている。

ガウンを羽織って目を閉じ、心の中で強く念じた───!





「イザーク、ねぇ、おきて」


 まだベッドで寝ているイザークの部屋に移動魔法でお邪魔すると驚かさないよう小さな声で起こす。


「ん…コトネ?どうした、怖い夢でも見たのか?」


「怖い夢じゃなくて、不思議な夢を見たのよ。イザークに聞きたいことがあって…来ちゃった」


「何を聞きたいんだ?」


 イザークは体を起こさないまま私の腕をつかみ引き込もうとする。


「ちょっと…あのね、過去にサファナイトさんとアナスタージアさんって王様と王妃様がいたのか聞きたいのよ」


 懸命に抵抗しながら早口で質問する。私の抵抗はイザークにとっては本当にささやかなものだったようであっという間に捕まってしまった。


「どこでその名前を聞いたんだ?アナスタージアは祖母の名だ。サファナイトは祖父の名で、俺の名前にも組み込まれてる」


 満足そうに私の頭を撫でながら眠たげな声で答えてくれる。私は顔の前に"魔法のゲーム"で拾った腕輪を出してよく見て、と押し付けた。


「やっぱり!この腕輪アナスタージアさんの物だわ!」


「どういうことだ?」



 ・・・



 まだ城内に人の気配は少ない。

 イザークは私が立ち入ったことのない広間へ案内してくれる。


「俺もめったに入らないがここには歴代の王の肖像画が飾られてるんだ」


 重そうな扉を開けるとたくさんの肖像画が目に飛び込んできた!

 どれも私の身長より大きな絵だ。あまりの迫力に驚いてしまう。


「あっ!」


 正面にはイザークの肖像画が飾られている。少し顔つきが幼い。その横にはバルドさんとエーリアルさんの肖像画も。画家の人の腕もあるのだろうが美しくて見とれてしまう。


「俺が王位に就いたばかりの頃に描かれたものだ。コトネと結婚したら父と母のように二人で描いてもらおうな」


 エーリアルさんの頭の上には王冠が輝き正に王妃様といった感じだ。更にその隣の肖像画につい声が出てしまった。


「サファナイトさんとアナスタージアさん!」


「夢に出てきたって言ってたな?」


「そうなの。全くこのままよ、見てここ!」


 二人が若い頃に描かれた肖像画を近くでまじまじと見つめるとアナスタージアさんの腕には私が手にした腕輪と全く同じものがはめられている!


「同じものだな!腕輪が持ち主を教えてくれたのか…?魔法がかかった本の中にずっとあったから腕輪にも少しの魔力が宿ったのかもな」


「持ち主が分かって良かった。何なのか分からなかったらきっとクローゼットに眠ることになっていたわ。この腕輪はサファナイトさんからアナスタージアさんへの贈り物だからとても大切な腕輪だもの」


 腕輪を肖像画と見比べているとぽんぽんとイザークが頭を撫でてくれた。


「祖母の持ち物だから念のため父に手紙でどうするか聞いてみるよ。それまではコトネが持っていてくれ」


 わかったわ、と返事をし今度はポケットではなく腕に通した。日が昇ってきたのか窓から差し込む光に青色の宝石が喜ぶように輝いている。

 二人の肖像画はもう一枚飾ってあった。髪には白髪が混じっているので晩年の頃に描かれたものだろう。二人はしっかりと手を繋ぎ幸せそうにしている。不安そうにしていた若きアナスタージアさんに何も心配はいらない、そう教えてあげたくなった。



「よし、二度寝するか」


「え?まだ寝るの?」


「昨日は遅くに寝たのにコトネに起こされてしまったからな。」


「そうだったの…ごめんなさい」


 肖像画の広間のドアを閉めるとイザークは移動魔法で私ごと自分の部屋に移動した。


「コトネが添い寝してくれるなら許すよ」


「───っ!?」



 こんな私たちのやり取りをきっとサファナイトさんとアナスタージアさんは頬笑み見守っていてくれているだろう。


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