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41話 魔法のゲーム

 生活拠点を魔界に移してから約2カ月が経った。初めの頃は仕事に行く夢を見たりもしていたけれど最近はそれもなくなった。

 嬉恥ずかし、イザークとの結婚式の日取りも決まり充実した日々を過ごしている。結婚式はあと10カ月後なのでまだあまり実感はないのだけれど。しかしイザークの隣にいてふさわしいと思ってもらえるような女性にならねばと魔法はもちろんその他勉強にも気合が入るこの頃だ。


 部屋に一人でいるとドアがノックされた。


「コトネ、今日は休みなんだろう?今から東の塔に行くが一緒に行かないか?」


「東の塔?」


 この城の東には現在使われていない塔がある。

 以前はバルドさんとエーリアルさんの住まいとして使っていたそうだが、二人が聖霊界へ移住してからは物置のようになっていたらしい。

 この東の塔を改修して結婚式後、イザークと私の新居にする為に残った荷物を整理しているのだそうだ。今後新居になると聞いたら気になってしまったので一緒について行くことにした。


「イザークも昔東の塔に住んでいたってこと?」


「子供の頃は家族3人で住んでたが別の塔に自室を与えられてからはあまり立ち入ることはなかったから本当に久しぶりに入るよ」


 バルドさんが今住んでいる聖霊界にある書斎には本がたくさん並んでいたが、昔から本が好きで東の塔にも聖界へ持ちきれなかった本が山のようにあるそうだ。整理をしつつ気になる本や貴重な本を書庫へ移動するらしい。

 東の塔の入口に着くといつもは締まりっぱなしの大きな扉が開きすでにいくつかの家具が外へ運び出されていた。メインとなるリヒングルームはカーテンが取り外されて窓が開け放たれているからか開放的だ。


「窓が大きいのね。すごい!専用の池までついてるのね」


 窓からは広い庭がよく見え今は水が抜いてあるが噴水とそれに続く池まである。一応人が住んでいないながらも管理されていたようで芝生は綺麗に刈られている。


「母が気に入ってたみたいだ。庭もコトネが好きなようにしていいぞ」


「この噴水と池はこのままがいいわ!ちょっと育ちすぎた木は植え替えたりしたいわね」


 頭の中で想像が膨らみ楽しくなってきた。日本で一人暮しをする際に物件探しをした時のわくわく感にも似ている。イザークは奥にある部屋の扉を開けた。この部屋が問題のバルドさんが使っていた書斎らしい。

 扉を開けると書斎にははまだ家具もおいたままでカーテンも取り外されておらず薄暗い。…というか床にもあちこちに本が山のように積まれていて足の踏み場がない。これじゃあ手は出せないわね、と納得してしまう。


「これは想像以上だな」


 イザークは入口で少し考えてから、まずは床に積まれている本を外に出すことにしたようだ 。


「コトネ、少し危ないから端に寄っていてくれ」


 私が壁際へ移動すると風の魔法で次々と床に置かれた本をリビングへ移動する。本当に魔法は便利だ。これが日本だったら延々と手で本を運び出さなければいけないのでそれだけで日が暮れてしまうだろう。本といえども結構な埃が積もっているので私も魔法で部屋の空気を入れ替えた。


「よし、これで中に入れるな…とりあえず出した本を仕訳するか」


「仕訳はさすがに魔法って訳にいかないものね。今日中には難しそうね」


「ちょっと父を恨むよ」


 リビングには床に散らばっていた本が山になっている。そんなことを言いつつも本の背表紙を見ながら仕訳をはじめたイザークは宝物探しをしているような目をしていて楽しそうだ。私は床が見えるようになった書斎に足を踏み入れてみる。まるで本屋のようだ。棚にはまだ本が詰まっていて入りきらない本が棚の上にも更に積み上がっている。


「これ、バルドさんは全部読んだのかしら…?」


 魔族は寿命が長いので読む時間は沢山あるだろうがこの量を読み終えるには一体どれだけの時間が必要なのだろうか?窓際まで足を進めカーテンを開ける。光が入ったからか足下で何かがキラリと光った。何となく気になったので膝をついてしゃがみこみ棚の底を覗いてみる。

 底の隙間に一冊の本が入り込んでいた。手を伸ばして取り出すと白い表紙の本には金具がついていて南京錠でロックができるようになっていた。しかし南京錠の鍵は無くしてしまったのかついておらず、簡単に金具が外れる。


「"魔法のゲーム"か…。どんなのかしら」


 表紙を読み興味本意で適当なページを開く。


 ───と、目の前に文字が迫ってくるような不思議な感覚に教われ目眩がして目を閉じた!


「えっ?」


 手に持っていたはずの本が消え目の前にはただのガランとした白い空間が広がっていた。


「何で!?どこかに飛ばされちゃったの!?」


 前も後ろも右も左も真っ白だ!

 突然の意味不明な出来事に頭を抱えていたら目の前に突然人が現れた!白いマントに身を包んだ老婆だ。


『いらっしゃい。これからゲームをはじめるよ。遊び方は分かるかい?』


「ゲーム!?何の事ですか?」


『おや、初めてかい。なぁに簡単だよ。ここは魔法は禁止だよ。ゲームをクリアしたらそれでお仕舞い。途中でリタイアする時は指をパチンと鳴らせばそれでお仕舞いさ。さぁ、楽しんで』


「ちょっと、まってください!」


 私の言葉は聞いてくれないのか老婆は一方的に話すとパッと消えてしまった。また一人真っ白な空間に取り残された…と思っていたらまた目眩がして思わずしゃがみ込み目を閉じた。


 目眩がなくなり目を開けると足もとには芝生が広がり、私の目の前には青々とした生垣がそびえ立っていた。生垣の高さは3メートルくらいあるだろうか?全く上も先も見えない。目の前の入り口になっている生垣の先は左右に分かれている。


「これは…迷路!?」


 最後に手にしていた本の表紙には"魔法のゲーム"と書いてあった。魔法でゲームの空間に飛ばされてしまったって事!?それより何より老婆はクリアするかリタイアする道もあるって言っていた!

 だけど、リタイアに必要なのは…


「私、"指を鳴らす"の出来ないんだけどっ!?」


 試しに左右の指を弾いてみるが"シュッ"と指の摺れる音がするだけでどうやっても"パチン"と鳴らない!って事は、私はこの迷路をクリアするまで帰れないって事!?


「もぉー!早くクリアしなくちゃイザークが心配しちゃう!」


 意を決して迷路の中へ入り込んだ!



 ・・・



 この迷路はどれくらいの大きさなのかしら?

 右に、左に真っ直ぐに…とりあえず勘であちこち進んでは突き当たりにぶつかって引き返す。これの繰り返しだ。途中からダメだった道には目印としてちぎった生垣の葉を置いて再び迷い込まないようにしたけれど出口らしきものは未だに見当たらない。

 ずいぶんと長い時間歩いて足が痛くなってきたので座り込んで休む。


「はぁ、イザーク心配してるかな…喉が渇いたなぁ」


 ぽつりと呟くと目の前に水の入ったコップが現れた。触れるとひやっとしていてつい先ほど汲んできたばかりのようだ。


「え!?…えっと、パンが食べたいなぁ」


 試しに再び呟くと今度はコップの横にお皿に乗った焼きたてのパンが現れた!辺りにパンのいい香りが漂う。


「もう!親切なのか不親切なのか分からないゲームね!!」


 やけになってそのまま芝生に勢いよく寝転んだ!…と、生垣に何かが引っ掛かっているのが目に入った。

 細かい枝と葉っぱがびっしりと生い茂る生垣に手を突っ込みガサガサとかき分け取り出そうとしてみる。生垣の枝は細くしっかりと絡んでいて手がすぐには届かなかったけれど何とか引っ張り出す事ができた!

 ゴールドの土台に大きなサファイアよりも深いけれど不思議と透明感のある青色の宝石と細かなダイヤモンドがついている。


「腕輪だわ…」


 もしかしたらこのゲームクリアの鍵になるものかもしれない?と、とりあえずポケットにしまいこむ。


 このまま休憩していてもクリアできないし、早く進もうと思い腰をあげる。が、不思議な音がするので耳を澄ました。

「キュッ、キュッ」という聞き慣れない音とガサガサと生垣を掻き分ける音がする。何かと思い立ち止まっていると、どんどん音は近づいてくる!そして私の目の前に影と共に迫ってきた。


「え!?な…に ネズミ!?」


 3メートルはあるだろう生垣のさらに上から巨大なネズミが現れた!目はつぶらで黒目がちで毛色は真っ白だ。可愛いのかもしれないけど、この大きさは全然可愛くない!!


「いやぁー!!」


 とっさに踵を返し走り出した!!急いで逃げるけれど生垣をなぎ倒し向かってくるネズミとの距離はどんどん近づく!


 やだ!


 こんな所で死ねない!!


 でも、もう逃げ切れないかも!?そう思った瞬間、ぐるんと世界は回転し足が宙に浮いた!


 違う!浮いたんじゃない、空に落ちるっ───!


「キャァァァァ!!」




「コトネ!?」


 一瞬の浮遊感に声をあげるとイザークの声がして私は元いた書斎にうずくまっていた。イザークの手元には白い背表紙の"魔法のゲーム"が握られていた。


「私、どうやって戻ってこれたの?」


「ページが開いたままのこの本が床に落ちてたんだ。ネズミがかじろうとしていたから拾い上げて逆さまにしたらコトネが現れたんだよ!驚いた」


「イザーク、助けてくれてありがとう!怖かったー」


 半泣きでイザークに抱き着き強く抱きしめた。



 ・・・



「"魔法のゲーム"か、はじめて見たが昔はこの手の本が流行ったと聞いたことはある」


 外へ出なくてもいつでも広い魔法空間で遊べる便利な本と昔は子供へのプレゼントとして人気だったらしい。が、今は見なくなったって事は私みたいにリアイアできずに大変な思いをした人がいたのかも?めったにこのような魔法がかかった本はないらしいが私は幸か不幸か一発で探し当ててしまったわけだ。


「まさか本の中に入り込むなんて…これからは慎重に確認するようにするわね」


「これは鍵をつけてじい共に渡しておくか。魔法がかかってる本だ、貴重なのかもしれない」


 リビングに出した本は大体の仕訳が終わったのか綺麗に揃えられていた。


 残りはまた後日にして私達は手をつなぎ東の塔を後にした。

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