40話 プロポーズ
一度大きく息を吸い込んで静かに吐いた。
愛おしい赤い瞳を見つめ返し唇を開く。
言う言葉はもちろん決まっている。
・・・
「ふぅ、こんなものかな?」
魔界の城に与えられた自室を片付けていたが日本から持ち込んだ荷物はそう多くなかったのであっという間に終わってしまった。
こちらでの生活に必要なものは全部そろっているから日本で処分するもののほうが断然多かった。
仕事を退職して2週間、日本での整理は全部終わって昨日の夜再び本体で魔界へやってきた。もう土人形は必要ないのだ。
「コトネ様、終わりましたか?あとはこちらで掃除をしておきますのでお任せください」
アンナがホウキをもって部屋に入ってきた。あとは舞い上がってしまったホコリを掃除してもらえばおしまいだ。
「ありがとう、よろしくね」
部屋を後にして心なしか軽やかな足取りでイザークの元へ向かう。今日は一日オフなので終わったら来てくれと言われていたのだ。分厚い扉をノックし部屋に入る。
「イザーク、終わったわよ」
「お疲れさま。体の調子はどうだ?」
「何も問題ないわよ。元気だし、無理もしてないわ」
久しぶりに本体で魔界に来たからか心配しソファへ座るように促される。座るとイザークが後ろから私を優しく包み耳にキスをする。
「やはりコトネが来てくれると落ち着くな」
「そ、そうなの?」
不意打ちにドキドキしてしまってどもってしまう。
「今日は出掛けようと思うんだ。ついてきてもらえるか?」
「ええ、もちろんよ」
答えると急に辺りが光に包まれる。これは───!
「イザーク、また勝手に出掛けるとケヴィンに怒られるわよ?」
「今日は事前に言ってあるから問題ない」
あっという間にイザークの移動魔法でソファごと湖のほとりに来てしまっていた。目の前には白い祭壇が設置されているのでどこに来たかはすぐに分かった。使い魔であるアサヒを創造した湖だ!
今日は二人だけなので辺りは静まりかえっている。何故ここに?と思っているとイザークが手を差し出してくれたので立ち上がる。
「何でここに来たの?」
「ん?湖に見ていてほしいと思ったからだよ」
何を?と思ったがイザークは私の手を引き光の道を進んでいく。
突き当たり噴水まで来たところで足を止めると向き合った。
「コトネにきちんと聞いておこうと思ってな」
「?」
イザークは私の目の前にゆっくりと片ひざをついた。
ここでハッとした。夜光花の咲き乱れる草原での事を思い出したからだ。
イザークの燃えるような瞳は穏やかだけれど情熱的に私を見上げる。
「俺は──、イザーク・サファナイト・クラストフはこれから先永遠にコトネ・サクライを愛すと誓うよ。
コトネの全てを俺に預けてくれるか?」
「すでにあなたのものよ」
「では、俺と結婚してくれる?」
イザークが私に重ねた手を片方開くとそこには美しい指輪が握られていた。
プラチナのリングに上品に添えられた一粒石のダイヤモンドは眩しいほどに輝いていた。
指輪がなくても私が言う言葉は一つしかない。
「もちろんよ。イザーク、私も愛してるわ」
指輪がイザークの手によって左手の薬指にはめられた。まるで夢を見ているように思える。
そのまま左手にキスをするとイザークは私の膝を抱えて立ち上がった!イザークの顔が胸元にくるので私の目線は2メートルを超えている。
「どうしようもなく嬉しいよ!コトネ」
抱き上げたまま一回転し互いに笑いあう。まるで子供みたいだ。
喜びを、この愛を、言葉で表すのは余りにも難しい。私を抱きしめるイザークの顔に手を添える。互いに思っていることは同じだ。
顔をゆっくりと近づけ唇を合わせる──。
溢れるほどの思いが唇を伝わり身体中に流れる。
情熱的な口づけに頬を染め顔を離す。
イザークはその場に私を降ろすと今度は大きな手で私の両頬を包み込み足りないとばかりに再び口づけをした。
そんな私達の様子を見ていたのか、噴水が突然空高くまで水を噴出させると上空には虹が輝き私達を祝福してくれた。
・・・
ソファに座って左手薬指にはめられた指輪を眺める。
「気に入ってくれたか?」
「ええ。それにしても、魔界にも左手薬指に指輪をはめる習慣があったのね?」
「それは俺が日本に行ったときに覚えてきた情報だよ」
「えっ!?そんなことまで調べていたの?」
よく考えたらイザークが来ていたのはクリスマス前後だ。テレビCMや雑誌にバンバン指輪の広告が出ている時期なので目に入ってもおかしくはない。
「コトネに喜んでもらいたかったからな」
「これ以上ないくらいに喜んでるわ。ありがとうっ…んっ」
幸せを噛み締めるように何度も唇を重ねあった。
ここまでで一章おしまいです。ありがとうございました。
二章も続けていきますのでどうぞおつきあいください。




