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38話 もどかしい日々

 食事後、”経験者”の話を聞くため部屋を移動した。私とイザークが部屋に入ってからしばらくするとサンタさんが本を抱えながら部屋に入ってきた。


「お待たせしてしまい申し訳ありません。調べ物たいものが山ほどありまして」


 そう言うと本をテーブルにどさっと置き向かい合って座る。


「これは私の日記なのですが…ここ、きちんと魔力を暴発してしまった時の事も記していました」


 眼鏡をかけながらぎっしりと文字の書かれた日記のページをめくる。勉強を教わっていた時からサンタさんは几帳面でしっかりしていそうだな、とは思っていたけれど日記を見るからにその通りの性格みたいだ。それよりもサンタさんが魔力を暴発してしまった事があるなんて驚いた。


「まぁ、ざっくりと私の経験を申しますと…暴発してしまった時には魔力を使いすぎてしまったという自覚はなかったです。あっという間に目の前が突然真っ暗になり体の中から沸々と魔力が抜けていきそれは全身に痛み伴いました。私は丸一日意識を失っていたらしいのですが、起きると激しいめまいと頭が割れるような頭痛が続き魔力を回復し普通に生活できるようになるまで5日ほどかかりました」


「私も急に意識を失いました。寝ている間は体の中から炎が燃え上がり焼かれるような痛さがあったけれど起きてからは全く体に不調はありません。この、子供になってしまった事以外は」


「意識を失っている間に全身に痛みを感じるのは魔力がものすごいスピードで体の外に出てしまう痛みです。コトネ様の魔力はとても大きいので痛みが炎に焼かれるような激しいものだったのでしょう…」


 思い出すのもの嫌な程のとてつもない痛みだった。ひたすら動けない体であの痛みに耐えられたことに自分をほめてあげたいくらいだ。


「じいは意識を失って起きた時にめまい、頭痛があったけれどコトネにはそれがなく体が子供になってしまったというのは…体を魔界に連れてきてしまったからなのか?」


「えっ!?私、今の体は本物の体なの!?」


 てっきりいつも通り人形の体だと思っていた。本当の体は大人のままでいるのとばかり思っていたので子供の体になってしまったことに急に大きな不安が広がる。

 魔界に来たその日に言われた"身体ごと召喚してしまうと何かしら支障をきたす恐れがある…"はこの事を意味するのか!とも思った。


「本当にすまない。あちらでコトネが急に意識を失ってしまって俺も何が起こったか分からず急いで連れ帰ってきてしまったんだ」


「イザークが本当に心配してくれているのはよく分かっているわ。謝らないで」


 隣に座るイザークを見上げて手に触れようとしたけれど子供の体では手も短く届きそうにない。

 イザークは自分を責めている。

 こんな時は大人の体だったらすぐにイザークに触れ責めないで、安心してと伝えることができるのに。

 体を椅子から乗り出して腕を懸命に伸ばしイザークの肘に触れる。

 赤い瞳は揺れていた。私の手を取ると体を持ち上げて強く抱きしめてくれる。子供の体では苦しいほどの強さだったけれど、イザークの心の苦しみに比べたらなんてことはない。


「懸命に今過去の文献でコトネ様のように体が幼くなってしまった症例がないか懸命に探しているところです。しかし、恐らくは体が子供に戻ってしまったのは魔力が体の中からすべて出てしまったからだと思われます。頭痛やめまいなどが起きなかった代わりに体が小さくなって魔力がカラになってしまった衝撃に耐えているのだと…」


「それならば魔力が戻れば段々と体も元に戻るんだな!?」


「おそらくは。しかし、コトネ様の魔力は強大です。最低限の量に回復するにも時間がかかると思われます」


 私はそこでふと、アサヒは大丈夫なのか心配になり手をかざした。


「…!?アサヒが出てこない」


「使い魔も魔力がほぼカラになっていますから動けないでいるのでしょう。魔力の回復に重要なのは休養に睡眠です。しっかり食事をとってあまり考えすぎずにリラックスしてお過ごし下さい」




 ・・・




 サンタさんとの話が終わりまたイザークに抱えられながら城内を移動する。休養に睡眠、それだけで本当に大人の大きさに戻るのだろうか?一体何日かかるのか?あちらの仕事初めには間に合うの!?色々と気になることは多い。


「コトネが元に戻るまでは俺がしっかりサポートするから安心してくれ」


「そこは心配したことないわ。イザークが側にいてくれているからこの程度の不安で済んでるのよ」


「コトネはこんな時でも優しいな」


 とりあえず今は起きたばかりだが体は元気だ。風邪をひいている訳でもないので一日ベッドで休養するようになんて言われてるのはお断りだ。


「今日はどうする?コトネの調子が良ければ城から出てみるか?」


 思いもよらぬ提案に思わず喜んで回している手に力を込めてイザークをハグした。


 一度部屋へ戻るとアンナの提案で壁に寄りかかり今現在の身長の高さを印した。子供のころ実家の柱でやったことのあるやつだ。


「気が向いたときにまた測ってみましょう。コトネ様がどれくらい元にもどられるのかわかるといいのですが」

「ありがとう、アンナ!」



 外出の用意を済ませ部屋で待っているとケヴィンが迎えに来てくれた。一緒に外へついてきてくれるらしい。


「噂には聞いていましたが本当に子供になってしまわれたのですね!」


 やはりケヴィンにも驚かれてしまった。しゃがみ込み私に目線を合わせてくれる。


「では中庭まで参りましょうか?お荷物お預かりしますね」


 ケヴィンは私を気遣ってかいつもよりゆっくり歩いてくれるが大人の男性の歩幅で私に合わせてくれるのは難しいようで何度も振り返り私がついてきているかを確認してくれる。私も懸命についていこうと頑張って歩幅を大きく歩くけれどまた転ぶんじゃないかと不安もありどうしてもちまちま歩いてしまう。

 難関だったのは階段だ。お城の階段は煉瓦造りで段が比較的高い。大人の体ならば片足ずつポンポンと駆け下りることができるのに子供の体だと一段一段慎重におりなければならない。


「コトネ様、差支えなければ…」


 そんな私を見かねてケヴィンが両手を差し出してくれる。このまま自力で進むよりもここは甘えてしまおうと「お願いします」と言って手を伸ばした。


「おわっ!」


「え?何、どうしたの?」


 私を抱き上げた瞬間ケヴィンは驚いたような声を上げる。


「すいません、子供ってこんなに軽いのかと思ってびっくりしてしまいました」


「ケヴィンも子供に免疫がないのね?皆私を見ると笑顔で手を振ってくれたりするから気持ちはいつも通りの大人なのに…なんだか変な気分よ」


「城内に子供はいませんからね。愛らしくて顔がほころんでしまうんでしょう。せっかくだから手を振りかえしてあげたらいかがですか?」


 さっそく騎士団員の人達とすれ違った。ケヴィンに挨拶した後、私を見て皆にこにこと手を振ってくれた。ので、さっそく振りかえしてみた。なんだかテーマパークのキャラクターになった気分だ。


「イザーク様、お待たせしました!」


 中庭には先にイザークが着いていた。アマロを外に出し構っていたようだ。


「コトネを迎えに行ってくれてありがとう。…抱き上げていいとまで許可は出してないけどな」

「俺も迷ったんですよ。絶対イザーク様に何か言われるだろうなとは思ってましたよ」

「イザーク、私から進んでお願いしたようなものだから」


 イザークはケヴィンから私を受け取ると「冗談だ、ありがとう」とケヴィンに感謝を述べた。


「じい共が言うには特に外出する制限はないがのんびり休めるところがいいだろうとの事だ。コトネ、何かリクエストはあるか?」


「そうね…せっかくケヴィンも着いてきてくれるしまた湖へ行きたいわ」




 その日は陽が落ちるまで湖で過ごした。天気が良く気持ちのいい風が吹いて私が子供の姿でなければアサヒを迎えたあの日と同じようだ。

 帰り道、頭の真上には一番星が輝き地平線には太陽がまだ尾を引いていて紫に染まる空に数羽のドラゴンが上空を舞い巣に戻っていく様子が美しかった。



 それからの5日間、イザークは常に私の側にいてくれた。マウナ火山のドラゴンの雛達を見ることもできた。

 はじめは私の姿形が違うからか親ドラゴンは驚いていたが匂いで私だと分かってくれたようで快く雛を触れさせてくれた。雛といってもすでに子供の私より大きく成長し立派な羽を時折羽ばたかせて空を飛ぶ練習をしていた。

 子供の体だからか、遠出をすると夕方にはがくっと体力がつきて眠くなってきてしまう。

 イザークの腕の中で寝落ちしてしまったりと何時もよりイザークに甘えてしまって思い返すと恥ずかしいけれど、イザークはそれが嬉しいと言ってくれた。



「今日は…昨日よりは伸びましたね」


 アンナは毎日時間をあけて私の身長を測ってくれている。初日は全く変わらなかったけれど、日を追うごとに数ミリずつ大きくなってきている!

 それでも大人に戻るのはまだまだ先になりそうだ。大人になってから「子供に戻れたらな」なんて思ったことはあったけれど実際戻ってしまうと早く大人に戻りたくてしょうがない。もどかしい日々を送っていた。


 イザークは毎晩私が寝付いてから賢者の人達と一緒に書庫に籠って文献を探しているのを知っている。ただでさえ私に付きっきりなのにほとんど寝ていないようで心配だ。早くイザークを安心させてあげたいのに…。




 寝静まる真夜中、熟睡していたけれどふとした拍子に目が覚めてしまった。人の気配に寝起きの目を凝らすとイザークが私のベッドに横になっていた。

 多分、書庫帰りに私の様子を見に来てそのまま隣で寝てしまったのだろう。リズム良い寝息が聞こえる。

 ベッドに横になって顔を見合わせる形なら身長差も気にならないので自分が子供になってしまったことを忘れてしまいそうだ。


 ふと、寝ているイザークの目元が光った。どんな夢を見ているのだろうか。悲しい夢?心配している夢…?

 どちらにしろ夢の中でもイザークが悩まされているなんて…。私が悪夢を食べられるバクになれたらいいのに。


 そんな事を思いながら本当になにも考えずに体が先に動いた。


 ゆっくりと体を起こしてイザークの目元に口をつけた。

 涙は少し塩辛い。



 すると、一瞬体の体温があがり肩に違和感を感じた───!


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