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36話 魔力の暴発

 

 どれだけ時間が経っているのかは分からないけれど、時々深い闇の中から這い出して意識を取り戻した。

 それでも体は全く動かすことができなくて、体の中から炎が上がりじわじわと焼かれるような痛みと苦しさに声も出せず体も動かせず、ただただ我慢するしかなかった。

 何度かそんな覚醒を繰り返すうちに周りの音に耳を傾けられるようになってきた。

 私の周りを人が歩く音、カーテンを開け閉めする音、そして誰かが私のまわりでしゃべっている声。

 何を話しているのかまでは聞き取れなかったけれど、イザークの声だけは私の耳に心地よく響いて闇の中にいる私に希望を与えてくれた。



 段々と体の中で燃え上がる炎が小さくなり痛みが遠のいていくと突然、何もかもふっと楽になって一度そこで意識がまた途切れた。



「どうなってるんだ!?」


「私共にもさっぱり…。懸命に似た症例がないか調べています」


 そんな会話が聞こえた。バタンと部屋のドアが閉まると同時に私は目を覚まし瞳をあけた。


「コトネ!」


 見覚えのある高い天井だ。

 声のするほうに顔を向けるとイザークが泣きそうな顔でこちらを見ている。


「どうしたの?」


 思いのほかスムーズに声がでたので自分でもびっくりする。一度目をつぶって頭の中を整理する───。



「!? そうだ、イザークの怪我は大丈夫なの?神田さんの体はどうなったの?」


 体を起こそうとしたけれどうまく力が入らない。そんな私をベッドに抑え、落ち着かせようとイザークは温かい手で肩を撫でてくれる。


「何も心配しなくていい。あの件はもう片付いたよ」


「終わったの?」


「そう、コトネのおかげだ。覚えてないか?俺が足を怪我してしまった時にコトネが立ち上がっただろう?その時にコトネが魔法で雷を起こしたんだ。ルカは衝撃で気を失い魂が女性の体から離れた。女性に足以外の外傷はなかったし、呼吸も正常だったから問題ないだろう。爆発音と雷のおかげで人が集まってきたから意識を失ったコトネを連れて急いで魔界に帰ってきたんだ」


「イザークの怪我の具合は?神田さんの足は・・・無事なのね?」


「俺はこちらに戻ってきてすぐに魔法で治療したから問題ない。女性はあちらの世界に置いてきてしまったが、ルカの持っていたナイフも回収してきたし人が集まってきたからすぐに気づいてもらえたと思う」


 意識を失う前に見た光と人の声は雷と騒ぎを聞きつけた通行人の声だったかのか…。

 神田さんからルカの魂が離れてくれていたことに安心した。すぐに救急車を呼んでもらえているといいのだけれど。


「私…どれくらい気を失ってたの?」


「今日で魔界に帰ってきてから3日だ。それよりもコトネ、体の具合はどうだ?」


「途中で何度か意識を取り戻していたのだけれど、体の中で炎が燃えてるような熱い感じとものすごい痛みがあって…でも、起きられなかった。今はもう何も感じないわ」


「めまいや頭痛はする?」


「しないわ。私、何故意識を失ってたの?」


 魔法で雷を起こしたところで意識を失ったであろうことは分かった。なんで日本にいながら魔法を使えたんだろう…それにどうしてこんなに長く意識を失っていたんだろう?


「あちらの世界でコトネは意識をせずに魔法を使ったね?」


「ええ。魔法を使おうとした覚えはないわ。ただ、ルカがナイフを振りかざした時に強く心の中で、やめて!と叫んだのは覚えてる…」


「それだ。それで無意識にコトネは体中の魔力を引き出して魔法が使えないあちらの世界に無理やり魔法を呼びだしたんだ」


 無理やり魔法を呼び出した…。

 イザークでも発動できなかった魔法を?そんなことをしていたなんて。

 再び起き上がろうとする私の背中をイザークは支えてくれる。


「お願い、少しお水を」


 しばらく寝ていたのに急にたくさん話をしたので喉が渇いてしまった。アンナが水の入ったコップを手渡してくれた。ずいぶんと大きなコップだ。両手で受け取り水を体に流し込む。


「すまない、コトネ…俺がついていたばかりに」


 水はコップに並々と入っていたけれど私は一気に飲み干してしまった。冷たい水が喉に流れていく様が気持ちいい。


「イザーク、何も謝らないで。それにしても、使おうと思えばあちらでも魔法が使えたのね」


 喉は水を得たからかより滑らかにしゃべれるようになった。ふと、私の声はこんなに甲高かったっけ?と思った。


「それなんだ。コトネは魔法が使えないはずの場所で無理に魔法を使ってしまった。本当はいけないことなんだ!だから、体に無理をかけすぎてしまったんだよ」


 イザークは「驚かないでくれ」と付け加えるとアンナに何かを持ってくるように合図をした。アンナも心配そうな顔で私のそばに来てくれる。


「驚く?何に…?」


 アンナが私の足もとに大きな鏡を置いた。

 鏡に映るのはベッドの側で私に寄り添うイザークと私…



 私?



 イザークの手を借り上半身を起こしている私の姿は…どこからどう見ても



「誰これ!?」



 幼い子供の姿が鏡に映っていた。



 誰?いや、知ってる!


 これは、私だ!!子供の頃の私だ!


 何が何だか分からなく慌てる私を引き寄せてイザークは抱きしめる。イザークの体が大きく感じる。いや、私の体が小さいんだ、イザークはいつも通りなのに!


「コトネ、落ち着いて話を聞いてほしい…」


 抱き締めたまま私の背中をそっとさすってくれる。私も懸命に頭の中を整理して今自分が置かれている状況を整理する…と、以前聞いた言葉を思い出した。



「もしかして…魔力の暴発?」




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