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33話 根負け

 

「ただいま!」


 急いで買い物をして、全速力で帰ってきたので暑くて玄関に入るなりマフラーとコートを脱いだ。

 靴を脱ぎ部屋へ続く扉を開けるとイザークが二人がけの小さなソファに座りくつろいでいた。

 私にはお気に入りのソファだけれど、身長が高くて足も長いイザークが座っていると小さく見えてしまう。


「おかえり。それがこの世界の洋服か?さっそく着てもいいか?」


 何やら嬉しそうだ。とりあえずタグを切って着替えてもらう。

 男性の洋服なんて流行りも何も分からないから全て駅ビルの量販店でマネキン買いをしてしまったけれどイザークが着ると…


(不思議とパリコレモデルに見える…)


「随分とシンプルなんだな。でも着やすい、ありがとうコトネ」


「よかった。それと、外に出るときはこれもかけて?」


 安物だけれどサングラスを手渡す。イザークの赤い瞳は隠しようがない。赤色のカラーコンタクトを日常的にしてる人なんてそうそう見かけないし。髪の色が黒なのは幸いだった。

 しかし、サングラスをかけるとより一層…格好良さが増してしまったのでこれはこれで目立ってしまうな…と心配してしまう。


「こっちの世界には赤色の瞳をした人間はいないのか。ちょっと邪魔だが仕方ない、かけておくよ」


「ありがとう。今日はもう夜になるから出掛けるのは明日にする?どこへ出掛けるかも調べないといけないし」


「そうだな。できたらこの国の成立ちや生物…建築物も見たいな。このテレビも便利だが実物を見てみたい」


 そう言うと画面をいくつか切り替える。私が出掛けている間に使い方はマスターしたようだ。


「わかった。そうね…見られそうな所を探してみるわね」



 洋服にばかり気がいってすっかり忘れてたけれど夕食はシェフの作ったご飯じゃないから期待しないでね!と、念を押して食べてもらったが「旨いぞ」とお褒めを頂いたのでホッとした。…ただ、私の数日分の食料が一晩でカラになってしまったので大問題だ!


 それと、イザークが私の部屋に寝泊まりするにあたって一番気がかりなのが寝る場所だ。一人暮らしだしもちろんシングルベッドしかない。来客用の布団なんて置いておくスペースもないので用意してないし…。


 部屋は10畳あるのでソファとテーブルを端に寄せれば私は下にラグが敷いてあるし、毛布とブランケットを敷いて寝れば体は痛くならないかな…?さすがに王様であるイザークを床に寝かせられない!

 そう思って作業をしていたらイザークがお風呂から上がってきた。


「お風呂、狭かったでしょ?こっちにいる間は窮屈でごめんね」


「何を言ってるんだ?コトネが自分で稼いで借りてる部屋だろう?文句なんてないよ。

 それに、狭いとよりコトネを近くに感じられるからな。気に入ってる」


 そう言うと私を持ち上げてソファに座り膝の上に座らせると髪をなで額にキスをする。

 イザークの髪の毛からは嗅ぎ慣れたシャンプーの香りがする。普通は男の人がドキッとする場面なんだろうけど、私も充分にドキドキしてしまう。


「それにこちらでは本物のコトネに触れていられるからな」


「そう言えばそうなのよね…」


 魔界では未だ人形に魂を移しただけだって事を思い出した。あまりにも違和感がなく自然に動くので忘れるほどだった。


 ぺたぺたとイザークの顔に、髪に、腕に触れる。

 そうだ、私もこれで本当に自分の体でイザークと向き合えてるんだ。そう思ったらなんだか嬉しくて自然と口角があがった。


「ところで何をしてたんだ?」


「今日寝るのに私は下で寝ようと思って家具を移動していたの」


「何でだ?一緒に寝ればいいじゃないか」


「これ、一人用のベッドよ?それにこの国では床に布団を敷いて寝る風習もあるし私は大丈夫よっ」


 イザークは私の言葉が終わるのを待たずに抱き上げるとベッドに私を横たわらせ、ぴったりとくっついて自身も横になった。


「ほら、寝られる」


 鼻先数センチにイザークの顔がある。体も密着しないと少しの寝返りでベッドから落ちてしまいそうだ。


「む…無理よ!狭いし…こんなに近くにイザークがいるなんてドキドキしすぎて眠れないっ」


 正直に話すとイザークは笑って「やっぱりコトネは可愛いな」なんて言いはじめた。


「じゃあ俺が下で寝るからコトネがここで寝ればいい」


「それは駄目よ!」


 そんな提案はさすがに受け入れられない。王様であり今日はお客様でもあるんだから…。


「じゃあここで一緒に寝る。…あちらでもそんな事もあったろ?」


「あっちでは私が寝てからイザークが入ってきたからでしょう?」


「前にも言ったろ?早く慣れてしまえと。いい機会だからな」


 こんな目の前で笑顔でそんな事言うなんて、ずるい。


「でも!」


「駄目だ。じゃあ俺が下で寝る!」


「……わかったわ。努力する」


 根負けした。



 案の定、目をつぶっても目の前にイザークがいると思うと心拍数が上がって呼吸が早くなってしまう。体に触れる部分が緊張して変に意識してしまう。いつ寝入ったのか覚えていないけどかなり長いことかかったのだけはわかる。


 朝、目が覚めると眠りが浅かったのか頭がスッキリしない…。


 イザークはまだ寝ているようで目の前で寝息をたてている。自分の部屋にイザークがいるなんて夢みたいだ。…なんて自分の身に危険が迫っている時に呑気なことを思うなんてやっぱりバカだなと自分でも思う


 こんなに近くゆっくり見ることはないのでせっかくだからもう少しイザークの寝顔を見てから起きることにしよう。



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