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32話 突然の来訪者

 


「桜井さん、もうすぐ有休消えちゃうよ?」


 あちこちにイルミネーションが輝き寒さ増す季節になった。

 仕事中、上司がデスクまで私を呼び出したと思ったらカレンダーに印をつけながらこう言った。


「有休消化してもらわないと会社としても困っちゃうからね、この辺でぱーっと使っちゃう?桜井さん今年はお家も大変だったしゆっくり休んだらいいよ」


 そう言うと年末年始休暇にくっつけた。まさかの14連休だ。


「え!そんなに!?でも、最近神田さん体調悪いみたいだし…なんだか申し訳ないです」


「桜井さん、せっかくいいよ!って言われてるんですから休んじゃった方がいいですよ!私、桜井さんがお休みの間も頑張りますから!」


 神田さんは聞き耳をたてていたのかデスクから立ち上がると明るい声を出す。こうは言うけれど最近眠ってるのに眠りが浅いみたいで調子が悪い…。とぼやいていたので心配だった。

 しかし神田さん含め回りの社員からも「いつも頑張ってるんだからゆっくりして!」の言葉に恐縮しながらも14連休をいただいた。




 ・・・




「あーっ、とうとう14連休かぁ」


 棚の卓上カレンダーには今日から1月5日まで赤いペンで印をつけた。

 休みをもらったけれど特に実家に帰るでもないし、旅行…も毎日魔界へ旅行に行ってるようなものだし、友達はクリスマス前でつかまらないし。

 とりあえず洗濯や家の大掃除を済ませたが1Rの部屋では午前中で終わってしまった。

 しばらくテレビを見て時間を潰したけれど家にいるのも勿体ない気がして外出の用意をする。


 洗面所で髪の毛をセットしていると鏡越しに背後が光った──!


 この光は見慣れている。けれどあちらの世界での話だ。




「なんで!?」



「緊急事態だ。コトネ、身の回りでおかしな事は起きてないか?」



 光が散らばって消えるとそこにはイザークが立っていた。出で立ちはいつもと変わらないけれど表情は何か切り詰めたような緊迫したものを感じる。私の背後に現れたと思いきや振り向く間もなく鏡越しに会話をする。

 イザークがこちらの世界に来たのは二度目なので初めほどの驚きはなかったけれど何かあちらであったのかと心配になった。


「何もないけど…そっちで何かあったの!?」


 手を止めて向き直り深刻そうな顔をしているイザークの手を取る。


「実は…」


 イザークは私が不安になるといけないと思って伝えていなかった件がある、と付け加えて話してくれた。


 私が一番最初に魔界へ召喚された森を"魔力の森"と魔界の人々は呼んでいる。

 森の中心部の一角、深い地層部分に魔力を高める成分が含まれた地層がある。

 この地層の上が私の召喚された台が設置されていた場所で、この場所で魔法を使うと使う者の魔力が数倍に膨れ上がるので召喚等の難しい魔法が使えると言う。

 普段は悪用等の危険から厳重に結界が張られている。

 ここ最近、この結界を何者かが越えようとした形跡があり違反者を取り押さえる為に警備を厳重にしていたところ、昨日結界を破り侵入したとして数名が逮捕された。直ぐ様逮捕者の所属していた団体から芋づる式に逮捕者が出た訳だが、その内一名の意識が無く取り調べをしたところ、その者の意識は魔力の森の力を利用して異世界に飛ばしたと言う。


 団体は異世界からの召喚者が王の妃になる事に反対している団体だった。


「つまり、私を狙って魔界から来ている人がいるって事?」


「そう言う事になる、だからコトネを守る為に俺がここに来た。怖がらないで安心してくれ」


 そう言うと私を抱き締め大きく安堵のため息をついた。正直、自分が狙われているなんて言われてもすぐにピンとこない。不謹慎だけれどこうしてイザークが来てくれた事に嬉しさを感じている。


「もし俺がこちらにくるまでに何かあったらと思ったら生きた心地がしなかった。本当に無事でいてくれてよかった…」


「心配してくれてありがとう。その、私を狙ってる人って分かってるの?」


「恐らくこちらの世界の誰かを器にしているとは思うんだがこの世界は魔法が使えないから誰を器にしているかは分からないんだ」


 そう言うとイザークは手のひらを上にして伸ばす。一瞬手のひらから光が出たと思ったらすぐに消えてしまった。イザークほどの魔力を持っていても充分に発動することができないらしい。


「じゃあ、どうやって…?」


「あっちから何か仕掛けてくるのを待つか、魔界に帰ったところを捕まえるかしかないな。そう長くはこちらに居られないはずだ」


「そう…。…ってことは、イザークはその人が捕まるまでこの世界にいるって事!?」


「そうだ。夜もコトネの体をこっちに置いておくわけにもいかないからしばらくは魔界には行かない。あっちの仕事は代理で父に帰ってきてもらってる。心配するな、コトネは必ず守るから!」


 誰かに狙われていてもイザークが側にいてくれるのであればすごく安心できる。


 …しかし頭に浮かんだのはこの狭い部屋に王様であるイザークをを泊めること、連休中に犯人が捕まるかということ…大丈夫なんだろうかと考えてしまった。


「わかった。ちょうど今日から連休なの。仕事があるとその間イザークはどこにいてもらうか悩んじゃうけどその心配はないわね」


「せっかくだからこちらの世界を案内してもらいたいな」


「いいわね、ちょうどクリスマスだからあちこち綺麗に飾られてるし」


「クリスマス?」


「えっと、日本ではお祭りって感じかな。」


 イザークと外出する、楽しいかもしれない。と思ったけれどはっとした!


「ちょっと待ってね!」


 クローゼットからメジャーを取り出してイザークの肩幅やウエストを測ってメモする。


「何してるんだ?」


「ごめんねイザーク、その魔界の格好だと目立ちすぎて外に出られない…それに冬だから上着もないと寒いから。ちょっと出かけて、すぐに買ってくるわね」


 私はすっかり見慣れてしまったけれど魔界で着ている服で外に出たら目立ちすぎてしまう。私もニットにジーンズ姿でイザークの前にいるのは何だか変な感じがする。


「そうだ。こちらで何か買う用にと持ってきたんだ。」


 そう言うとテーブルの上にバラバラと何かを置いた。

 ビー玉より大きめのいびつで透明な固まり…


「もしかして、ダイヤの原石!?」


「たろうな。これならこちらの世界でも金に変えられるだろうからって出掛けに持たされた。コトネに負担は掛けられないからな」


 いやいやいや、この大きさでこの透明度って原石の相場はよく分からないけれど相当額のものだろう…


「お金に変えられるだろうけど、どこに持っていけば良いのか分からないわ。とりあえず私、冬のボーナスに手をつけてないしひとまずは大丈夫!

 急いで買ってくるから…えっと、テレビでも見て待ってて。このリモコンの数字のところを押せば切り替わるから!」


 私は急いで髪の毛を結びマフラーとコートで防寒をし寒空の中急いで自転車を飛ばす!


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