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31話 なれそめ

「私がバルドと初めて会ったのは彼が成人してはじめての公務で聖霊界に来たときなの」


 エーリアルさんは頬を染めながら嬉しそうに教えてくれた。




 ・・・




「エーリアル、準備はできた?」


 空は雲ひとつない見事な青空だ。きっと一番上のお姉様の結婚式を聖霊も祝ってるからに違いないわ。


「できたわ。後ろのリボン曲がってないかしらっ?」


 侍女に着付けをしてもらったので大丈夫だとは思ったけど二番目のお姉様に「問題ないわ」と言ってもらったので安心する。


「お父様は?」

「もうお部屋で待っていらっしゃるわ。間もなく会場への入場が始まるから行きましょう」

「はぁい」


 会場ではすでに参列者の入場が始まっていた。お辞儀をしながら一番前の親族席に座ると大きく深呼吸をしてから正面のきらめくステンドグラを見つめる。

 これからここで一番上のお姉様が結婚式をあげる。

 正直に言ってしまうと私はお姉様がお嫁になんて行かなければいいと思ってる。

 だって、そうすればまた何時ものように姉妹三人で仲良くお外でお茶会ができるし、お洋服だって貸し借りできる。お父様に怒られて辛いときは二人のお姉様どちらかの部屋に忍び込んで一緒に寝てもらえるし。ずっとこんな生活が続けばいいと思ってた。

 なのに、急に一番上のお姉様は「運命の人に出会ったの」そんな事を口にしたと思ったらあっという間にお嫁に行く段取りが決まってしまった。

三姉妹でする予定だったお茶会は二人になり夜に一番上のお姉様の部屋へ部屋に忍び込もうとすると手紙を書いてるからまた今度とか、明日はデートだから寝かせてね、だとか言って追い出されるようになってしまった。

 つまらない。

 私のかわいいお姉様を一人占めしようとするなんて、許せない!


 二番目のお姉様に話したら「エーリアルも運命の方に出会ったらきっとお姉様のお気持ちがわかるわ」なんて言うけれど、ずっと分かりたくないわ。

 私はずっとこのまま、聖霊界で楽しくのんびりと過ごしたい。

 お嫁になんて行きたくないわ!

 だから、今日の結婚式も正直憂鬱でしょうがない。




 お姉様の結婚式は滞りなく行われた。涙が出てしまったけどこの涙はお姉様が綺麗すぎたからなのと、お城を出てしまうのが寂しいから。

 式の後はガーデンパーティーが行われるので、一旦部屋に戻りまたドレスを着替えて準備をする。

 着替えたけれど義理の兄となる男性の横で嬉しそうにしているお姉様を見るのが辛くて隙を見て部屋から抜け出して裏庭のバラ園へ逃げた。

 いつも三姉妹でお茶会をしたり勉強をしたりしたお気に入りの場所。


 バラのアーチをくぐると誰かがうずくまってバラの根本を探ってるのが見えた。


 お父様には知らない方にこちらからお声掛けしてはいけないと言われていたけど、私はあまり気にせずいつも声をかけてしまう。

 今だって、もしかしたら具合が悪いのかもしれないし。


「こんにちは、如何いたしましたの?」


「失礼、カフリンクスがこの辺りに転がってしまって…」


 男性はバラの棘に苦労しながら探している。

 髪の色はブルーブラックで正装って事は、お姉様の結婚式に参列に来た魔界の人ね。

 そう思いながら隣にしゃがみこんでちょっと聖霊にお願いしてみる。


「この方のカフリンクスを知らない?」


 すると、隣の垣根で何かが大きく光った。立ち上がって光った所を探すとブラックのカフリンクスが見つかった。


「これかしら?」

「すごい!ありがとうございます」

「どういたしましてっ。あら、あなた角が生えてるのね。はじめてお会いしましたわ、触ってもいい?」


 私の目の前で頭を下げる男性が顔をあげる。

 太陽が眩しくて顔がよく分からないけれど私よりもはるかに身長が高い。彼の答えを聞く前に頭の角に手を伸ばす。すると、自分の手が太陽の影になり彼の顔がはっきりとよく見えた。



 息を飲んだ───。



 伸ばしかけていた手は宙に浮いたまま止まってやり場をなくしてしまった。


 何でだろう、何で私はこの方の目を見つめたままそらすことができないの?この手はなぜこのまま伸ばしてしまうことができないの?

 完全に体が固まってしまっていた。


「あの…」


 先に口を開いたのは彼の方だった。

 彼は伸ばしかけた私の手を取りその場で膝を着くと手の甲に口をつけて挨拶をした。


「魔界の第一王子、バルド・ヴィルヘルム・クラストフです。お名前をお伺いしてもよろしいですか?」


 私の頭の中はもうクラクラしてしまって自分の名前を言うので精一杯!


「聖界の、第三王女の、エーリアルです…」


 何とかそれだけは言うことができた。

 ブルーブラックの髪は風に吹かれる度に光の加減で色を変え深く青い瞳が私を離さない。

 見つめ合ったまま声を出せずにいると奥から私を呼ぶ声がした。二番目のお姉様だ!私を探してる!


「あっ…呼ばれてしまいましたので、失礼します」


 すると彼は繋いだ手にぎゅっと力を入れると「ではガーデンパーティーでお会いできるのを楽しみにしています」と言って手を離した。


 それから急いで二番目のお姉様の元へ帰り部屋に戻ると一部始終をお姉様に話してこの気持ちは何なの!?と詰め寄った。


 未だに心臓はドキドキと大きく音をたてているし、彼に見つめられていたら何故だか体が緊張して動かなくなってしまった。こんなこと初めて!


「やだ!エーリアル!それって恋しちゃったのよ!?運命の人に出会っちゃったのよ!!」


 二番目のお姉様はそう言うと「大変!お父様に伝えなくちゃ!!」と慌てて部屋を出ていった。


「これが…恋!?」


 深呼吸してよく考える。これが?一番上のお姉様と同じように私、運命の人に出会ったの!?

 私、あんなに否定してたのに!?

 バルド・ヴィルヘルム・クラストフ様が私の運命の…!?


 自分に起こった現象…これが恋ならば、運命の方と出会えたのならば…!あとは自然に任せるしかないわ。

 私が本当にあの方を愛せるのかどうか、バルド様も私を運命の人と信じ愛してくれるのか…




 ・・・




「その後は気持ちの赴くまま一直線だったわ!ガーデンパーティーで私がバルドにダンスを申し込まれたらお父様は早くも泣いてたの!出会ってから一年後には結婚式を執り行ったのよっ」


 エーリアルさんとバルドさんの出会いを聞いていたら飲み物があっという間に空になってしまった。


「イザークにも早く運命の人が現れてくれたら素敵だなーって思って、小さな頃から魔力の高い女の子がいるって聞いたらお城にご招待してこっそり窓から見てもらったりしてたんだけど、なかなか簡単には見つからなくってそのうちイザークもグレはじめちゃって!

しょっちゅうお友達とお城を抜け出したりしちゃってたんだけどね、ある日急に目を輝かせて今後黒髪、黒い瞳で魔力の高い女性がいるならば会うけれどそれ以外の方とは会いません!って宣言されちゃったの。

その日を境にグレるのをやめてお勉強も頑張ってくれるようになったんだけど…湖がイザークにコトネちゃんの事を教えてくれたからって知ったときはまだ会ってもいないコトネちゃんに感謝したのよ!」


 そう言うとエーリアルさんは「運命の人の力ってすごいわよね!」とジュースのおかわりを取り寄せた。


 そういえば、魔界に来たばかりの時に聞いた"産まれたときから生涯の伴侶というものは決まっております"は本当に本当なんだ…?と思うと自分の今後はやはり…?なんて考えて一人で顔を熱くした。



 その後もエーリアルさんとのおしゃべりは続き、夕方になってバルドさんの城へ帰った。


「おかえり。随分と歩き回ったな」


「海に行ったわ。久しぶりにこんなにはしゃいじゃった」


「良いことだな。少し焼けたかもしれないな」


 イザークは微笑み私の前髪をかきあげる。そんなに肌が赤くなっているのだろうか?これはあちらの世界に帰ったらビタミンCのパックをしなければ…。


「じゃあそろそろ魔界へ帰るか」


「え!?二人ともご飯一緒に食べてから帰らないのー?」


「聖霊界の食事はもう充分楽しませてもらいましたからね。さっさと帰りますよ」


 エーリアルさんは不満そうにしているがイザークが野菜ばかりの食事は飽き飽きだと付け加えると「何で私の子なのにこうも味覚が違うのかしら」笑っていた。


「じゃあ、コトネちゃんにはお土産っ!」


 そう言うとピンク色で花弁が何十枚とドレスのように重なった可愛らしいバラの苗を渡してくれた。

 イザークから私がバラを育てていると聞いたらしい。


「いいんですか?」


「最近こちらで出来たばかりの新種なんですって。記念に私の庭園に植えてあげてねっ!またそちらに遊びに行くときが楽しみだわっ」


「ありがとうございます。大切にお世話します!」



 魔界へ帰ると夕飯を食べて帰ってこない事は想定していたのか食事の準備が進められていた。



 そして私にはユリアーナから長い手紙が届いていたし、イザークにも仕事が溜まっていた。


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