29話 聖霊王
聖霊王の住む城は調度品までもが白でまとめられているからか、とても明るく感じる。
エーリアルさんに案内されるまま私達は進んで行くとひときわ大きな扉の前までやって来た。
使用人が扉を開けると一番に目に飛び込んできたのはクリスタルと金でできたキラキラと輝く大きなシャンデリア…!それに天井まで隙間なく描かれた絵画に圧倒される。
「すごい…花と、天使の絵ですか?」
「素敵でしょ?聖霊をモチーフに描かれてるのよ!」
エーリアルさんは嬉しそうにこれが花の聖霊、水の聖霊、と絵画について説明してくれる。
「なんだ?気に入ってくれたのか」
首が痛くなるほど天井の絵画に見とれていると声をかけられた。
「お久しぶりです。今日は婚約者のコトネを連れてきました」
イザークが私の肩をとり紹介をしてくれる。向き直る前に紹介されてしまったので急いで顔を向けると白いローブに身を包んだ男性が立っていた。フードを被り白く長い髭をたくわえている。
「うふふっ、可愛いでしょ!私の娘ちゃんっ」
すかさずエーリアルさんが後ろから私の肩を抱きほっぺたをぷにぷにとつついてくる。おかげで話したくても話せない。
「緊張しないでね?私のパパ、イザークのおじいちゃまよ!」
「は、はじめまして!コトネ・サクライです」
「いいの、いいの。かしこまらなくていいの。コトネさんだね?話は良く聞いているよ」
最敬礼しようとすると聖霊王は私の両手をとり暖かい手で包み優しく撫でてくださる。
「イザーク!久しぶりだね。また凛々しくなって!いやぁいつお嫁さんを連れてきてくれるのか待ってたよ!」
「遅くなってしまってすいません。やはり王の仕事は忙しくて…。今日は聖霊の雫石のお礼もかねて参りました」
聖霊王はイザークを近くに引き寄せると背伸びをしてイザークの頭を勢いよく撫ではじめた。イザークのほうが伸長が高いので撫でにくそうだけれど…。
「あの、聖霊王、もう子供ではないのでお止めください」
一歩下がり髪の毛を直しながらイザークの声は少し不機嫌そうだ。そんな様子を見ているバルドさんとエーリアルさんは面白そうに笑っている。
「聖霊王なんて堅いこと言わずにおじいちゃんって呼んでおくれ。コトネさんもだよ。
うん、それにしても聖霊の雫石が似合っているね、聖霊も喜んでる。大切にしてあげてね」
「あ、ありがとうございます」
深々と頭をさげると「ほら、頭を上げなさい!」と優しくお叱りを受けてしまった。
それにしても本当に気さくな方だ。
「お義父さん、今日はローブ姿で一体何をしていらしたんですか?」
「あぁ、最近研究に凝っててね。今は新しい薬草を作る為に品種改良してるところだよ」
「どうりで、ローブに葉っぱがついてるわよっ!」
聖霊王としての仕事だけでなく研究までしているとは見たところお歳を召しているけれどお元気そうだ。
「な?気さくな方だろう?」
「イザークの回りにいる方は皆素敵な方ばかりね」
そう言うとイザークは嬉しかったのか引き寄せて髪の毛にキスをしてくる。
まわりの人を気にせずスキンシップをとってくるのはバルドさん、エーリアルさんの影響なのか…それとも私が日本人で奥手だから恥ずかしがってるだけなのかしら…?
昼食は聖霊王(おじいちゃんとはやっぱり呼びにくい…)と供に皆でいただいた。聖霊界の食事はカラフルな野菜や穀物が多く使われていてとってもヘルシーだ。食べる量も私と同じくらいなのでなんだかほっとする。久しぶりに「そんな少ししか食べないで!」と心配されずに済んだ。
バルドさんとイザークには物足りなかったらしく別途大急ぎでステーキや焼きたてのパンが追加されていた。
「今日はこのあとどう過ごすんだい?」
「聖霊祭に行くと聞いています」
「なるほどね。それは見ておいたほうがいい!とっても綺麗だし聖霊の理解も深まるだろうね」
「コトネちゃんにぜひ見てもらいたくって急いでお手紙飛ばしたのよっ!」
聖霊王にお会いすると言うファーストミッションをクリアしたので随分と気持ちに余裕が出てきたのか食事が進んでしまう。
花の蜜を使ったアイスクリームがおいしくて感動していたらイザークとバルドさんの分までいただいてしまってちょっと恥ずかしい思いをしてしまったけれど。
・・・
朝食後もしばらく城内を見学させてもらって過ごした。しかも聖霊王自ら解説してくださるというVIP待遇だ。
聖霊王の城はどの部屋にも絵画が必ず設置してありどれも趣のある物ばかりで芸術に詳しくない私でも充分に楽しめた。
特に国と聖霊の繋りを感じるものが多く、伝わる昔話も聖霊が出てくるものがほとんどで時間かあればもっと聞いていたいくらいだった。
夕刻、聖霊王と別れるとバルドさんがそろそろ出発するよと教えてくれローブを手渡してくれた。
聖霊王が着ていたものに似た白地にベージュの糸で刺繍がされたローブだ。良くみると蔦や花が刺繍されている。
「聖霊祭では白いローブを着るのが決まりになってるんだ」
そう言うとイザークは私にローブを着せてくれる。
ふと、いつもイザークは暗い色の服ばかり着ているので白のローブはかなりレアだなと思った。
「イザークが白いものを着ているのって新鮮ね。似合ってるわよ」
「なんとなく、白だと落ち着かないな」
このいい方だと当分白い服は着ないのだろう。せっかくなので目に焼け付けておかないと。
再び馬車で聖霊祭が行われる場所まで移動する。
会場が近くなってくると道を歩いている人達が皆白のローブをかぶっている。参加者はかなり多そうだ。
「イザーク、私達は王族専用の席から見学しなければいけないんだが、こちらに来るかい?」
「この国に来てまで堅苦しいことはしたくないんですよね。あくまで今日は魔界の王としてではなく、個人として楽しみに来たので遠慮させていただきます。だからおば様方にも内密にお願いします」
「あらぁ、そうなの?…まぁせっかくだからコトネちゃんと楽しんでらっしゃい」
そう言うとエーリアルさんはイザークの髪を撫でて「宜しくね」と小さく呟いた。
程なくして会場近くで馬車を降りた。二人だけで外に出るのは初めてだ。
「いいの?警備もなにもつけなくて」
「大丈夫さ。母が聖霊に俺達を守るようにって頼んでいたしここは聖霊界だ。俺の顔を知ってる奴なんてほとんどいないからな。お忍びだ、お忍び」
まるで子供のような無邪気な笑顔だ。エーリアルさんが髪を撫でていた理由は聖霊にお願いしていたからだったみたいだ。
イザークが人混みではぐれないようにと腕を差し出す。私はしっかりと腕に抱きついて、より人の集まる会場中心まで歩いていく。




