28話 たのしむこと
「コトネちゃん、今日はイザークのおじいちゃまに会う約束をしているの。それから聖霊祭に行きましょう!
さっそく用意をしましょ」
「イザークはこっちへ」
「じゃあコトネ、後でな!」
そう言うとエーリアルさんは私の手を取り足早に別室へと案内される。どうやら男性とはしばし別行動らしい。
エーリアルさんに連れてこられたのは中庭に隣接している窓の大きな部屋だった。
中庭には噴水が設置してあり花壇にはあらゆる種類の花が咲いていて、バラでできた立派なアーチまである。部屋の中からでも中庭にいるような気分になってしまう。
「私のお部屋へようこそ!さっそくお着替えしましょうね!」
「えっ!?着替えですか?」
「そうよ!今着ているドレスも素敵なんだけど、聖霊界にもトレンドってものがあるのよねー。コトネちゃんに着てもらいたくって今日のために用意しちゃった!」
今日もエーリアルさんの後ろには"てへっ☆"の文字が見えるようだ。
言い終わるや否やぞろぞろとエーリアルさんの侍女達が部屋に入ってきた。
私はフリフリ、リボンでないことを祈って覚悟を決めた…!
「やっぱりコトネちゃんにはブルーが似合うと思ってたのよ!」
頭のてっぺんから足の先まですっかりエーリアルさんのコーディネートでまとめられた。鏡を見て自分でも驚いてるけれど、似合ってるかも…。
髪の毛は編み込みされ所々に宝石でできたピンが留められている。
ドレスはブルーのオーガンジーの布をいくつも重ね合わせたゆったりとしたシルエットにパールを重ねたネックレスが首から下がっている。
魔界ではコルセットをしっかり締めてドレスを着るのが主流なので着ていて圧迫感もない。
魔界でもゆったりシルエットが流行れば良いのに!
「ありがとうございます。普段着ているものとは違うので新鮮です!」
「国が変わると流行りも随分変わるものよねっ」
そう言い衝立から出てきたエーリアルさんを見てびっくりした!
「ふふっ、コトネちゃんとおそろいなの!」
色違いのグリーンのドレスを身にまとっている。同じドレスでもエーリアルさんがが違うと全然違うドレスに見える!
エーリアルさんは喜んでいるけど隣に立つと差は明らかで、ちょっと内心複雑だったりしてしまう…。
「娘ができたら一緒にこーゆうことしたかったのよ!楽しいわっ」
無邪気にドレスの裾をつまみくるくると回るエーリアルさんはまるで子供のようだ。
そう言えばお母さんとは同じ洋服を着るだとか、貸し借りなんてしたことなかったな。と、ふと思い、恥ずかしがらずせっかくなのだから堂々と楽しもう!と吹っ切れた。
「エーリアルさん、私も楽しいです!ありがとうございます」
「あのね……もう"ママ"って呼んでもいいのよー?」
「えっ!?あの、それは……気持ち的には思ってますが…一応、まだ…」
エーリアルさんは頬を染めて私に言った。
さすがにまだ結婚していないし…さすがに恥ずかしい…!私もきっと頬が赤くなっているだろう。
たじろぐ私を見て何やらにやにやとしていたけれどどんな表情でも絵になるのだから美人ってすごい。
「おまたせしましたぁー!」
バルドさんの応接室だという部屋へエーリアルさんに続いて入る。
部屋はダークブラウンで統一され落ち着きがあり壁一面には本棚が設置されていてテーブルの上には中庭に咲いていた花が飾られている。
バルドさんは知っていたようだけれど、イザークは私達が部屋に入ると顔が明らかに驚きの表情に変わった。
「 そのドレスも良く似合ってるよ。素敵だよ、コトネ」
すかさず側まで来て手を取りくるっと私を一回転させると嬉しそうに言ってくれた。
「本当に?エーリアルさんとお揃いなのはとっても嬉しいんだけれど、お隣が美人すぎて恐縮しちゃうわ」
「そうなのか?母よりも断然コトネの方が似合ってるよ」
あまりにも素直に誉めてくれるものだから恥ずかしくなってしまう。
そんな私達をバルドさんとエーリアルさんは笑顔で見守ってくれている。あちらはあちらでバルドさんが「今日も美しいよ」なんてベタ誉めしているけれど。
「では、準備もできたところで出発しようか」
「コトネちゃんに聖霊界を良く見てほしいから馬車で行きましょっ!」
門前には白い馬車が用意されていて二頭の馬が繋がれていた。
「私の知ってる"馬車"って感じだわ」
「どういうことだ?」
「魔界ではドラゴンが馬車を引いているでしょう?私の住む世界では馬が引いている事が多いから親近感わくなぁ、と思ったのよ」
「そうなのか。俺は馬だと力が弱い気がしてなんだか物足りないな」
「そんなこと言ってると今度アサヒに噛まれちゃうわよ!」
馬車に乗るとエーリアルさんは私を進行方向窓側の席に座らせてくれた。
馬車が動きだし程なくして広い丘を眺める道に出た。
丘には何頭もの馬が放牧されているのだろうか草をついばんでいたり日差しが気持ちいいのか横になって寝ている馬もいた。
斜面には白や黄色、紫色とたくさんの花も咲いていて太陽の日を浴びて水滴がキラキラと輝いている。
先ほど見たエーリアルさんの中庭も手入れされていてとても綺麗だったけれど人の手がはいっていない丘もまた違った魅力があり絵になる。
「魔界で聖霊界には花が咲き乱れていてとても綺麗だって聞いていたんです。本当に綺麗でどこを見て良いのか困るくらいです!」
「そうなの!こちらでは一年中こんな感じで花が咲いているのよ。目には見えないけれど聖霊ちゃん達が頑張ってお手入れしてくれているおかげなのよっ」
「そういえば、魔界のお城の庭園はバルドさんがエーリアルさんへ贈ったものだと聞きました」
庭園の話をすると二人は目を見合わせて幸せそうに微笑んだ。
「そうなのよ!前はあそこも芝生だけの庭でドラゴン達の爪痕や魔法の練習で穴だらけで悲惨だったの。
私がお花が恋しいっ!!って駄々こねたら作ってくれたのよっ」
「そうだったな。あの時はエーリアルが泣いて大変だったな」
「やだぁ、そんなこと覚えてたのぉ?」
あ、もうこれは見つめあって目がキラキラとしてしまっている完璧二人の世界に入ってしまった…。
「気にしないでくれ。恥ずかしながらこれが彼等の日常だからな」
ぽかんとしてしまった私をみかねてかイザークが私の手を握り小さな声で教えてくれた。
王位を息子に譲って早々に聖界へ移住してしまうほどだからなるほどと頷けるけれど。
馬車はその後も煉瓦でできた大きな風車や澄んだコバルトブルーの海、金の稲穂が揺れる麦畑の横を通り景色を楽しむようにゆっくりと進んでいった。
馬車が白い煉瓦道を通り始めると段々と聖霊王の住むお城が見えてきた。
白い壁に青い屋根が何ともメルヘンチックで可愛らしいお城だ。門前から赤にピンク、黄色のバラがたくさん咲いている。
「そうだコトネ、母がこの通り自由な性格だろう?聖霊王も基本こんな感じだから驚かず気さくに接してくれるといい。俺も会うのは久しぶりだから熱烈に歓迎されそうなんだけどな」
「王様に気さくにって難しいこと言うのね。」
「まぁ、会えばわかるさ」
馬車の扉が開き城内に通されるとエーリアルさんは生き生きと案内をしてくれる。
「さぁ、こっちよ!」




