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27話 聖霊界

 

 とある天気のいい日の朝食時に"それ"は突然やってきた。


「そういえば、コトネは最近庭園によく行ってるみたいだな」


「そうなの! 庭師の方にバラの手入れを教わってるのよ」


「育ててるのか?そんな事まで学び始めたのか。手広いな」


「だってね、イザーク。ちゃんと手入れをするとバラは綺麗に咲いて答えてくれるから楽しくなってきちゃったのよ。今度咲いたらテーブルには私が育てたバラを飾るわね」


「それは楽しみにしてるよ」


 言いつつ庭園のバラの花弁で作ったジャムをパンに塗ってぱくりと食べる。もちろん、育てているのは食べるためではないけれど、最近私は勉強の合間にカーデニングもはじめた。自分でもガーデニングがこんなに楽しくなるなんて思ってもいなかったわ。


 開いた窓からはふわりと暖かい風が流れてくる。


 すると、風に乗りまるでガラスでできた半透明の小鳥が静かに室内に入ってきた。


 あまりにも自然に入ってきたので色のせいもあって理解できるまでに一呼吸かかった。


 その小鳥は静かに羽ばたきながらイザークの頭の上を旋回する。

 イザークがひょいと手を上げると小鳥は指に止まり羽を大きく広げたかと思ったら空中に溶けるように広がり一瞬で一枚の紙になった!


「何!? 魔法?」


「いや、手の込んだ演出だが母からの手紙だ。風の聖霊が小鳥の姿を借りて運んできたんだ」


 聖霊はそんなことができるのかと驚いた。小鳥が空中に広がった時七色に光ってとても美しかった。

 小鳥が入ってきた瞬間からずっと見とれてしまっていた。


 イザークは手紙を読み終えると側近に執務スケジュールを確認した。

 何やら日程を調整している。


「コトネ、再来週の予定を開けてもらってもいいか?」


「再来週? ええ、わかったわ」


 イザークは紙とペンを持ってこさせ短く返事を書くとその紙を四つ織りにし両手の中に隠すようにいれる。

「鳥になり運んでくれ」小さく呟きながらゆっくりと手を開くと先程と同じく半透明の鳥になった!


「イザークにもできるの!?」


「母程ではないが俺にも聖霊の加護があるからな」


 窓へ近づくと小鳥の乗った手を外に伸ばし飛んでいくように促した。小鳥は羽を広げあっという間に遥か彼方まで飛び差って行ってしまったのだった。


「私にもできるかしら?」


「残念ながら聖霊の雫石は一方的な加護だから、使いこなせるようになるわけではないんだ」


 胸のペンタントに触れ少し期待してしまっていた。ユリアーナにこれで手紙を届けられたら素敵だと思ったのになーんだ、と思った事は顔に出ていたのかイザークは「残念だったな」と言って笑う。


「母から聖霊界に来ないかと誘いがあったんた。急だが時間を調整して伺おう。

 聖霊祭を見に行くのと、その雫石の礼をしに聖霊王にも会いに行こう。きっと先方もコトネに会いたくてしょうがないんだと思うしな」


「聖霊祭?」


「母がコトネにぜひにと言っているからな」

「それは楽しみだわ。聖霊王にお会いするのは…心の準備をしておかないと」


「大丈夫、優しい方だよ」


 聖霊王はエーリアルさんのお父さんでイザークには祖父にあたる方だ。

 そんな凄い方に会いに行くと言われると上手くご挨拶できるだろうかとドキドキしてしまう。


 …まだ出掛ける前なのに私はいつも緊張してばかりだ。自分のポンコツ具合にうんざりしてしまう。



 ・・・



 聖霊界については簡単に国の成り立ちや文化についてはすでに勉強はしていた。けれど実際に行った人の話を聞いてみたいと思い、カーネルさんとの勉強の合間に切りの良いところで話題にしてみる。


「あの、伺いたいのですが聖霊界に行ったことはありますか?」


 歴史の勉強が一段落するとアンナはお茶をいれてくれる。カーネルさんとのお茶の時間にはドライフルーツがたっぷりと入ったケーキが用意されることが多い。好物らしくぺろりと平らげてしまうカーネルさんがなんだかかわいい…と思っているのは内緒だけれど。


「ええ、随分と前のことになりますが行きましたよ。聖霊界は植物が多くいつ行っても花が咲き乱れている印象が強いです。花に興味のなかった私でも凄いなと思ったものですからね。

 そうそう、城の庭園も先王が王妃様への贈り物として作られたものなんですよ」


「あの庭園はエーリアルさんへの贈り物!?」


 短いヒゲをさすりながら時おり目をつぶって風景を思い出しているのだろうか、ゆっくりと話してくれる。

 さすがカーネルさん、経験値が高いだけあってちょっと聞くだけで新しい事を沢山教えてくれる。


 それにしても庭園がプレゼントだったなんて…温室も付いているし贈り物のスケールが大きすぎる。


 美しい聖霊界、この話を聞いて楽しみになってきた。

 少し緊張も解れてリラックスして再来週を迎えられそうだ。



 ・・・



「コトネ、用意はできたか?」


「はい、できたわよ」


 イザークは忙しいスケジュールを調整し2日間だけ聖霊界へ行く時間をとった。公務ではなく二人だけで行く旅行とでも思っていてくれ、と言われていた。

 それにしてもあちらでは聖霊王に会わなくてはいけないので着るものにも気を使う。と思ったのだけれど…


「イザーク、本当に荷物は持たなくて良いの?」


「ああ。全て父の城で用意すると言ってるからな」


 アンナもお洋服もお化粧品もですか?と心配してくれたのだけれど、バルドさんがそう言っているならそうするしかないだろう。


「では、さっそく移動魔法で行くからな」


「はいっ」


 伸ばされた手を取り腰に手を回す。


「それじゃあ2日間留守にする。留守は頼んだぞ」


 部屋まで見送りに来てくれたケヴィンとアンナにそう言うと体の回りが光に包まれる───。




 次の瞬間、目を開けると見慣れぬ建物の中だった。


「イザーク、コトネちゃん、いらっしゃーい!」


 階段からバルドさんとエーリアルさんが降りてきて出迎えてくれる。

 相変わらず綺麗で神々しい。


「父上、母上、招待いただきありがとうございます。世話になります」


「宜しくお願いします。」


 エーリアルさんは小走りに私に駆け寄ると勢いよく私に両手を伸ばし抱きついてきた。

 いきなりのハグに驚いて受け止めきれず一歩後ろによろけてしまう。


「コトネちゃん、お母さんの事聞いたわ。コトネちゃんがとっても悲しい思いをしている時に何もできなくってごめんなさいね」


 ぎゅっと抱き締める力が強くなった。声は涙声だ。


「とんでもありません。エーリアルさんにもご心配おかけしていたなんて…ありがとうございます。大分心の整理もできてきました。

 それに"聖霊の雫石"もありがとうございました。さっそく聖霊が助けてくれました」


 あぁ、なんて心の綺麗な人なんだろう。こんなにも私の事で悲しんでくれるなんて嬉しくて私まで泣けてくる。

 手をエーリアルさんの背中に回して私も強く抱き締めた。


「雫石は気にしないで。昔からいずれイザークの大切な人に渡そうと思っていたものだから。

 あのね、今日明日はあんまり我慢しちゃダメよ?たくさんワガママ言ってね?」


「2日間短いが我が家だと思ってゆっくり過ごしてくれ」


「はい、ありがとうございます」


 バルドさんの声も優しく心地良い。

 エーリアルさんは私の顔を覗きこみ再び強くハグをした。


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