26話 ドラゴンの卵奪還作戦.5
「うわっ、すごい埃!ゴホッ、ゴホッ」
倉庫の中からは真っ黒になった風が一気に外へ流れ出した。汚れた風を上空に巻き上げ分散させる。
周辺の空気が綺麗になった所で再び手をかざし、より慎重にイメージをする。木箱全体を浮かせて倉庫の外へ出すように。
想像しているより木箱は重い。少しずつだけれど慎重に倉庫の外へ出す。
土埃を舞い上げながらも静かに着地させた木箱の中を念のためもう一度確認する。
「1.2.3…よかった、9個ちゃんと揃ってる」
もしも提案した作戦が失敗したらどうしよう!?
卵が見つからなかったらどうしよう!?
そんな不安が少なからず頭の隅にあったので安心してふーっと大きく息をはいた。
木箱を覗き込む私の横にアサヒもぴったりと寄り添い首を伸ばして卵の匂いをかいでいる。
羽がゆらゆらと動き随分とご機嫌そうだ。
「ここまで来てくれてありがとう、アサヒ。卵が元気そうでよかったね!」
「コトネ!木箱はそれか?」
卵を確認し終えたタイミングでイザークとアマロが到着した。
アマロを上空に待機させイザークは風の魔法で木箱の前まで降りてくる。
「これがドラゴンの卵で間違いない?」
「間違いない。よく見つけてくれたな、ありかとう」
イザークが強く抱き締めてくれるとこれまで緊張で張り詰めていたものがぷつんと切れたかのようなにふっと気持ちが楽になった。
…やっぱり一人で行動するのは怖かった。
「信じて実行させてくれてありがとう」
「ああ、信じていたが心配すぎて死ぬかと思った。…さっそく卵を運びだそう!」
木箱の蓋を閉めるとアマロを呼ぶ。
その時、何やら建物入り口付近から騒がしい声が聞こえてきた。どうやら城から騎士団が到着したみたいだ。表の騒ぎに気をとられて利用者達がアマロに気づかないうちに卵を運び出す。
アマロは立派な後ろ足でしっかりと木箱を掴むといつもよりゆっくり丁寧に上空へ昇った。
私も再びアサヒと一緒にアマロの後を追う。
上空には雌ドラゴンも来ていてアマロの足につかまれた木箱に顔を近づけて喉を鳴らし心配そうにしている。
ドラゴンの生態については今まで気にしたことがなかったけれどこんなにも母性愛の強い生き物だとは驚いた。人もドラゴンも子供を心配する気持ちは同じなんだなと思うと胸がきゅっとする。
しばらくするとマウナ火山のドラゴンの巣へ近づいた。
どこまで一緒に行ってもいいのか心配したけれどイザークが巣まで行っても大丈夫だろうと言うのでアサヒと一緒に巣の近くへ降りたった。
ゴツゴツとした岩だらけの斜面にたくさんの小枝や藁を編んで作られているドラゴンの巣では雄ドラゴンが心配そうにこちらを伺っている。残った卵を世話していたみたいだ。
「私達が近づいて怒らせてしまわない?」
「アマロが俺達は害はないって伝えてくれたみたいであの後雌ドラゴンも大人しくなったし大丈夫だろう」
巣のそばに降ろした箱の中身を確認すると忙しそうに2羽のドラゴンが口にくわえて巣へ戻す。
嬉しそうに喉を鳴らしながら卵の世話をする姿がなんとも言えない。
卵を全て巣に戻し終えると一つ一つ転がしながら卵の無事を確認をし満足したのか、雄ドラゴンが卵を暖めるように上に覆い被さった。
「ドラゴンは雄も卵をあたためるの?」
「互いに食事に出たりしながら交代で暖める習性だ」
私達が話していると雌ドラゴンがゆっくりと歩いてこちらにやって来た。
野性のドラゴンの鱗は近くでみるとイグアナやとかげのような細かい鱗で被われていて筋肉の動きまでがよく見てとれる。
迫力もあり近くまで迫られると無意識に後に下がりたくなってしまう。
目の前まで来ると長い首をゆっくりと動かし頭を地面にくっつきそうなほど低く垂らしてこちらを大きな目で見ている。
「すごいぞコトネ、野性のドラゴンが服従の姿勢をとっている!」
「これがそうなの?」
イザークは嬉しそうに近づきドラゴンの頭を撫で始めた。
同じように私も頭を撫でるとドラゴンは目をつぶり喉を小さく鳴らした。
「私達と同じ"人"が酷いことをしてしまってごめんなさい。卵が無事孵化をして元気に育つように見守らせてね」
そう言うとドラゴンは瞬きをしてから再び喉を鳴らした。
・・・
その後、しばらくしてから大使館員の処遇が決定された。
ドラゴンの卵を盗んだのは謁見に来ていた3名で人間界へ違法に持ち出し売ろうとしていたらしい。過去にも魔界の持出しが禁止されている植物や薬物の違法持ち出しが今回の事で公になり国際法に基づき厳しく処罰されると言う。
大使館に残っていた人達は彼らがそんなことをしていたとは全く知らなかったらしいが近く人員の入れ換えがされるらしい。今後はより厳しく人間界からも魔界からも大使館は監視されるとも。
相変わらず夕食後私の部屋へ来るイザークはいつの間にか大きなソファを取り寄せて私の部屋に置き完璧リラックスモードだ。
自分の部屋は仕事のものが多くて落ち着かなくなってしまったらしい。
あのドラゴンの一件後、聖霊の雫石が光ったり熱を帯びたりすることは今のところない。
イザークは頭に響いた言葉は聖霊のもので「聖霊がおしえてくれたんだろう」と言う。聖霊にお礼できるのか聞いたけれどそこは聖霊の気まぐれもあり難しいと言うのでペンダントに向かって「ありがとうございました」とお礼しておいた。
「ねぇ、ドラゴンの卵はいつ頃孵りそうなの?」
「そこは聞いてなかったな。気になるなら明日にでも様子をこちらに報告するよう手配しておくよ」
すっかりドラゴンに興味を持ってしまった私は最近図書室からドラゴンに関する書籍を持ってきては読み漁っている。
「ありがとう!本を読むと雛の時期は短いらしいから雛のうちに会いに行けたら…いいなぁ、なんて」
お城の外へ外出するにはイザークの許可をとらないといけないのでちょっと上目使いぎみにお願いをしてみる。
まぁ、私の考えている事なんてすでにバレているだろうけど。
「うーん、俺も見に行きたいし検討しても良いぞ。今回の件でコトネの成長も見られたしな」
私の魔法についてだろうか?それとも行動力?
何の成長だろうと考えているとイザークは自身の頬を指差す。
…と、すっかり忘れていた大使館へ行く前の自分の行動を思い出した!!
「あ、あれはその場の勢いというか!」
「へぇ、もうしてくれないのか?」
「いや、あのね…でも、今はしない!しないわよ!また私のテンションがあがったら…って、もう!いじわるしないでよ」
大使館の件でしばらくイザークの顔付きは険しかったけれど久しぶりにおもいっきり笑ってくれた気がする。




