25話 ドラゴンの卵奪還作戦.4
「いっ…たぁぃ」
倒れこんだ先、床には絨毯が敷いてある。おかげですり傷の心配はなさそうだ。
真っ暗な箱の中から急に明るい外に出たので眩しくてすぐに置かれている状況を把握することが出来なかった。
「コトネ!?」
「え?」
頭上から声がした。
驚いて顔だけそちらに向けるとイザークと目が合った!!
「イザーク!?ここ…お城に出てきたのね!?」
目の前にはソファの背が見える。
どうやらイザークの座っているソファの後ろに出たようだ。
イザークはこちらに来ると手を差し出し立ち上がるのを手伝ってくれる。
「どうしたんだ!?どうやってここに?」
「説明は後で!大使館の倉庫にドラゴンの卵があったの!急がないと怒った雌ドラゴンがもうすぐで街に来てしまうわ!」
「「「なぜそれをっ!?」」」
自分でもこの状況が飲み込めないけれどと頭の中に響く声は急いで、早く、と私に伝えてくれた。とにかく急がなきゃ!
その事だけを考えていたのでイザークではない"誰か"の声は耳に入っていなかった。
「ドラゴンの卵がそちらの大使館にある…これは由々しき国際問題ですね?」
イザークは私から目を離すと鋭い眼差しで睨みながら"誰か"に話しかけた。
イザークの目線を追うと年配の男性が3名ソファに座り肩を震わせて小さくなっていた。
…人間界の大使館職員!?
「大使館員達を城から出すな!帰り次第処分を検討する!!大使館に残ってる職員にも聞き取りをしに騎士団員を向かわせろ!」
大きな声でそう命令するとイザークはそのまま崖に面した窓を大きく開け放つ。
「ドラゴンが街に来る前に何とかしないと!コトネ、行くぞ」
言うや否や私を抱き抱えて窓枠に足をかけた──!!
私は両腕をイザークの首にまわしてしっかりと抱きつく。
窓枠から踏みきりをつけて勢いよく宙に足を伸ばしたかと思うと次の瞬間にはアマロの背中に乗っていた。
「マウナ火山の方へ行って!」
「わかった。アマロ、急ぐぞ!」
アマロは大きな翼を広げるとあっという間に風に乗り広い森を抜け岩山を越えてマウナ火山を目で確認できるところまでやってきた。
眼下には溶岩が固まってできた真っ黒な岩の大地が広がっている。
『ミギ、ママイルヨ』
またはっきりと頭の中で響いた!
「アマロ、右に曲がって!」
「どうしたんだ?」
「聖霊の雫石が光りだしたと思ったら頭の中で声が響いたの。誰かが教えてくれているのよ!」
聖霊の雫石を胸元から取り出してイザークにも見せる。今もまだ光り熱を帯びている。
大きな白い雲を抜けると数十メートル先に牙を剥き出しにしながら街のある方向へ飛ぶ大きなドラゴンを見つけた!
アマロよりは小さいが大きさはまるでトラックだ。
鋭い牙に鋭い爪、街へ降りて暴れでもしたらひとたまりもないだろう。
こちらに気づくと苛立っているのか咆哮し怒号している。
「ドラゴン、卵は見つかった!すぐに返す!今すぐ街へ行くのを止めるんだ!」
イザークが叫ぶとアマロが雌ドラゴンに対して何度も吼える。
するとアマロに答えるようにスピードを緩めこちらに向き直った雌ドラゴンも吼えはじめた。
「ドラゴン同士で会話をしてるの?」
「多分そうだろう。アマロは使い魔だが土台はドラゴンだからな。こちらの方が力も強いから言うことを聞いてくれたらいいんだが…」
『ママ、タマゴ、ハヤクカエシテホシイ』
『シンパイ、シンパイ』
「また声がしたわ!心配だから早く卵を返してほしいって言ってるみたい。
……ねぇ、卵は木箱にまとめて入っていたからアマロに運んでもらう事はできないかしら?」
「そうか。それなら確かにアマロにまとめて運ばせた方が早いな」
私は手をかざすとアサヒを空間から呼び出した。白く美しい翼を広げて出てきたアマロは心なしか顔がキリッとしている。これまでの経緯は分かってくれてるみたいだ。
「私が先に大使館に行くわ。アマロとドラゴンの話が終わったら続いて向かってきて」
「わかった!気をつけて行ってくれ」
「はい!」
「アサヒお願いね」アサヒに横乗りになると鬣を撫でながらお願いした。アサヒは体をぐんと起こし前足で空中を走るように勢いよく蹴り出すと大使館方面へ急いだ!
なるべく目立たないように上空高い場所を飛び大使館付近に近づくとアサヒは急降下する。ふと馬車で待ってくれているケヴィン達を思い出した!
「アサヒ、大使館前の道を回ってから倉庫へ行って!」
大使館前の壁に沿って表通りを移動すると馬車が見えた!アサヒに気づいて驚いた顔をしている。
「ケヴィン!卵が倉庫の中で見つかったわ!もうすぐイザークとアマロも来るの。上手くいったわ!」
「イザーク様が!?私がお手伝いできる事はありますか!?」
「もうすぐここにも聞き取りをする為に城の人が来るからそちらの対応をお願い!」
「はい!」
突然、大使館内に入っていたはずの私が外から来たからびっくりしただろうに冷静な対応はさすがだ。
私はそのまま裏手に回って壁を越え倉庫正面でアサヒから降りる。
倉庫正面の錠前は掃除道具を取りに来た際外したままらしく地面に落いたままだった。
手をかざしてイメージする。
すると、倉庫内からは埃を巻き込みながら大きく渦を巻いて風がおき、扉を押し開いた!




