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24話 ドラゴンの卵奪還作戦.3

 

 もしかして怪しまれた!?


 私、挙動不審だった…!?


 かっと血が沸騰したように体が暑くなりじんわりと手に汗がにじむ。

 ここまで上手くやってこれた、倉庫の確認をするまでは絶対にバレちゃいけない…!!


 動揺を表情には出さないように笑顔をつくって振り返ると眼鏡をかけ本を手にする女性が立っていた。


「はい…?なんでしょうか?」

「あの、この本の続刊を探しているんですけど見つからないんです…」


 言いながら本の表紙を私の目の前に差し出してくる。


 え!?これって…!!


「あの、ごめんなさい。私ここのスタッフではありませんので…」


 私が小声でそう伝えると女性は眼鏡をかけ直し恥ずかしそうに口元を手でおおった。


「やだ!ごめんなさい。上から降りてきたからてっきり…間違えました!」


 早口でそう述べると頭を深々と下げて天井にぶら下がっている[貸し出し➡]看板の矢印に早足で向かっていった。


(わぁぁぁぁ、びっくりしたー!!)


 心臓の高鳴りを落ち着かせるために静かに深呼吸をしてみる。まだ汗がとまらない。

 女性と話をしていたからか、他の利用者の視線を感じドキドキがおさまるまで書架に隠れて本を物色するふりをしてやり過ごす。


 やっと落ち着いた頃、辺りに人目がないことを確認し静かに再び非常口を目指す。


 廊下を曲がると非常口はすぐに見つかった。鍵が内側からかかっているけれどかんぬき錠だったので音をたてないようにゆっくりと外して外に出る。

 外の新鮮な空気を肺いっぱいに吸い込む!先程までの軽やかな気持ちはどこに行ってしまったのだろう!?また誰かに話しかけられないかとすっかり臆病になってしまった。


 外は風が吹き木の葉の揺れる音がするだけで人の気配はない。

 倉庫の正面にある扉は馬車を入れるためなのか大きく、立派な錠前もついていたので他に入り口がないか左回りに倉庫を確認すると小さな裏口を見つけた!

 開けようと近づくと裏口には簡素な錠前がついていた。


「やだ、鍵かかってる?」


 手でガチャガチャと引っ張ってみるけれど鍵はしっかりかかっていた。鍵を触った手を確認すると錆がついているので鍵自体は古いものだけれどさすがに私の握力で壊すことはできなそうだ。

 …私の魔法でどうにかならないかしら?

 風、水、土では壊すのは難しそうだから…雷はどうだろうか?


 3歩下がって手を錠前にかざしてイメージする…


 バチッッ!!!


 鋭い音が短く響いた。

 恐る恐る落ちていた枝で錠前をつつくと錠前は鈍い音をたてて地面に落ちた。


「やったっっっ!!」


 はっとして回りを見渡す。つい嬉しくて声が出てしまったけれど呟き程度だから誰にも聞かれていないはず…。


 裏口を開けて中を確認すると小さな天窓から光が入る薄暗い倉庫内には掃除道具や埃をかぶった机や椅子がたくさん積まれていた。

 正面入り口近くにひときわ大きな真新しい木箱が置いてあるのが見えたので、念のため裏口の扉を閉めて埃を舞い上がらせないようゆっくりと木箱に近づいてみる。

 箱にラベルらしきものは見当たらない。力を込めて両手で蓋を押すとまだ釘を打っていなかったようで簡単に開いた。

 身を乗り出して中身を確認すると…


「藁がつまってるわね…ん?これは!」


 藁を軽くかき分けると底から白く丸いものが見えた!もしやと思って両手を使い藁をより多くかき分ける!



「あった…!?」



 白く大きな楕円の物体…これがきっとドラゴンの卵だ!

 数を確認したかったけれど木箱が大きく身を乗り出しただけでは手が届かない。届く範囲の藁をかき分け卵のないところに足を踏み入れて中に入ってみようと試みる。


「よいしょ…っ」


 スカートでこんな事をするのははしたないけれど、誰も見ていないので卵を踏まないよう気を付けながらゆっくりと木箱に片足ずつ入ってみる。

 すき間は等間隔でなかったので大きく足を開き上半身をねじりながら全体的に藁をまわりに寄せてタマゴを数えると報告された数とぴったり当てはまる9個だった。やはりこれが盗まれた卵だ!

 卵に触れるとほんのりと温かいのでほっとする。




「水漏れ酷かったー!」

「業者は手配したけど原因が分かるまで給湯室は隣の棟を使うしかないな」



 突然、人の声とガチャガチャと倉庫正面扉の鍵を開ける音がした!

 やだ、人が入ってくる!!

 箱から出て裏口まで走って間に合う!?木箱の蓋も閉めないといけないし…!


 ガチャン!とひときわ大きな音をたてて錠前が開く音がした。とっさに腰を屈めて木箱に身を隠し内側からそっと蓋を閉めた。

 息を潜めて人が倉庫から出ていくのを待つしかない。

 どうか、この木箱を開けませんように!!



「普段業者に依頼してるからここの掃除道具使うの久しぶりだよ」

「上が帰ってくる前に綺麗にしておかないと絶対うるさいからな」

「残業したくないから早く片そうぜ」

「わっ、蜘蛛の巣!」



 4、5人の声が木箱の横を通り抜ける。真っ暗な木箱の中で私はまるでツイスターで無理な姿勢を強いられているようになっている。

 体制を整えたいけれど真っ暗でもし卵を踏んでしまったらと思うと怖かった。

 ダチョウの卵は大人が乗っても割れないとテレビでやっていたのを思い出したけれどドラゴンの卵もそうなのかは分からないし…。

 無理な体制をしているからか時間の経過が長く感じてしまう。


 目を強く閉じて倉庫から早く出ていってくれるのを祈っていると胸に温かいものを感じた。

 何事かと思って目を開けると胸にかけている聖霊の雫石が淡い水色にぼんやりと光っているではないか!!

 服の内側に入れていたのでなんとか片手を使い服の外に出してみる。

 ぼんやりと光ながら熱を帯びている。


 何?どうなっているの!?



『オコッテルヨ、ママオコッテル』




 その時私の頭の中で誰かの声が響いた!


(怒ってるの?誰が?誰のママが?)

 心の中で思っていると再び頭の中で声が響く。


『タマゴノママ、オコッテル』


 会話が成立している!?

(卵の?このドラゴンの卵のママね!?)


『ハヤク、モウスグクルヨ、ツタエテ、イソイデ』


(誰に伝えればいいの!?)


 光が木箱から漏れないかと心配しながら会話をしていると大使館スタッフがやっと倉庫から出て行き扉の閉まる音がした。

 やっと箱から出られる!



『ツレテイクカラ、ツタエテ、ハヤク、マウナニイッテ』



 蓋を開けようと体を起こしかけたその時、急に目の前が開けたので不安定な姿勢をしていた私は前のめりに

 膝をついて倒れこんだ!



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