1話 起きたら異世界
(何がどうしてこうなったのぉぉ !!!???)
大声で叫びたいところだけれど、あまりにもびっくりしていて声が出なくて心の叫びになってしまう。
なぜなら……
私のいる場所がキングオブ悪役! 魔王の膝の上だからだ!!
・・・
私、桜井琴音は一人暮しをしている自宅から電車で約40分の会社に勤めるごくごく普通のOLだ。会社はどこにでもある中小企業で営業事務をしており、朝8時30分に出社しほぼ残業はなく17時30分には会社を出られる。学生時代仲良しだった友人逹はけっこう忙しい仕事をしていて平日夜にご飯しよー! なーんてことは残念ながら滅多にない。これといった没頭できる趣味もなく、彼氏も大学を卒業してから早3年、出会いがないのを言い訳にできそうにない。女子高、女子大だったこともあってか今のところ
年齢=彼氏いない歴である。
自宅に帰り自炊をし、テレビドラマを見てスマホをいじり美容のため23時30分には寝る。
そう、至って普通の……地味な生活をしていたの。
していたのである!
6月のあの日までは!!!
・・・
6月、梅雨真っ只中。
月曜日からしとしとと雨が降り続き木曜日の夜も1Rの部屋には乾ききらない洗濯物が干してある。
扇風機をひっぱり出して風をあてているが湿気は手強くてなかなか乾かない。
「あー、明日頑張れば休みだぁぁ。土日は晴れるみたいだし掃除日和だなぁ」
夜のニュースでやっている天気予報をチェックしながらつぶやく。いくら残業がなくても木曜日の夜だからか体に疲れがたまっているのでふくらはぎを自己流でマッサージしつつ時計に目をやると23時。
「疲れたし今日はもう寝よっかな」
部屋にはよく眠れるようにラベンダーのアロマオイルを使ったキャンドルを灯している。部屋中いい香りに満たされたところで火を吹き消しベッドに潜り込む。アラームはセットしてある。リモコンで部屋の電気を消し目を閉じる。
目を閉じてイメージするのは小川のせせらぎ。
うつらうつら、夢の中へ。
「おお…魂が人形に移っていく」
「成功したか!?」
(んん? なんだか、おじいさんの声がする…)
(テレビつけっぱなしにしたっけ……?)
(あれ? まぶしいなぁ……)
(目を閉じてるのに光を感じる……)
(もう朝……?)
まぶしさと人の気配でゆっくりと目をあけると……
まるで夏の日差しのように明るい。それに、風が気持ちいい。梅雨なのにからっとしていて暑くもなく寒くもなく丁度いい暖かさ……
ん? でも、何かがおかしい。毛布をかぶっていたはずなのにかかっていない。蹴飛ばした?
あれ? ベッドが硬いし……このひんやり感は……石?
私はたまらず薄目をあけつつ上半身を起こした。
「お、起き上がった!!」
「無事成功じゃ!!! 早く王に伝えねば!」
「え……?」
目が明るさに少しずつ慣れてきてやっと自分のまわりで何が起こっているのか分かってきた。目の前にはおじいさんが二人、その後ろにもたくさんの人がいる。
何より見慣れた1Rの部屋ではない!
「も……森と人…… !???」
あまりに突然でとでもない目の前の状況に、何が起こっているのか理解できない!
私、誘拐されたの!? え、そんなことある? いや、でも……
「はじめまして。ご気分はいかがですか? 頭が痛かったり、気持ち悪かったりはしていませんか?」
パニックになってしまって頭が働かず上半身を起こしたまま固まっている私の前に優しい笑顔の女性が一人近づいてきた。
「えっ……あ、はい。特にそういうのは、ありません……けど、今一体、何が? ここは、どこですか?」
「突然でびっくりされたでしょう、何も心配ならさないでください。お話しはここでは何ですから、場所を移しましょう。さぁこちらへどうぞ」
私はしどろもどろだけれど頭に浮かぶ言葉を懸命につないだ。
女性はゆっくり話しかけてくれ私は促されるまま立ちあがり女性の誘導にまかせて歩く。
(いや、心配ないって……ことはないでしょ)
心の中で静かにツッコミを入れながら何が起こっているのか把握しようとしてみた。今いる場所は開けてはいるが森の中のようだ。開けた先に若葉の生い茂る木々がひろがっていて、足元には草花が生え歩くとパキッと音をたてて小枝が折れる。
そういえば私が着ているものはいつもパジャマ代わりに着ている半そでシャツとショートパンツじゃない! 七分袖で丈が長いワンピースになってるじゃないの! こんなの持ってないし、寝ながら着替えさせられたとしたらどんだけ寝てたの私……!?
誘導された場所は歩いてすぐの所に止めてあった馬車の中だった。
(馬車なんてはじめて乗るなぁ……ん? なんか馬がつやっとしてる?)
「さぁ、中へどうぞ」
「は、はい。失礼します」
まわりをゆっくりと見渡す間もなく中に通される。馬車の中は真っ赤なソファになっていた。女性と対面して座ったところでゆっくりと扉が閉まる。
「改めましてはじめまして。わたくし城に使えておりますアンナと申します。これから先、貴女様の身の回りのお手伝いをさせていただく者です」
「あ、はじめまして。琴音……桜井琴音です。あの、私はどうやってここに連れてこられたんでしょうか?なんでここにいるんでしょうか? ここはどこですか?」
アンナさんは深々と頭を下げる。アンナさんの笑顔は素敵だし雰囲気がとても優しい。なんだかほっこりする。
普通ならこの状況で怒って怒鳴り散らしてもいいのだろうけど不思議とそんな気分にはならない。
「コトネ様、このあと城に着いてから詳しいご説明がありますが簡単に言いますとここはコトネ様がお住まいになっていた世界とは全く異なる世界です。人も、文化も何もかもが違うと聞いています。
コトネ様は元いた世界より今は魂のみこちらの世界にいらっしゃっています。今のお体は元いた世界のコトネ様と瓜二つにつくられた仮のお体です。
コトネ様にはまず魂からこの世界に慣れていただき、ゆくゆくは我が国の王のお妃様になっていただきます」
アンナさんは笑顔だ。
しかし、顔は真剣そのものだ。
「わ……、分かりました! これ、夢ですね!」
そう言葉を発した私はそのまま横に倒れた。
夢ならば覚めるだろう。
脳が寝てしまえと電源を切った。
覚えているのはそこまでと、馬車が揺れていたことだ。
初めての小説投稿です。
色々思うところはありますでしょうがどうぞゆるーく宜しくお願いします。