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17話 お礼

 先日のエーリアルさんに連れ去られた一件があってからというものイザークの心配性が止まらない。


 一番困っているのはアンナの他にローテーションで騎士団の方が私の側につくようになった事だ。

 アンナは勉強中側にいても上手く気配を消し静かに見守ってくれているのだけれど、騎士団の人は気配も殺気もビシビシと伝わる程に出しているおかげで勉強に集中できない!

 常に視線もバシバシぶつかってくるのだ。

 正直、常に強面の男性が私を監視している状況が…怖いっ!


「ねぇイザーク、私もっと魔法の勉強を頑張るからもう少し…警備をお手柔らかにしてもらえないかしら?」


 騎士団の人だけではない。イザークは執務の合間に今まで以上に私の側についてくれている。

 現に今も…まだ午後の早い時間にも関わらず私の部屋で横になって仮眠をとっている。

 なぜか私の膝の上で。


「うーん、まだ俺の気が済まないんだ」


 私は本を読む手を止めてイザークの前髪に触れる。

 この世界に来るまでこんなにも男性と接近する機会なんてなかったから以前はドキドキしてしょうがなかったが最近は落ち着いて過ごせるようになった。


「イザークは毎日仕事で疲れているのに私の世話を焼くのにも時間を使わせてしまって…倒れてしまわないか心配してるのよ」


 手触りの良い髪の毛をかきわけ眉間を指でなぞるとはっきりと2本の溝に触れる。


「ほら、眉間のシワがくっきり」


 なるべく優しくなぞっているとイザークの手が私の手を掴んで頬によせる。


「眉間のシワは昔っからあるぞ!疲れてなんかいない。

 それに今はコトネの側にいない方が心労で倒れてしまう。

 俺も城の中で警備をつけるなんてやり過ぎだと思ってる。でもまだ先日の事を思うと不安と、不甲斐ない自分への怒りとでどうにかなってしまいそうなんだ。

 だからもう少し、俺が落ち着くまでは…お願いだ」


 イザークのせいではないのにずっと自分が悪かったからだと攻め続けている。普段強気なイザークが弱々しい目で私にお願いをしてくるなんて相当参っているようだ。


「じゃあ…夜会が終わるまでに落ち着いてくれると嬉しいかな。

 私もいつまでもこんな事じゃお城の皆にコトネはイザークに守られていないと何も出来ない。イザークに相応しくないって思われてしまうわ?」

「それは困るな。コトネ以上に俺に相応しい女はいないからな!」


 困ったようにはにかみ笑う顔がまた…

(か、格好いいっっ)


 自分の体温がぐっと上がるのがわかった。

 頬の赤らみを見られないようにとまた本を読むふりをしてみせるが膝の上で忍び笑いをしているイザークにはバレていそうだ。


「あ、そうだ。もしイザークが言いたくなかったらいいんだけれど…」


 ・・・


 お城の執務室が悲惨なことになったあの日、私は戻るとすぐにユリアーナに事情を説明し安心させた。彼女の頬には涙の跡がいくつもあり本当に心配をかけてしまって申し訳なかった、私のために心配をしてくれて感謝していると心から伝えた。


 ケヴィンにもお詫びをしに行ったのだがその時に「イザーク様がここまでお怒りになられたのは随分と久しぶりですが以前もエーリアル様との間に衝突があった時だと記憶しています。親子喧嘩はもう少し静かにやっていただきたいものですね…」と話してくれたのだ。


 一体前にはどのような件で喧嘩になってしまったのか聞いてみたかったのだ。

 …今後の参考までに。


 ・・・


「前にもエーリアルさんと喧嘩をしてイザークがとっても怒ってしまったって聞いたのだけれど、どんな喧嘩をしてしまったの?」


 ケヴィンに聞いた、という部分は内緒にしておいた。あくまでも噂を小耳にはさんでしまった体で聞いてみた。


「あぁ、王位を継ぐ前だったな。

 コトネと揃いでつけているこの指輪を作った時だ。いつかコトネが現れたときにすぐにでも渡せるよう俺の部屋にしまっておいたんたがなぜだか母にバレてな。勝手に取られてしかも逃げ回るものだからつい激怒してしまったんだ。

 あの頃は若かったから酷かったぞ。3部屋くらい壊したかな?」


 イザークは懐かしい出来事を思い浮かべるかのように笑いながら話してくれたが私はきっと無邪気に指輪を持って走り回ったであろうエーリアルさんを簡単に想像し、親子喧嘩で部屋を3つも壊されて呆然とするお城の人達の事を不憫だと考えながら苦笑いするしかできなかった。


 そのとき、アンナが「お茶をお持ちいたしました」とドアをノックした。

 いつもならアンナがお茶をテーブルにセットしてくれるのを待っているが今日はイザークの頭を優しく降ろしてからドアへ駆け寄った。

 一旦ドアの外にてて廊下からアンナのセッティングが終わるのを待つ。

 いつにない行動をしているからイザークが不思議そうな顔をしている。

 アンナが退室する際互いに目配せしたのはバレていないはずだ。


「どうしたんだ急に?」

「えーっと、私こちらに来てからイザークにお世話になってばかりでしょう?だから今日はささやかだけれどお礼をしたいなと思って…」


 そう言いながら白い楕円のお皿を持って部屋にはいる。

 お皿の上には数種類のクッキーが乗っている。先日街へ出掛けた際に買ったクッキー型を使って昨日の夜こっそり作ったものだ。

 ユリアーナがお勧めしてくれた星の型とこちらの世界ならではだろうかドラゴンの型で成型した。


「コトネが作ったのか?」

「うん。クッキーならイザークに世界にひとつのプレゼントになるかなぁって…」


 クッキーならあちらの世界で作ったことがあったのでまず失敗しないだろうと考えたのもあった。

 イザークはソファの端へ移動し隣に座れと促してくるので私はお皿を持ったまま隣に座ると今度は口をあけ入れろとジェスチャーする。


(こ…これは俗にいう"あーん"ってやつね)


 ドキドキしながらプレーンクッキーをイザークの口へ入れる。


「うん、うまい!」

「本当に?甘すぎてない?」


 味見はしたけれど男性には甘すぎていないか気になっていたのだ。私が心配しているとイザークが今度は自分でチーズクッキーを手に取り私の口に押し当てる。

 一応お皿に盛ったクッキーは全部イザークへと思っていたが押し当てられては仕方ない。クッキーのはしを軽くくわえて自分の指で押し込もうとした。

 すると押し込もうとした私の右手をイザークは軽く握って止めたかと思うと私のくわえたクッキーの反対側をぱくりと食べた。


(!?!?!??ポ…ポッキーゲーム!??)


 きっと私の目はあまりの驚きに点になっているだろうし頬も耳も真っ赤に染まっていると思う。無言で口もとに残った半分ほどのクッキーをそのまま食べる。


「最高にうまい!コトネ、ありがとう」


 私は首を縦にふることしかできなかった。



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