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16話 恐怖と安堵

「なんで…私の、名前を?」


 口に出した言葉はかすれていてギリギリ相手に聞こえるくらいの大きさだった。

 蛇に睨まれた蛙とはこのような状態のことを言うのだろう。

 突然連れ込まれた別の空間、謎の女性。

 逃げだしたくってたまらないけれど恐怖心から体は凍りついたように動かない。喉からは水分がなくなってしまったようだ。


 燃えるようなルビー色の瞳は私の事を珍しいものを見るようにゆっくりと視線を動かす。


「そりゃあコトネちゃんは有名ですもの!二人っきりでお話がしたかったの。

 コトネちゃんが魔界に来てからずっとチェックしてたのよ。

 でもなかなかお城から出なかったでしょう?お城だと結界があるからなかなかコンタクトとれなかったのよね。

 だから今日外に出てるのを知って今しかない!と思ってね。」


 未だ尻もちをついたままの私の目の前に女性はゆっくりとまるでモデルのような優雅さで歩いてきたかと思うとしゃがみ込み両手をあごの下に添えてしゃべる。

 カナリヤのような美しい声にもしも話している内容がこんなものでなければ世の男性は一瞬で恋に落ちてしまうだろうと思う。


「…うーん、それにしても地味なお洋服ね。もしかして外に出るからって変装してみたの?

 無駄よ?だってコトネちゃんからは香りがプンプンするもの」


 女性は私の左手をとりチラリと確認すると指輪のついた人さし指をゆっくりとなぞる。


「イザークの香りがね」


 そう言いまた彼女の視線は私を捕らえて口元に笑みをみせる。

 背中がぞわっとした。もしかして…もしかしなくても私は今絶体絶命のピンチなのかもしれない!?

 イザーク、助けて!と叫びたくて仕方がなかった。でも今の私には息をするので精一杯でとてもじゃないけれど大声なんて出せる状況ではない。


「さぁさぁ、立ち話もなんですからっお茶をしましょ!」


 すくっと立ちあがり女性は嬉しそうに奥にあるテーブルを指差す。

 女性の視線が他にうつるとふっと体の強ばりが軽くなった。

 尻もちをついたままの体をなんとかゆっくりと起こしつつ辺りを観察する。


 先ほどまでいた広場では空には夕刻の光が射していたがこの場所は朝日のような柔らかく明るい光に包まれている。まわりからは水の流れる音が聞こえている。


 念の為万が一の事を考える。

 もしもこの女性に危害を加えられるようなことがあれば守りの魔法を使って身を守れるだろうか?

 不意を突いてアサヒを出し急いで逃げ出せばいいだろうか?できるだけ攻撃魔法は使いたくない。


「そうだぁ、ここ魔法は使えないわよ?もちろん使い魔ちゃんも呼べないの。こめんなさいね!」


 女性は椅子に腰掛けながら右手の人さし指を顔の前に出し左右に小さく動かした。

 心を読まれたのかと思いドキッとする!


 立ち上がることはできたが彼女に近づいてもいいのか不安なのでスカートの土を落とすふりをして時間をかせぐ。


「あの、どうして…私をここに…?」


「言ったでしょう?誰にも邪魔されずにゆっくり二人きりでお話がしたかったのよ!あら、やだ!私自己紹介がまだだったわね!」


 女性は慌ただしく立ちあがり自身の服を整えコホン、と息を整え白銀の髪を揺らしお辞儀をする。




「私の名前はエーリアル!

 イザークのお母さんでーす」




「───!?」



 その時、光の差し込む空がバリバリと大きな音をたてはじめた。


「えー、やだぁまだお話ししてないのにぃ」


 エーリアルさんは音の正体が何なのか知っているのか驚かないで困ったそぶりをしているだけだ。


 突然の出来事に頭の中では情報の整理が追い付かない。


 大きな音をたてて空は歪み次第に黒い亀裂が入り始めた。すると、亀裂の間がら鋭利な白いものが現れた。

 これは…!外側から何かが噛み砕こうとしてる!?


「キャーッ!壊しちゃだめぇぇ」


 エーリアルさんは頭を抱えて弱々しく叫び私に小走りで近寄ってくる。


「助けてぇぇコトネちゃん!!」


(へ!?助けてって私のセリフでしょ!?)


 大きな音に耳を塞ぎ唖然と立ち尽くす私の後ろにまわったかと思うと小さくしゃがみ小刻みに震えている。

 空はとうとう大きく崩れ真っ黒な穴があき───


「コトネ !!!」


 激高した声が穴の向こうから聞こえた!

 聞きなれた声が私を呼ぶ。


「イザーク!」


 イザークの声を聞いただけで私の喉は元気を取り戻し大きな声が出た。

 空の穴がより大きく開くとアマロとイザークが降りてきた。

 あまりの安堵感にエーリアルさんが後ろにいたことを忘れてイザークの元へ駆け寄る。


 恥ずかしいとかそんな事はどうでも良かった。

ただただ嬉しくて広げられた腕の中へ飛び込んだ。


 イザークの温かさと心地好い心臓の音を聞くと一気に緊張の糸が切れて悲しみからではない嬉しさの涙がこぼれた。


「怖かったな?もう大丈夫だ」


 強く抱き締めそう言いながら頭を撫でてくれる。



「さて、これはどういう事ですか?」


 私をなだめながらもイザークは冷たい声で言い放った。

 そうだ!エーリアルさんがいたんだった。はっと我にかえり涙をぬぐい強く抱き締められた腕の中でなんとか身体をよじる。


「いやぁー!アマロちゃんしまってぇぇ私がドラゴン恐くて仕方がないの知ってるでしょぉ!!」


 エーリアルさんは強く目をつぶりながらアマロを指差している。

 これじゃ話にならない、と小さく呟くとイザークはアマロを魔力の空間へとかえした。


「何をしているのかと聞いています!」


 改めてイザークは冷たい声を出す。こんな声聞いたこともない。もし自分がこんな声で怒られたらと想像するだけで悲しくなる。


「んーっと、今度の夜会まで待てないからコトネちゃんと二人っきりでお話ししたいなぁって思って聖霊逹にも手伝ってもらってこの空間を作ったんだけどねっ、見つかって壊されちゃった!

 でもこんなに早く見つかっちゃうなんてざんねーん!」


 てへっ☆といった効果音が聞こえてきそうなほどの軽々しさだ。


「念のためコトネには出掛ける際に俺の魔力をつけておいたからすぐに居場所は分かりましたよ。母上の作った空間なら息子の俺にこじ開けることはたやすいですからね!」


 出掛けに感じた違和感はこのせいだったのか!と思いだした。


「そっかぁ、ツバついてたのね。イザークってば用心深いんだからっ。私もちゃんと魔法じゃバレちゃうだろうから聖霊達にお願いしてコトネちゃんの連れ出しを助けてもらったりバレないように気を付けてたんだけどなぁ」


「勝手に聖霊を使ってコトネを連れ去るなんて!!どれだけまわりの者が驚き心配したか分からないんですか!?」


 鋭く息をはいた イザークが吼えると空気までもが痺れたように感じた。


「ごめんなさぁーい」


 まるで子供が駄々をこねているようだ。

 実際、聖霊族のエーリアルさんは見た目年齢ではさほどイザークと変わらない。親子の会話ではなくはた目には痴話喧嘩にも見えそうだ。


「イザーク、ちょっと放して」


 落着きを取り戻した私は腕の中でジタバタし緩めてもらった。

 一歩歩き出そうとする私を気づかってイザークが手を握ろうとするが視線で大丈夫と伝える。


「エーリアルさん」


 ふて腐れてしゃがみこむエーリアルさんに近づき目線を合わせる。

 そうだ、この燃えるような瞳の色はイザークと同じだ。よくよく落ち着いてみると顔つきもイザークを思い出させる。


「あの、私と話したいと思ってくださった事は嬉しいです。ありがとうございます。ただ…こうやって急に連れ去られるのはちょっと、パニックになってしまうので…今度はお城でゆっくり話しませんか?」


 精一杯言葉を選んで話しかけるとエーリアルさんは笑顔を取り戻し無邪気に私に抱きつく。


「コトネちゃん良い子っ!すきっっ!!」


 抱きつかれたままどうしたらいいのか分からずイザークを見るとやれやれといった様子で呆れていた。



 ・・・



「それじゃあ、今度はコトネちゃんが私のお城へ遊びに来てね!魔界はドラゴン怖いから極力行きたくないのっ」


 などと言ってエーリアルさんは新しい空間を広げ笑顔で帰っていった。


「悪かったな、コトネ。本当にすまない」


「びっくりして怖かったけど、イザークのお母さんに会えたのは嬉しかったかな」


 この気持ちは本当なのでイザークの目をしっかり見ながら伝える。

 安心するとケヴィンやユリアーナの事を思い出し早く安心させてあげなければ!とイザークと一緒に魔界へ帰る。



 ───が、



「なに…これ?」


 イザークの執務室は窓が割れカーテンはビリビリに破れていて机や本棚は壊れ書類と本が散乱し床や壁には無数の爪痕と天井には穴があき上の階が見えるようになっていた。


「まぁ、ちょっとな…」


 ポンポンと私の肩を叩くがイザークの顔には冷や汗が滲んでみえた。

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