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15話 ケヴィン

 俺の父親は王都の騎士団に所属していて剣の腕は右に出るものがいないと言われるほど強かった。


 そんな剣の腕を買われてかいつからか父は王子の剣の講師を務めるようになり帰りが遅くなったり休みが不規則になることが増えた。


 物心ついた頃から父の後ろばかりついて回っていたので大好きな父を独り占めできなくったかと思うと俺は子供心に王子に嫉妬したりもしていた。


 俺が60を過ぎた頃、父が"王子の剣の相手が欲しいが城には大人ばかりで丁度良い相手がいない"と、王に相談したところ年の近い息子の俺が父と一緒に城に入り王子の相手として剣の勉強をしてもいいとの許可がでた。


 初めて王子に会った印象はというと、年頃は同じなのにどこか表情は大人を思わせる凛としたものを感じた。


 剣を交えていくうちに国の王子である重圧や孤独に苦しめられている事を知った。

 まだ子供だった俺は将来の自分なんて想像することはまだ無かったので少し年下の王子に同情したりもした。

 そのうち休みの日にも城に通い遊んだり食事をしたりする仲となり二人して城を抜け出して遊びに行き怒られた回数は数えきれなくなった。


 成人を迎えた150の年には父顔負けの剣の腕と王子にも練習に付き合ってもらった魔法の腕を買われて騎士団へ入団することができた。

 ほどなくして王となった親友にこれからも変わらぬ友情と忠誠を誓った。


 そしてある日イザーク様がずっと待ち焦がれていた”あの方”がこの世界にやってきた。

 親友がずっと長らく待ち続けていた方だ。国の騎士団として、何より親友の為にも精一杯お守りしなければ。

 騎士団長に任命してくれた親友の期待にも応えるため


 イザーク様が大切に想っているあの方を俺も守らなくては───。





「コトネ様!!」



 城に戻るため馬車に乗り込むコトネ様に手を差し伸べていが何やら反対側が気になったらしく顔をそちらに向けたかと思うと急にバランスを崩し倒れそうになった。

 咄嗟にコトネ様の手を掴み支えようとするが不思議なことにコトネ様の手はするりと俺の手をすり抜けた。


 まるで何者かが振り払ったかのように。


 するとそのままコトネ様は見えない歪みに吸い込まれるように倒れ姿が消えた。



「皆警戒しろ!!」



 広場には警備のため私服で街に溶け込む騎士団員が配備されている。大きな声で叫ぶと集る。


「団長、今のは何なんですか!?」


「わからん!魔法の気配はなかった!」


 馬車のタラップ部分や付近をくまなくチェックするが魔力の痕跡は見当たらない。

 コトネ様が消えたのを目にしていた騎士団員は多い。腰に隠し持っている短剣に手を添えながら馬車を囲む。


「ユリアーナ様、大丈夫ですか!?」


 先に馬車に乗り込んでいだユリアーナ様を心配し声を掛けると怯えて自身の侍女に抱きついていた。


「はい、私は大丈夫です。でも、コトネが…」


 顔は真っ青だ。


「馬車は警備の者をつけますので一旦城へお戻りください!」


 部下を数名馬車につけ急いで城に戻るよう指示する。

 広場にはその後変わった動きは見られない。

 急に男供が集まり騒ぎだしたと心配そうに見ている者がいるだけでコトネ様の件には気づかれていないようだ。


「騒ぎになってしまってはまずい。残りの者は念のため街の様子を確認してくれ!俺は急いで城に戻る!」


 広場で使い魔を出しては目立ってしまうので一先ず風の魔法を使い全速力で城に向かう。



 ・・・



「イザーク様 !!!」


 城に着いて真っ先に執務室へ走る。俺の様子にただ事ではないとイザーク様は執務を中断し立ち上がる。

 コトネ様が急に消えた事、すり抜けた手は何者かに邪魔されたようだった事、魔力の痕跡がないので何者かに拐われたのかどうかまだ分かっていないと告げるとイザーク様は拳を握り机を叩く。

 雷が落ちたのではないかという程の大きな音がして石でできている机には大きなヒビが入る。


「私が付いていながら、申し訳ありません!」


「いや、そもそもやはり俺も着いていくべきだったんだ」


 イザーク様は大きなため息を吐きうなだれる。表情は危険なほど張りつめている。


「急いでコトネを探すぞ!念の為手は打ってある!」


 そう言うと右手をかざして目を閉じ神経を集中させている。

 俺は何もできずにただイザーク様を見守ることしかできない。自分の不甲斐なさに後悔ばかりが押し寄せる。


「いた!…ここは…っ」


 じっと集中していたかと思うと何か分かったのか顔を上げる。

 顔にははっきりと怒りが浮かんでいる。



「勝手なことをっっ!!」



 突然部屋中にイザーク様の魔力が放たれた。

 あまりにも高い魔力に体が痺れる。かと思うと執務室にいるにも関わらず光と共にアマロが出てきた。

 机やイスは隅に追いやられバキバキと音をたてて壊れるものもある。天井にぶら下がる大きな照明が割れて部屋は薄暗くなり天井の一部は剥がれ落ちる。


 俺はアマロに潰される寸前急いで廊下へ避難する。

 執務室近くにいた城の者は何があったのかと集まりざわめくが誰もイザーク様のあまりのお怒りように声を掛けることなどできない。


 執務室を滅茶苦茶にしながら出てきたアマロは窮屈そうに身体を動かす。


「アマロ、ぶち破れ!!」


 怒りに震えるイザーク様がそう命令するとアマロは一度雄叫びをあげ鋭い牙を出し空間めがけて噛みついた────。

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