13話 街へ.2
美しい街並みの一角、商店が集まるメイン通りをユリアーナと手を繋いで歩く。
「本当に活気があって賑やかね。ユリアーナはよく来ているの?」
「小さな頃からお父様がお仕事で来る時に着いてきてましたわ。
私のような身分の娘が街でお買い物は本当は宜しくないんだけれど、お父様は私に色々な世界を自分の目で見て体験すべきだと言ってくださっているの」
「素晴らしいお父様ね」
「はい!自慢のお父様ですわ!」
話をしながらも私にとっては珍しい品物や食べ物が並ぶ商店をゆっくりと眺める。
「可愛いお嬢ちゃん!今流行りのアクセサリーを入荷したから見ていっておくれ!」
「そこのお姉さん、新鮮なの入ってるわよ!今晩の献立にいかが?」
どこの国でも呼び込みは元気がいい。
ふと、人が集まり盛り上がっている店の前を通りかかる。
「さぁさぁさぁ!!挑戦者は他にいないかぁ?こいつとの腕相撲に買ったら賞品がどっさりだ!」
店の前には筋肉自慢の男性が力を競い、それを見物している客達で盛り上がっていた。
「おっ、兄ちゃんいいカラダしてるね!どうだい?挑戦していかないか!?」
私達の後ろにいるケヴィンを指差し店主が手招きしている。
「いえ、わたしは…」
「ふふっ、いいんじゃないの?ケヴィンもせっかくだから少しくらいはお仕事忘れて楽しんでみたら?」
「そうですわ、面白そうですわね!」
二人揃ってケヴィンを振り返り"見たいなー"というような視線を送る。
「ケヴィンも本当は腕試ししたいなーって思ってるんじゃないのかしら?」
いえそんな、とは言いながらも満更でもなさそうな顔をしているので二人で背中を押す。
「で、では僭越ながら…。」
「よーしっ!新しい挑戦者だぁぁ!」
ケヴィンが挑戦すると申し立てると店先がいっそう盛り上がる!
「なんだぁ?そんな貧弱な筋肉で俺様に勝てると思ってるのか?」
筋肉隆々のチャンピオンが自慢げに力こぶを作って見せつける。
「やってみないとわからんだろう。まぁ、試合が終わったらそんな口きけなくなるがな!」
二人は顔を近づけて牽制し合う。
「す、すごいよユリアーナ!まるで漫画の世界だよ!」
「よく分かりませんがとってもドキドキしますわね!」
店先は熱気に包まれている。まわりの盛り上がりにつられて応援する声にも力が入る。
「頑張れー!チャンピオンに負けるなぁー!」
「ま、負けないでくださいませっ!」
・・・
「すっごかったぁ!」
「ハラハラドキドキしましたわ!格好良かったですわ!」
案の定、ケヴィンはチャンピオンに試合が始まってすぐに少し押されたかと思ったがすぐに巻き返し相手の手の甲を力強くテーブルに叩きつけた!
その後悔しそうにもう一回!と吠える元チャンピオンを再度倒してしまった。圧勝だ!
腕相撲でこんなにも熱くなれるなんて思ってもいなかった。
「鍛冶屋のカール、とっても素敵だったわ!」
"鍛冶屋のカール"はチャンピオンに勝ったケヴィンが店主に聞かれとっさに言った嘘の職業と名前だが後程店先に"新チャンピオン!鍛冶屋のカール!"と貼り出されるらしい。
「こんな所で負けてしまったら騎士団長としてやっていけませんからね」
ケヴィンは見事勝ち取った賞品の入った大きな麻袋を肩に担いでいる。
「そういえば、この街の中にも何人か警備で混じっているのよね?」
こそっとケヴィンに確認をする。
「はい、私服なので街に溶け込んでいますが今見える範囲にも数名おりますよ。この賞品が邪魔なので後程警備の誰かに託します」
きっと鍛冶屋のカールはすぐにお城に広まるんだろうなと思うとまたクスッと思い出し笑いしてしまった。
「つきましたわ。このお店が私の目的の宝石店ですわ」
商店街の中心にある大きな宝石店についた。店先にはドアマンが立っており高級なお店なんだというのが外から見ただけでもわかる。
「いらっしゃいませ」
ユリアーナに続いて店に入る。店内には絨毯が敷き詰められショーケースの中には大小色とりどりの宝石が並んでいる。
「これはこれは、シュタイーヒ様ようこそお出でくださいました。どうぞこちらへ…」
白髪混じりの上品な店員さんはユリアーナに気づくと私達を別室へ案内してくれた。
(これがVIPルームってやつ!?)
「本日はどのような品物をお探しで?」
「髪飾りとネックレスを探していますの。私とこちらの侍女の分も、おすすめの商品を持ってきてくださいます?」
そう言うとすぐに店員さんは部屋から出ていった。
「ちょっとユリアーナ、私は探してないわよ?」
お店の高級な雰囲気に圧倒されて部屋から店員さんが出るまで話しかけられなかった。
「あら?イザーク様からお買い物の許可はいただいていますのよね?」
「そうだけど、こんな高そうな買い物は想定外よ。怒られちゃうわ」
「コトネ様、大丈夫ですよ。イザーク様はそんなにお心の狭い方ではありませんし、とりあえず見て楽しむだけでもよろしいじゃないですか!」
「ほら、騎士団長もこのようにおっしゃっていますし!」
「まぁ、見るだけだからね」
こんなやり取りをしている間にも店員さんは選んだ商品を持って部屋に帰ってきてボックスに入った商品をテーブルに並べ始めた。
(わぁぁぁ…これはっ)
この世界には機械がないのできっとこれらのジュエリーも手づくりで作られているのだと思うが、これらは私の住むあちらの世界ではアンティークと呼ばれる種類に入るものだと思う。
手づくりならではの温かみとやわらかさが見て取れる。
普段はシンプルなものが好きだがこのジュエリーは別格だ。素敵すぎる!
「ほら、コトネもときめいちゃうでしょう?」
思っていることが顔に出てしまっていたのか、ユリアーナはこそっと耳打ちする。
「そうね。ときめいちゃうのは否定できないわ」
ほうっとため息がもれる。
「ところでコトネ、この中で私に似合いそうなものを選んでくださらない?」
「私が?」
「ええ。自分で選ぶとつい同じようなデザインばかりになってしまって。コトネが私に似合いそうって思うものを教えてほしいわ」
なるほど、確かに洋服も似たようなデザインがクローゼットに何枚もという経験はしたことがある。
「わかったわ。でも、気に入らなかったら無理せずに自分で選んでね?」
「楽しみですわ」
これは責任重大だ。ユリアーナの可愛らしさを引き立てるデザインを探さなければ!まずは髪飾りからボックスに入ったものを手に取り選んでいく。
どれもきらびやかで目を引く可愛らしいデザインばかりだ。
ふと、蝶とバラの花がデザインされたものに指が止まった。
ピンクと紫色の宝石で彩られた蝶に透かし彫りの花、散りばめられたダイヤモンドが上品だ。
「これなんてどうかしら?」
ユリアーナの髪に合わせてみる。
「宝石の色は可愛らしくて、それにデザインが上品でユリアーナにぴったりだと思うわ」
子供ではない、でもまだ大人にもなりきれていないそんな年頃のユリアーナだからこそ似合うのではないかと思った。
「シュタイーヒ様、とってもお似合いです。」
ユリアーナは合わせ鏡で様々な角度から髪止めを確認する。
「…気に入りましたわ!髪飾りはこれにします!」
「本当に?無理して言ってない?」
あまりにも即決だったので高い買い物だしもっと悩んだほうがいいのでは…?と思ってしまう。
「だってコトネが私にぴったりって言ってくれたのよ?可愛らしくて上品なデザインを選んでくれたのも嬉しかったし、何より私も気に入ってしまったから決めたのよ。
私、これだ!と思ったらもう悩まない性分なのですわ」
ユリアーナは私の手をとって嬉しそうに話してくれる。
「そんなに喜んで貰えるなんて光栄だわ」
髪飾りが決まったので似たようなデザインのネックレスを、と店員さんは再び商品を取りに出ていった。
「コトネは自分にいいな、と思ったものはなくって?」
大人っぽいデザインが入っているボックスを手前に引き寄せユリアーナも一緒に選んでくれる。
素敵なデザインばかりで見ているだけでも幸せな気持ちになる。
ダイヤモンドと銀でできた髪飾りに目がいった。そっと手にとってよく見てみる。
花がモチーフになっているがこれは先日見た夜行花に違いない。
イザークと夜行花を見た日の事を思い出しつい手を止めて見入っていまう。
「あら、それ素敵ね。コトネに似合いそうだわ!」
「そう?どれも素敵で見ていて飽きないわね!」
急いでボックスに戻し他の髪飾りも指差し、ユリアーナの目が髪飾りにいくようオーバーに振る舞ってみせる。
イザークの事を思い出していたので頬が赤くなっていなかったか心配だった。
・・・
「はぁ、いいお買い物ができましたわ!」
無事ネックレスも選び終わり、出されたお茶を飲みつつ一息つく。やはり私は見るだけで十分満足だったので買い物はしなかった。
お城のクローゼットには多分私用にと買い揃えられた服や装飾品がぎっしり入っているので更にこれ以上なんて望んではいない。
ユリアーナが店の書類等の手続きを終えて外に出る頃にはすっかりお昼を回っており"では、昼食を!"となったので今度はケヴィンの後ろに続き歩き始める。
今日はたくさん歩いているのでご飯がより美味しく楽しめそうだとスキップしたい気持ちを押さえながら歩いていく。