翔の本音と私のミス
8日目
「「ふぅ~」」
吹っ切れた翔に全身余すとこ無く洗われた後、私たちは一緒に湯船につかっていた。
「やっぱり熱い風呂はいいね~。身も心も清められてる感じがする」
「うん、そうだね」
私の家のお風呂は比較的大きい方なので二人で入る余裕は十分にある。しかし、いま私たちは翔が私に寄りかかる形で湯船の中に座り込んでいた。
「いや、それは黒羽が放してくれないからでしょ」
「でも抵抗はしないんだよね」
「……別に、あそこまでしたらもうこれぐらいいいかなって」
先ほどと比べて翔の口調が幾分か柔らかくなっていた。結果として荒療治をしてしまったけど、それはそれで効果的だったってことなのかな。そうだとしたら思わず私もうれしくなってしまう。少し申し訳なさもあるけど。
その翔はというと何か思うところがあったのか、少し考えるそぶりを見せた後、口を開いた。
「あと、ありがと。今日一日でだいぶ気持ちの整理ができたよ」
それは私に対する感謝の言葉。
正直ここまで改まって言われると私も少し照れ臭くなる。それに半分ほど自分のためにやったわけで罪悪感が……。
「ああ、黒羽の思っていることは大体察しがついてる。でも僕が言いたいのは今日だけのことじゃなくてね」
私がなんて説明しようかと思い悩んでいると苦笑交じりに翔が返してきた。
「正直さ、あまり自信がなかったんだよ。黒羽の好きな相手が僕でよかったのか。
僕たちは、ほら、ずっと幼馴染だったわけじゃん。だからいつの間にかこういう関係になるんじゃないかとは思ってた。それでも時々思っちゃったんだよ、黒羽にはほかにいい相手がいるんじゃないかって」
翔のその言葉にはここ数か月の苦痛が込められているようだった。私が気づかなかった、見てこなかった翔の側面。それを聞かされているように感じた。
「だけど、こういう身体になって、今日一日黒羽に付き合ってわかったよ。黒羽がちゃんと『僕』を見てくれていた。どんなであっても『僕』を好きでいてくれたことが。まぁ、少しやりすぎだとも思ったけどね」
まさか今日の出来事がそういう風な結果につながるとは。でも今思えば翔が時々見せていた照れてながらも、思い悩んでいた表情はこういうことだったのだろう。早く翔と恋仲になりたかったがために急かしすぎてしまったかな。それと私の中では翔のことがスクだということが当たり前になりすぎて、ちゃんと真剣に思いを伝えきれていなかったということだろう。
それなら今やるべきことは決まっている。難しい言葉なんていらない。ただ単純に、純粋に私の胸の内を伝えるだけ。
私はもう一度しっかりと抱きしめて小さな声で言った。
「――大好きだよ、翔」
その言葉を聞いた翔は耳の先まで赤く染まっていった。
「そういうこと気軽に言ってくるから自信なくすんだよ。あとさっきから締め付けが苦しいし、いろいろと当たってるんだけど」
翔は私の方を振り返りもせずに言ってくる。でもね、私だってこうして真面目に答えるの恥ずかしいんだよだから今は振り向いてほしくなくてしっかり抱きしめている。今の私の顔を見られないために。
「まぁ、そのあれだ。こういうこと女の子に言わせっぱなしってのも悪いからさ、僕からも言うね。
黒羽……ううん、舞彩。僕も舞彩のこと好きだよ」
それからしばらく、二人の間には沈黙が流れた。私も翔も何から話せばいいのかわからなくなり、部屋の中は水滴が落ちる音だけが聞こえていた。でもなんとなくこの静かな時間が今までのどの時よりも充実した時間のように思えていた。
「あー、そろそろ上がりたいんだけど放してもらっていいかな」
「あ、ごめんね」
その沈黙を先に破ったのは翔だった。私から解放された翔の顔はゆでだこのように赤くなっている。もしかしてのぼせるぎりぎりまで拘束してしまったかな。
「冷蔵庫のお茶飲んでていいからね。私はもう少しお風呂入ってるから」
「ああ、うん。そうさせてもらうよ」
生返事をした翔はそのまま脱衣所の方に向かったが、何を思ったのか扉に手をかけたままこちらに振り返った。
「今日一緒にお風呂入ったのは黒羽がいろいろ教えたいって言ってきたからなんだから、明日は別々でもいいよね」
私は露骨にいやそうな顔を翔に向ける。
「そんな目で見ないでよ! あくまで心は男のままなんだから正直目のやり場に困るの!」
ふむ、そういわれたら仕方がないか。でも、翔の柔肌を撫でまわす機会が減るのは名残惜しいし……そうだ。
「わかった。なら一緒に入るのは今日だけね」
それを聞いて安心した翔は脱衣所の中に入っていった。
よし、明日からは翔が入ってから突入することにしよう。それは拒否されてないから問題ないよね。
遅れて誠に申し訳ない。今回も土日休むお