状況確認とこれから
夏休み連続投稿企画2日目
抱きしめてきた翔が上目遣いでこちらを見つめている。目元に大粒の涙を溜めながら。
……なにこれかわいい。
いや、いままでの翔も十分にかわいかったよ。でも、なにこれ。反則でしょ。
もともと男らしい顔つきとは程遠かったけど今はまさに美少女といえる顔立ちで、身体も女の子らしい出るところは出た、しかし引っ込んでいてほしいところは引っ込んでいる理想の体つきをしている。……もしかして私よりも胸が大きいのではないだろうか。いや、さすがにそれはない。ない、よね?
まぁこうして見て触ってみると翔の体つきが本当に変わっているのはあからさまだった。最初は私も少し混乱したけど翔が大げさに泣いてるのを見て少し落ち着くことができた。とりあえず人の目についたらまずいし一旦中で詳しく話を聞いた方がいいだろう。
「翔、とりあえずおうち入ろっか。流石に玄関開けたままだと誰かに見られてしまうかもしれないし」
「あっ、う、うん。ありがと……」
翔は今自分がどういうことをしていたのか気付いて照れるように私から離れた。私としてはそのままでもよかったんだけどなぁ。
「――ちょっとは落ち着いたかな?」
私はひとまずリビングに翔を家に上がらせて温かいお茶を出してあげた。こういう時はやっぱし温かいものを飲むのが心を落ち着けられるというものだ。翔も少しは顔色が良くなってきている。それに夏場の温かいお茶は夏バテにもいいしね。昨日準備しておいてよかった。
「うん。少し落ち着いてきたよ。
……ごめんね、急に家に上がり込んできちゃって。なにがなんだかよく分からなくなって、思わず黒羽のところに……」
そういう翔は少し落ち込んでいるようだった。どうせ男のくせに女の子の私に頼って意気消沈しているんだろう。別にそれぐらいで嫌いになるほど、私の想いは小さくないのにね。そもそも今の翔は女の子になっているんだから男らしいもあったもんじゃない気が。
「別に気にしてないよ。それに私としてはこうして一番に私を頼ってくれたってことがとっても嬉しいんだよ?」
私がそういうと翔は顔を真っ赤に染めてうつむいた。ああもう、かわいいなぁ。
「それでどうして女の子になったの?」
「……あんまりストレートに言わないで。僕としてもどうしてこんなことになったのかわからないし、認めたくもないんだよ。
朝起きたら体に違和感あって、触ってみるとなかったものついてるし、あったものが……」
翔の言葉はだんだん小さくなっていき、どんよりと頭をたらした。自分の体が変わってしまった事実をこうして話しちゃったことで現実だと再確認してしまったんだろう。
ここは恋人として一肌脱いで、彼を慰めてあげよう。
「大丈夫だよ、翔。私は翔がどんな姿になっても好きなのは変わらないから」
「う、そんなこといわれても……いや、それって根本的な解決にはなってなくない?」
「え、じゃあ翔は女の子になったら私のこと好きじゃなくなったの?」
「そんなことはいってないだろ! 昨日言ったことは嘘じゃないよ。
……って、あー。またか黒羽に乗せられたのか」
「うん、よかった。少しは元気になってくれたみたいで」
いつも通りにからかい半分で声をかけたのが功を制したみたいで翔はいつもの調子を取り戻したみたいだ。正直、昨日の今日だから私の方こそ彼の顔を直視できなくなっているんだけど。あれだけで紅潮してしまうとは、思ったより私はちょろい女(翔限定)になってしまったようだ。
いやいや、落ち着け私。今考えるのは翔のこれからのことだけ。いったん深呼吸して、いつもの笑みを浮かべて翔に向き直る。
「原因が分からないことは分かったけど、あとはこれからどうするかってことよね。まぁ運がいいことに今日から夏休みだからいろんな人に事情を説明する必要はないっていうのは朗報かな」
「本当にそれに関しては助かったと思ってるよ。あいつとか絶対にいじってきそうだし。
ただこれからのことかぁ。正直起きてすぐは頭いっぱいだったけど戻るまでの生活もあるもんね」
私としてはこんなかわいい翔を見続けられるならそれはそれで眼福だからいいけどね。でも彼が傷つくだろうから口には出さないようにしよう。
閑話休題。翔はこれからどうするか悩んでいるけど、私としてはこれからの方針についての案はすでに出ている。ま、最終的に決めるのは翔自身だ。
「どうせならうちに泊まる?」
「え!? どうしてそういう話になるんだよ」
「もともと私たちの両親が出かけるから私が翔の身の回りの世話を手伝うって話だったでしょ。それに元に戻るまでずっと男の恰好するつもりじゃないよね」
「いや、だって僕男だし……。それに、こ、恋人になってすぐそういうのってのは」
「今は女の子でしょ? それなら今だけ女の子らしく振る舞わないと。私がしっかりと『女の子』を教えてあげるから」
翔はその言葉を聞くとみるみると顔が赤くなっていた。いったい何を考えているんだろうな~。私としてはただ下着について教えるのが楽だからと思ったんだけど。当然他のこともしたいけどね。
翔のことだし、どうせあと一歩が踏み出せないのは分かってる。だからちょっとぐらい後押ししてやろう。半分は私のためにってのもあるが。
「――それに、私はいつでもウェルカムだよ?」
「----っ!」
近寄って耳元でささやくとさらに翔は赤く染まっていく。あー、楽し。
とはいえ翔も私に頼るのが最善だとはうすうすわかっていたのだろう。翔は顔をそらしたまま首を縦に振るのであった――。
まだなんとかなった(震え声