翔の親友
11日目
次の日、翔の思い出巡り一日目ということで気がはやってしまい、翔に書置きだけ残して先に駅についていた。昨日は何も考えずに決めていたけど、よくよく考えてみれば翔と二人きりでそこに行くのは初めてなわけで。
道理で翔が何度も確認していたわけだ。今私の胸の中は緊張とうれしさでいっぱいだった。
駅前には私と同じように待ち合わせをしている人がごった返していた。それが恋人かただの友達かは定かではないんだけども。多くの人がこれからあることを待ちわびている様子だ。
しかしながらこういうところにはまれにろくでもない人たちもいるわけで、私は早速そういう輩に絡まれてしまっていた。
「お、君かわいいね~。妙にそわそわしてるけど誰かと待ち合わせしている系?」
「もしかして待ち合わせ時間すぎてるとか? はー、その彼氏君最低だなぁ、こんなかわいい子一人にしておくとか。
その点、俺らは君のこと大事にするよ? だから今から一緒に遊びに行かね?」
見てくれからわかるほどチャラついた男二人組は私があからさまに無関心を装っているにも気づかずに猛烈なアタックをかけてきている。早いところここからいなくなりたい気持ちでいっぱいなんだけど、翔とすれ違いになって今の翔がこいつらと会ってしまうということになったらもっと嫌だ。
こういったとき周りの人が助けに来てくれたらいいのに、日本人の性分なのかこちらをちらりと見ても何もなかったようにみんな目をそらす。女の子が襲われていると過言でもないのに。
とはいえ無視を決め込めば流石の彼らもあきらめるだろうと思っていた。手を出せば周りの人たちも止めに入るとだろうし。しかしそのチャラ男たちは本当に能無しだったらしくいよいよ強硬手段をとろうとしてきた。
「さっきからすました顔してんじゃねえよ。俺、さっさと来い!」
「あんまし調子乗っていると痛い目にあわすぞ。あたものいい子ならどっちがいい選択かわかるよな~」
あまりのテンプレな展開でつい吹き出そうになるけど、状況としては割とまずい。一人ならまだしも二人係じゃ逃げられる自信なんかないし、頼りにしていた周りの人たちも依然として無視を決め込んでいる。
前同じようなことがあったときは翔が助けに来てくれたけど、今の翔にはむしろ来てほしくない。なんか一緒に連れていかれそうな気がする。助けがない以上一人でどうにかするしかないけど、どうしたものか。
「――彼女、嫌がっているみたいっすよ。女の子に無理やり手を出したらいけないでしょ、お兄さん方」
私の後ろからひょこりと口を出して来た男が一人。彼は男たちと私の間に割って入ると彼らの前に立ちふさがった。自分より体格のいい相手が来たのに腰が引けたのかチャラ男たちは一目散に走って行ってしまった。追いかける気はないんけど、あの変わり身の早さはすごいなぁ。
「大丈夫だった? なんか困ってるっぽかったからとりあえず助けに入ったけど」
「うん。ありがとうね、トモ君」
「いや~、かわいい子にそう言われるとやっぱりうれしいもんだな。たとえそれが親友の彼女としても」
彼は大井 智一。翔とは中学からの親友で、内気な翔が気さくに話しかけられる友人の一人だ。翔のことを聞くためにいろいろ彼を追及して逆に翔に勘違いを起こしてしまうこともあったけど、それも懐かしい話だ。
今日は一人日までこのあたりをぶらついていたらしくわt士たちのこれからの予定を伝えるととてもついてきたそうにしていた。当然拒否しておいた。
一応彼も私が伝えたので翔の現状は知っている。普通なら信じられるような内容じゃないけど何か思い当たる節があるような返信を送ってきていた。
「それであの件なんだけど……」
「あー、俺も詳しくは覚えてないんだけどね。なんかどっかいったときにそんなことがあったようななかったような」
「へー、叩いたら思い出すかな?」
「昔のテレビじゃないんだから~。いや、フリじゃないよ。本当にやらないでね!?」
おっと、私がこぶしを握っているのがバレていたらしい。そっとその手を後ろに隠し、何事もなかった顔で彼に向き直る。
「冗談よ、冗談。本当にするわけないじゃない」
「さっきの目は割とマジだったような……いや、何でもないです。
まぁ、何か思い出せたらこっちからも連絡するからさ。あ、その時は俺にも翔の今の姿見せろよな」
彼はそう言い残して雑踏の中に紛れていった。今の翔を翔として誰かに見せたくはないんだけど、その時はその時。むしろ親友にバレるかバレないかでどぎまぎしている翔を見るのも一興かもしれない。
ずっと『彼』と呼ばれていた親友君の登場です。名前は今決めました。