↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
93/119

第六話 遭遇と死闘(後編)

◇◇◇◇


「そ、そんな……!」


 ナオミが狼狽える。


「どうすればいいのですか?」


 サラが聞く。


「まあ、ちょっと待て」


 慌てるサラとナオミを、ジーンが押し止めた。


「何かコイツおかしいぞ?」


 ジーンの視線の先では、吸血鬼(ヴァンパイア)が自分の掌を舐めていた。


「た、多分ですが――」


 サラが続ける。


「血です」

「血?」

「貴方の血です。さっき組み合った時、吸血鬼(ヴァンパイア)に付いたでしょ?」

「ああ、なるほど」


 サラが促して、ジーンが自分の両手を見た。

 ジーンの全身は、落ちた怪我で真っ赤に染まっている。


「グルルル……。ウ、ううう……。ニ、人間どもめ……」


 目に理性を宿して、吸血鬼(ヴァンパイ)が口を開いた。


「喋った!」


 ジーンが驚く。


「そりゃあ、喋るでしょう。彼らも人間の一種なのですから」

「あ、そっか」


 サラが言って、ジーンが納得した。


「き、貴様ら――」


 サラとジーンを交互に見て、吸血鬼(ヴァンパイア)が続ける。


「ど、どこまで我らを苦しめれば気が済むのだ……」

「何言ってんだ、お前?」


 吸血鬼(ヴァンパイア)の台詞に、要領を得ないジーン。


 醜悪に歪んでいた吸血鬼(ヴァンパイア)の顔は、今は完全に落ち着いている。

 長い耳や特徴的な肌の色は別にして、ほとんど一般人の雰囲気である。

 見た目は40歳くらいの壮年で、顔立ちは整っていた。

 もっとも、眉間に皺を寄せていて、友好的とは程遠い。


「問答無用! 死ねーっ!」


 ジーンに向かって、吸血鬼(ヴァンパイア)が飛びかかる。

 吸血鬼(ヴァンパイア)の大ぶりなパンチがジーンに迫った。


「おっと!」


 ジーンが言って、大振りなパンチをスウェーで躱した。


「ジーン! 大丈夫なのですか?」

「まーなー」


 サラが聞いて、ジーンが答えた。


「でも、さっき貴方より強いと……」

「ま、それはそうなんだけどよ――」


 サラに答えながら、ジーンが続ける。

 トントンとステップを踏みながら、ジーンがファイティングポーズをとった。


「あくまで腕力に限った話なんだよなー。よっしゃ! かかってこい! このコウモリ野郎!」

「舐めるな、小僧!」


 ジーンが挑発し、吸血鬼(ヴァンパイア)がそれに乗った。

 


◇◇◇◇


「このっ!」


 ジーンを殴り倒さんと、吸血鬼(ヴァンパイア)が拳を振るう。


「よっ! ほっ!」


 ヒョイヒョイと、拳をスウェーで躱すジーン。


「くそっ! 当たりさえすれば——」


 吸血鬼(ヴァンパイア)が腕を伸ばした、その時である。

 ジーンが吸血鬼(ヴァンパイア)の懐に飛び込んだ。


「ほれっ!」

「ゲフッ!」


 ジーンの拳が、吸血鬼(ヴァンパイア)の顔面に当たった。


「ぬうっ! く、くそっ!」


 よろめきながらも、その場に踏みとどまった吸血鬼(ヴァンパイア)。


「おのれ——」

 

 鼻から血を出しながら、吸血鬼(ヴァンパイア)が顔を上げる。


「おおっ!」


 吸血鬼(ヴァンパイア)を見て、感嘆するジーン。


「さすがにタフだなー。普通の人間なら、今のでダウンだぜ?」

「ぬかせっ!」


 あくまでも呑気なジーンに、吸血鬼(ヴァンパイア)は怒りを禁じえない。


「当たらないなら、こうだ!」


 パンチの応酬を止めて、吸血鬼(ヴァンパイア)が身を低く構えた。


「喰らえーっ!」


 そのまま突進する吸血鬼(ヴァンパイア)である。

 

 吸血鬼(ヴァンパイア)の猛烈なタックルは、そのままジーンを捉えたかのように思えた。

 その瞬間である。


「ギャッ!」


 悲鳴を上げて、吸血鬼(ヴァンパイア)が仰け反った。

 ジーンの膝蹴りが、カウンターになったのである。


「何をしているのです!」


 サラが横やりを入れた。


「武器を使いなさい! 武器を!」

「うるせーっ!」


 サラの指示に、ジーンが怒鳴り返す。

 その間にも、吸血鬼(ヴァンパイア)にパンチとキックを延々と放ち続けるジーンであった。


「お前の」

「ゲフゥッ!」

「せいで」

「ゴフウッ!」

「丸腰に」

「ウギャッ!」

「なったんじゃ」

「カハッ!」

「ねーか!」

「ゴホッ!」


 ジーンの文句と、吸血鬼(ヴァンパイア)の呻きが重なって響いた。


「予備(サイドアーム)があるでしょう? ナイフか何か持っていないのですか?」

「落ちた衝撃で砂に埋まっちまった! 掘り出してる時間なんかねーよ!」


 吸血鬼(ヴァンパイア)を無視して、サラとジーンのやりとりが続いた。

 ジーンの視線が、チラリとサラの方を向く。

 そして、吸血鬼(ヴァンパイア)はその瞬間を見逃さない。


「隙あり!」


 ジーンのパンチを、吸血鬼(ヴァンパイア)が両手で掴んだ。


「何っ?」


 目を剥くジーン。


「ふふふ……。女との会話に現を抜かしているからだ」


 吸血鬼(ヴァンパイア)がほくそ笑む。


「おおっ! スゲーなお前。さすがは吸血鬼(ヴァンパイア)。大した動体視力だぜ」

「余裕を気取るのも今のうちだ。さてさて、どう料理してくれようか……」


 ジーンを無視して、吸血鬼(ヴァンパイア)が腕に力を込めた。

 腕力だけなら、吸血鬼(ヴァンパイア)はジーンに勝っている。

 ジーンの右腕がミシミシと音を立てた、その直後である。


「あらよっと!」


 掛け声と共に、ジーンが無造作に腕を振った。

 ジーンの腕を軸にして、吸血鬼(ヴァンパイア)が大きく宙を舞った。


「え?」


 疑問符を浮かべたまま、そのまま背中から、地面に叩きつけられた吸血鬼(ヴァンパイア)であった。


「はい、一丁上がり!」


 吸血鬼をうつ伏せに組み伏せ、腕関節を極(き)めるジーン。



◇◇◇◇


「き、貴様ぁぁぁっ!」


 足掻こうとする吸血鬼(ヴァンパイア)。

 だがしかし、腕を完全に極(き)められた挙句、ジーンが乗っていてはどうしようもない。


「おーい、お前ら! もうこっち来て大丈夫だぞ」

「よくやりましたね」

「凄いです」


 ジーンが呼びかけて、サラとナオミが答えた。


「い、一体何をした!」


 吸血鬼(ヴァンパイア)が怒鳴る。


「そうですよ。一体何をしたのです?」

「あ、それ私も気になります」


 吸血鬼(ヴァンパイア)に便乗する、サラとナオミである。


「何のことだ?」

「とぼけないでください。さっきの投げ技ですよ」

「何かこうブワーって飛びましたよ! ブワーって!」


 ジーンが首を傾げ、サラとナオミが畳みかける。


「あー……、あれな――」


 ジーンが続ける。


「ちょっと特殊な投げ技だよ。自分の力を上手に抜いて、相手の感覚を狂わせるんだ。相手が強いほど、こいつがよく効くんだなー」

「く、くそっ! 何故だ! 何故こんな若造に……!」


 ジーンが解説して、吸血鬼(ヴァンパイア)が臍を噛む。


「お前が負けた理由はな――」


 ギリギリと力を込めながら、ジーンが続けた。


「何十年……、いや何百年生きてきたかは知らねーけどな。長い間、強敵と戦っていなかったからだぞ。なまじ生まれつき強いから、才能頼りで生きてきたんだろ。それほど武芸は甘くねーんだよ」

「貴方がそれを言いますか……」


 ジーンが言って、サラが呆れた。


 それもそのはず、一般人から見れば、ジーンは十分に天才である。


「さて、こいつをどうしようか?」


 吸血鬼(ヴァンパイア)を締め上げながら、ジーンが聞いた。


「そうですねぇ……」


 言いながら、サラが頭を掻いた。


「こ、殺せっ!」


 吸血鬼(ヴァンパイア)が叫んだ。


「その前に、少しお聞きしたいことが――」


 サラが言いかけた時である。


「止(や)めろーっ!」


 女の声がして、部屋に人が飛び込んできた。



「このっ! 父上から離れろ!」


 ローブを纏った小柄な少女が、ジーンに縋りつく。


「いでで……! ちょっ……! 待って!」


 髪の毛や頬っぺたを引っ張られ、ジーンが閉口する。


「馬鹿! 逃げなさい!」

「父上! 今お助けします!」


 吸血鬼(ヴァンパイア)が言うも、少女は言うことを聞かない。


「ナオミ!」

「は、はいっ!」


 サラが促して、ナオミが少女を取り押さえた。


「この! 何をする!」

「うわっ! この子、力が強い!」


 暴れる少女に、ナオミが泡を食った。

 もっとも体格差は如何ともし難い。

 抱き着かれるようにして、ナオミに拘束された少女である。


「放せーっ!」


 少女が叫んだ時である。

 ローブがハラリと落ちて、その姿が顕わとなった。


「え?」

「ああっ!」

「貴女は!」


 ジーンとナオミ、そしてサラが続けて言った。


「ひょっとして、シルヴィアですか?」


 サラが聞いて、シルヴィアの顔が月明かりに照らされる。


 長い茶髪と良く焼けた肌の美少女は、間違いなくシルヴィアであった。

 もっとも、昼間とは違って、目に布を覆っていない。


「貴女、その目は一体……?」


 シルヴィアの様子に、サラは驚きを隠せない。

 盲目のはずのシルヴィアは、きっちりと相手を見て喋っていた。


 とは言っても、サラが驚いた点はそこではない。

 日に焼けたシルヴィアは、普通の人間と同じ特徴をしている。

 だがしかし、問題は瞳の色と形である。


「こ、琥珀(アンバー)色の瞳に、縦長のネコのような瞳! 貴女――」


 言葉を詰まらせて、サラが続けた。


「吸血鬼(ヴァンパイア)……いえ、半吸血鬼(ダンピール)ですね?」

「放せーっ!」


 サラの分析を無視して、シルヴィアが叫んだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=21128584&si script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。