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第一話 家主と居候

「だーっ! くっせーんだよ!」


 二階の格子戸を開けて、男が顔を出す。

 男は頭にタオルを巻いて、口をマスクで覆っていた。


「お前、いい加減掃除くらいしろよな!」


 掃除夫と化した男の正体は、ジーンである。


「朝っぱらから、うるさいですね……」


 答えたのはサラであった。

 寝ぼけ眼で目をこするサラは、ベッドの上で毛布にくるまっている。


「昨日は遅かったのですから、もう少し寝かせてくだ……」


 言いながら、サラが再び眠ろうとした時――。


「起こせって言ったのは、お前じゃねーか! ほら、起きろ!」


 ジーンが毛布を剥ぎ取った。


「ちょっ……!」


 転がり出たサラを見て、ジーンが絶句する。


「何ですか? まったく、もう少し丁寧に起こしなさい」


 叩き起こされて、サラがムクリと体を起こす。


「お前……」

「はい?」

「何で裸なんだよ?」


 ジーンの追及に、サラは「それが何か?」と小首を傾げた。


…――…――…――…


 サラは全裸であった。

 染み一つない白い肌は、まるで白磁のように美しい。

 金色の長髪と青い瞳、目鼻立ちのはっきりした顔のサラは、ただでさえ美少女である。

 窓から差し込む朝日に照らされ、見る者に神々しい印象すら与えていた。

 とは言え、気怠そうにボリボリと頭を掻く仕草は、淑女とは遠いものである。


…――…――…――…


「何でもへったくれも、私は寝るとき全裸です」


 男のジーンを前にして、堂々としたサラである。


「そうかい。だったら、もう起きてるんだから、服を着ろ」


 対するジーンも、サラの裸にうろたえない。


「ほら、これでも着て……」


 落ちているシャツを手に取って、ジーンが固まった。


「な、何じゃこりゃーっ!」


 絶叫するジーンである。


 それもそのはず、サラのシャツにはキノコが生えていた。

 ついでに言えば、虫食いだらけで、垢まみれのボロボロである。


「信じらんねーっ! ああ、もうっ! 洗濯物までこんなに溜めやがって!」


 脱ぎ散らかされた部屋の惨状に、ジーンが喚き散らす。


「お前、こんなの着てたのかよ!」

「いくら何でも、それはゴミでしょう」

「だったら、とっとと捨てろ!」

「さっきから、ギャアギャアとうるさいですね」


 怒れるジーンに、どこ吹く風のサラである。


「まるで小姑みたいに……。それともアレですか? 貴方は私の亭主か何かで?」


 ベッドの上で胡坐をかくサラは、これっぽちも悪びれない。


「ああん?」


 ジーンのこめかみに青筋が走った。


「確かに、俺はお前の亭主じゃねーよ。でもな――」


 言って、ジーンが続ける。


「この家の家主は俺だ! さっきから黙って聞いてれば、お前居候のくせに、どれだけ図々しいんだよっ!」


 怒鳴りながら、ジーンがサラの衣類をかき集める。


「こいつは洗濯しとくから、とっとと着替えて下に降りて来い!」


 山のような洗濯物を抱えて、ジーンが吐き捨てた。


「はいはい」


 ジーンの背中を見送って、サラがクローゼットを開けた。


 郊外の一軒家での出来事である。

 元は馬小屋があったそこには、一山当てたジーンが、デンと館を構えていた。


【後書き】

まだまだ続きます。

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