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第二話 二人と告白

◇◇◇◇


果たして、蝋燭の暗い灯り越しにジーンが読み取った内容は、設定に見覚えのある「戯曲ものがたり」であった。

流星竜リントブルムに一件以降、ジーンがちょっとした自己顕示欲で書き上げ瞬く間に世に広まった、『俺の守護するお嬢様が、こんなに鬼畜な訳がない!』の続編である。

もっとも、続編の存在は、ジーンの与り知らぬところである。


「おい」

「何ですか?」

「勝手にこんなもん、一体何考えてんだ?」


ジーンの問いに、「もちろん売るのですよ」とサラはあっけらかんと答える。


「やめろ! 今すぐやめろ! 俺の恥が続いてしまう」

「もう手遅れです」


原稿をかき集めるジーンに、サラがピシャリと言い放つ。


「そ、それはどういう――」


顔を引き攣らすジーンに向かって、サラが言葉を続ける。


「貴方が例の戯曲を完済させて以降現在に至るまで、私はずっと今までの体験を書き続けてきたのですよ」

「お、おい。それってまさか……」

「はい。今の時点だと、相当数が巷に出回っていますね。あ、安心してください。噂では、結構評判いいみたいですよ」

「マジかよ……」


サラの告白に、ジーンは頭を抱えた。


「何でこんなことを?」

「ふむ……」


ジーンの問いに、サラは考え込むように顎を擦った。

 しばらくして、

「一つは収入源として、もう一つは政治的な思惑ですかね」

「うん?」


 サラの答えに、今ひとつジーンは要領を得ない。


「何か?」

「いや、政治的思惑ってのは分かった。要はまあ、宣伝みたいなもんだろ?」

「概ねその解釈で合ってますが、こうして名声を広げておけば不測の事態が発生した時、やくにたつかもしれないという、一種の予防線です」

「でもよー、果たしてそんなに金になるのか? 言っちゃあアレだが、こんなもん盗作されたら終わりだろ」

「ああ、それについてはご心配なく」


ジーンの懸念をサラは否定する。

ジーンの懸念はもっともで、事実、『俺の守護するお嬢様が、こんなに鬼畜な訳がない!』はジーンの手を離れて、どこの馬の骨か知らない輩が勝手に出版し、演劇にしたりとやりたい放題の憂き目に遭っていた。


「ちょっと前、王都に行ったでしょう?その時アカデミーに立ち寄ったのですが、そこの出版担当と交渉しまして、私の著述に関しては、アカデミーに独占出版権を与えるということで手を打ちました」

「というと?」

「アカデミーの出版物は、王国内では複製禁止です。もし発覚したら、それ相応の刑罰が与えられます」

「いや、それだと俺らに入る金がねーだろ」

「ご心配なく。売り上げの1割が私どもに入る契約になってます。第一作はともかくとして、次作以降は我々の独占です」

「はー……、なるほど」


 サラの周到な計画に、ジーンは舌を巻いた。


「時にジーン」


 サラが話題を変えた。


◇◇◇◇


「貴方、我々といて何ともないのですか?」

「何ともとは?」


 サラの質問に、またまた要領を得ないジーン。


「言うまでもなく、私は美少女です」

「お、おう。いや、そんなの自分で言うか?」


 断言するサラに、頷きながらも突っ込みを入れるジーン。


「私ほどではないにしろ、ナオミも中々の器量です」

「いや、だからそれ自分で言うか?」

「だと言うのに、貴方は我々を抱こうとしない!」

「うん、はしたないから、それ外で絶対言うなよ」


 サラの指摘にたじたじのジーンである。

 確かに、サラの姿は煽情的であった。そんなサラは、暖炉の暖房効果に物を言わせた薄い薄桃色のネグリジエをコート越しに着込んでいて、その貧層な体を補って余りあるほど男に追って蠱惑的であるし、下ろした長い金髪も艶やかで男を引き付けて止まない雰囲気を十分醸し出している。

 何と言っても『100人斬り』である。据え膳食わないその態度は、あまりにも不自然であった。


「言っては何ですが、貴方ほどの筋肉達磨な戦士だと、男性ホルモンの影響から逃れられない。下半身が滾って仕方がないはずです」

「だから、その言い方をな――」

「質問に答えて下さい」


 詰め寄るサラであるが、その目は求愛と言うより、学者のそれである。


「もしかして、やっぱり素人童貞?」

「やっぱりとは何だよ。いや、そういう訳でもないんだが……」


 今ひとつ、ジーンの返答はあやふやである。

 そんなジーンを、サラはいつもより冷たいジト目で見つめる。


「分かった、分かったよ」


 もろ手を挙げて降参するジーン。


「一応俺らは婚約者だもんな。いい機会だから、全て話しておく」

「あ、私は処女なのでその辺安心してください。ちなみに、ナオミも同じです」


 サラの突然な告白に「お前、他人ひと様の個人情報を」と閉口しながら、ジーンは続けた。


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