SSSの候補にて②
「きゅうぅ~……セレンちゃん、あとは任せましたぁ……」
未だ目を回すチカを、ガルが肩を貸して支えていた。そうしてすれ違う瞬間に、セレンはポツリと囁く。
「任せて。むしろ私の得意分野だわ」
「はいぃ~……」
チカも信頼しているのか、それ以上は何も言わずに運ばれていく。そしてその場にはセレンとクリスの二人が対峙していた。
「あなたの魔法、面白いわね。文字を刻まなくても瞬時に発現できるなんて」
セレンが涼しい顔でそう言った。
「あはは。僕は面倒くさいのが嫌いだからね。魔法ももっと簡単に使えたらいいなって思ってこの魔法を作り出したんだ」
クリスもまた、緊張感のない笑みを浮かべてそう語る。
「『インバディメント』。これは僕の頭の中に思い描いた魔法を具現化する魔法さ。といっても、正確に言えば瞬時に発現できる訳じゃなくて、使いたい魔法の術式を頭の中で思い描く事で、それが力となって魔法に変換されるって原理だよ」
「なるほどね。それは便利な魔法だわ。まぁ使うには時間がかかるみたいだけどね」
セレンがそう言うと、クリスはビクリと体を震わせる。まるで痛い所をつかれたと言わんばかりだ。
「それではそろそろ第四試合を始めたいと思います! 次鋒セレン選手対、中堅クリス選手。試合ぃぃぃ始めぇぇぇ!!」
審判が大きく宣言するのと同時に、二人は文字を刻み出す。この時、セレンだけではなく、クリスまでもが両手で文字を刻んでいた。
『フライ!』
最初に魔法を使ったのはクリスであった。決して早いわけではないが、セレンが未だ文字を刻み続けている間に完成させていた。
「さすがに僕のインバディメントが完成する前に短期決戦を挑まれたら厄介だからね。ダブルマジックは面倒だからあまり使いたくはないんだけど、負けてソルティさんにお説教はされたくないんだ」
フワリといち早く空へと逃げようとするクリスだが、セレンはまるで話を聞いていないかのように一心不乱に文字を刻み続けていた。
さらに、ブツブツと小声で詠唱を続けている。
それを見たクリスは小首を傾げながらも、今すぐに攻めてくるつもりは無いものと判断したのか、その場で文字を刻み続ける。
こうして、両者は全く攻撃をしないまま魔法の完成に時間を費やした。
「お、おい、なんか二人とも動かなくね?」
「ずっと文字を刻み続けてるよな。普通ならもう攻防が始まってもいい頃だぜ?」
「まさか失敗したから、最初から組み直してるとか?」
観客席からは疑念と戸惑いに満ちた声が広がっていた。
だがそんな時、ついにクリスの魔法が完成する。
「『インバディメント』。あれれ? 僕の方が先に完成しちゃった。僕が言えた事じゃないけど、キミって結構のんびりしてるんだね」
宙に浮いた状態からセレンを見下ろしながら、クリスは可笑しそうに笑う。しかしすぐに手に持つ杖をセレンに向けた。
「可哀そうだけど攻撃しちゃうからね。僕も最低二人は抜けって言われてるんだ。『フレイムショット!』」
するとクリスの杖に真っ赤な火球が生み出される。それをセレンに向けて解き放った!
「残念だけど、こっちの準備も整ったわ」
顔を上げたセレンは両手で杖を強く握る。すると杖は淡い光に包まれて、その先端は槍のように鋭く尖る。それは一見して、マジックセイバーであった。
セレンはその杖を構え、飛んでくる火球に一太刀浴びせる。すると火球は真っ二つとなり消えていく。
「はぁ!?」
クリスから間の抜けた声が漏れる。それだけ衝撃的だったのだ。
「ふ、ふん! もういっちょ! 『ロックプレス!』」
今度はセレンの頭上に巨大な岩石が出現した。魔力で作られたその岩石はセレンに向かって落下を始めた。
スッとセレンは自分の杖を真上に掲げる。そして落ちてくる岩石にセイバーの先端が触れた瞬間に――
シュウウウウゥゥゥゥ……
岩石は光の粒子となり空気中に霧散していく。
「ま、まだまだぁ! 『アースクエイク!!』」
セレンの足元が激しく揺れる。それは地割れを起こしそうな勢いである。
しかし、セレンがまたセイバーの先端を地面に突き刺すと――
ジュワアアァァァ……
地面から吹き出すように光の粒子が舞い上がり、振動はピタリと止まった。
「これならどうだぁ! 『サイクロン!!』」
セレンの周囲から竜巻が巻き起こる。
だがその一瞬でセレンがセイバーを横に振るうと、またしても竜巻は消え去り、セレンは光の粒子に包まれるようにして佇んでいた。
「な、なんなんだよ。なんでそんな簡単に僕の魔法が消えちゃうんだよ!」
半狂乱になって叫ぶクリスに、今度はセレンがセイバーの先端を向けて静かに答えた。
「これはね、『マジックセイバー』と『レリース』の融合魔法。『レリースセイバー』。もうあなたの魔法は決して私に届かない!」
静かな口調で、けれど強い眼差しでそう答えるのだった。




