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魔法使いの世界にて  作者:
三章 マジックバトルトーナメントにて
98/108

SSSの候補にて①

* * *


「ったくよぉ~。お前らそれでもマグノリアの代表なわけ?」


 現在マグノリア支部の控え室にて、戦いに敗れたベルベットとザザはお説教を受けていた。


「まだ相手は先鋒だよ? こっちはもう二人も抜かれたんだよ? こんな決勝戦ってある?」

「も、申し訳ない。我が主君よ……」


 ため息を吐くソルティに、ザザが粛々と謝るのだった。


「はぁ~……まぁ今は幸いにも勝ち抜き戦だから、俺一人いれば五人抜きだって出来るんだけどさぁ。それでもチカちゃんのあの神速を相手にするのは結構メンドいんだよ。っつー訳で、クリス!」


 そう突然呼ばれて、白髪の少年はビクリと体を震わせる。

 背はそこまで高くなく、あどけない表情の彼はまだまだ子供といった風貌だった。


「お前、頑張って二人抜きしろ。本気を出せばそのくらい余裕だろ?」

「えぇ!? 本気を出したら疲れるじゃないですか……それにすごく面倒くさいし……」

「お前決勝戦まで来て何言ってんの……? だいたい文句があるならこの二人に言え!」


 申し訳なさそうに正座をする二人を差すと、クリスもまたため息を吐いた。


「はぁ~……わかりましたよ。やればいいんでしょ。やれば」


 そう言って、本当に気だるそうに歩きながら控え室を出て行く。


「ったく、うちのメンツはこんなんばっかだな。それに比べてチカちゃんはいいよなぁ。強いし可愛い! やっぱ是非とも俺のチームに加えたいぜぇ」


 ソルティは控え室の窓からフィールドを眺め、中央に立つチカをジッと見つめる。そして鼻の下を伸ばしては締まりのない顔をするのだった。


* * *


「マグノリアの中堅が出てきましたね」


 観客席から戦いを観戦しているカインがそう言った。

 すると、隣に座っていたバージスが食い入るように見つめ始める。


「お~次はあいつかぁ。おいカイン、俺が言ったこと覚えてるか?」

「どんな事でしたっけ?」

「ほら。前に言ったじゃねぇか。新しく適合者の杖を扱える者が出たってよ。それがあいつだよ。『封印の杖』の適合者。今も持ってるだろ」


 カインは細い目をさらに細めてクリスを見つめる。確かに彼が持っているのは、昔、賢者が作った適合者の杖であった。

 適合者の杖。それはSSSトリプルエスランクの魔法を習得できる素質を持ったものに反応する杖である。

 SSSランクの魔法は人の人生も、運命すらも変えてしまうと言われるほどの強大な魔法だ。賢者は密かにそれを完成させる者を監視して、必要であれば仲間に引き入れようとしているのである。


「マグノリアにいた子だったんですね」

「ああ。あいつの魔法はかなり厄介だからな。うまく対処しないと一気に三人くらいは抜かれるぜ」


 楽しそうに見物する賢者の視線などつゆ知らず、今、両者は対峙して試合が始まるのを待っているのであった。


* * *


「それではそろそろ試合を始めたいと思います! 先鋒チカ選手対、中堅クリス選手——」


 コールされるまでの間、チカは相手をジッと見つめる。クリスと呼ばれる対戦相手は、なんだか眠そうな表情をしていた。


(この子、やる気あるんでしょうか? 歳も私とさほど変わらないように見えますけど……あっ、あくびしそうです!? あくびが出るのを必死に口を閉じて我慢してる顔です!!)


 なんだかこちらの気まで抜けてしまいそうな相手であった。


「――試合ぃぃぃ始めぇぇぇ!!」


 審判が宣言するのと同時に、両者が文字を刻み出す。

 白髪の少年クリスは、左手で杖を持ち、右手で文字を刻む妨げにならないようにしていた。


(この子、ダブルマジックが使えないんでしょうか? ……というか、文字刻むの遅っ!)


 クリスはマイペースに右手だけで文字を刻んでいた。


「『アンチグラビティ!』。『マジックセイバー!』」


 最初の強化を施して、チカは走りながら次の準備を始める。出来る限りその場で立ち止まっていたくないからだ。

 そして、最後の魔法が完成する。


『ストレングス!』


 強化を終えたチカがクリスの様子を伺うと、彼はまだ右手で文字を刻んでいた……


(おっそ!! まだ一つも魔法完成してないんですけど!? 私攻撃していいんですか!?)


 ちょっとだけ待ってあげたい気持ちを押さえながら、チカは攻撃する事を決意する。

 だがそれと同時に、ようやく少年の魔法は完成する。


「はぁ、メンドくさ。『インバディメント』」


 何かの魔法を使ったのは確かだが、見た目は何も変わっていない。チカはそんな彼に背後から攻撃するために地面を蹴った!

 一瞬で距離を詰め、クリスの背中を斬ろうと刀を振るう。


『フライ』


 だがクリスの体がフワリと浮かび上がり、チカの刀は空ぶった。


(あれ!? この子、飛翔の魔法なんて刻んでましたっけ? まぁいいです。空に逃げたのなら一閃で迎撃しちゃいますよ)


 チカは丁度良い場所を見つけ、一瞬でそこま移動をする。そして腰を落とし、刀を鞘に納めて、切るべき相手を確認する。

 そこは、チカが刀を振り抜いても客席の結界には触れる事もない場所であった。クリスの背後に見えるのは広い空と漂う雲だけである。


(全てを切り裂きます……)


 攻撃を仕掛けるタイミングを見計らうその最中、クリスはチカに向かって杖をかざした。


『フレイムアロー』


 すると瞬時に無数の炎の矢が現れて、チカに向かって降り注ぐ。


「へ? ちょ、待っ……『疾風!』」


 突然攻撃された事に戸惑いながらも、迫り来る炎の矢を切り刻む。


「『フレイムアロー』。もっと必要かな。『フレイムアロー』」


 すでにクリスの姿が見えなくなるほどに、チカの目の前には炎の矢が乱射されていた。


「ちょ……なんですかこれ!? 魔法使いは速くても、二連続でしか魔法が使えないんじゃなかったんですかぁ!?」


 困惑しながらも迫り来る炎の雨を高速で弾き返す。


「しぶといなぁ。『アースグレイブ』」


 するとチカの足元の地面が振動を始める。次の瞬間、地面が盛り上がったかと思うと槌となってチカに襲い掛かってきた。

 ——タン!

 嫌な予感がしていたチカはバックステップを踏み、ギリギリ攻撃を回避する。


『ウインドカッター』


 チカがブレーキをかけると、すぐに左右から真空の刃が迫っていた。

 ギョッとしながらも、左右から飛んでくる刃の丁度隙間を狙って飛び跳ねる。体をしならせて、ギリギリの隙間に体を滑り込ませて回避した。


『サンダークラウド』


 ジジッと頭上で電気がショートするような音が聞こえる。風の刃を回避した直後で足が地面についていないため、頭が警鐘を鳴らしていた。

 チカは地面に刀を突きさして、強引に腕の力だけどその場を離れようとする。その直後、激しいイカヅチがその場所に落ちた。

 直撃は避けられたものの、地面に落ちた落雷の衝撃でチカは吹き飛ばされて地面に転がってしまう。


『サイクロン』


 急いで立ち上がろうとするチカだが、それよりも早く竜巻が発生する。チカはその渦に呑み込まれて天高く舞い上がった。


「こ、こんなの反則ですよぉ~~!!」


 舞い上がった竜巻はグルリと180度方向を変え、今度は地面に向かって突き進む。そしてそのまま、叩きつけるように地面へと激突してからようやく勢いを無くして消滅した。

 後に残されたのは、抉られた地面の中心で目を回して倒れているチカだけである。


「チカ選手、ダウンです。……戦えますか?」

「きゅうぅ~……」


 女性審判の呼び声にも答えられず、チカはグロッキー状態だった。


「チカ選手、戦闘不能! よってこの勝負は、クリス選手のぉぉ勝ぉぉ利ぃぃ!!」


 闘技場全体が騒めく。

 この異質な魔法によって、観客達は異様なテンションになるのであった。

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