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魔法使いの世界にて  作者:
三章 マジックバトルトーナメントにて
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切り込み隊長の戦にて②

「冷や汗を流しながら、口だけは立派ですね」


 ベルベットの様子をしっかりと見ているチカが、そう言い放つ。


「くっ! う、うるさい!! 先程はその神速にヒヤリとしたが、もはや俺の勝ちは揺るぎないものへと変わったのだ!!」


 ムキになるベルベットだが、途中まで刻んでいた両手の魔法が今、完成した。

 力を帯びて仄かに光るその両手を見て、チカは刀を振り上げる。


「そうですか。なら、それを使う前に再度攻撃させていただきますね」


 そう言って、上段の構えから足を開き、身を低くして前屈みとなった。

 そして蹴り出す右足に力を込める。


「刹那・れん……」


 フッとチカの姿が消える。その刹那にチカはベルベットの正面で刀を振り下ろした。

 ガキィィィン! と、振り下ろしの一撃はギリギリのところで防がれる。しかし、そのまま下ろした刀をベルベットの横を通り抜ける際に横へ薙ぐ。


 ――ガシャン!


 ベルベットの鎧を貫通して腰を切り裂くその一撃に、ガラスが割れるような音が鳴った。

 ブレーキをかけてベルベットの後方で止まったチカは、手の不思議な感覚に困惑していた。


「手ごたえがありませんでした。それに今の音は……」

「ふっふっふ。次はこちらの番だな。『スパークリングワイド!』」


 解き放たれた魔法は無数の光玉となり闘技場全体に広がっていく。それを見てチカは表情を強張らせた。


「まさか広範囲による攻撃!? しかしそれでは自分まで……」

「ククク、俺はいいんだよ。『鉄壁』だからな」


 それと同時に、周囲を漂う無数の光玉から電撃は放たれた。光玉から光玉へ、連鎖反応のように広がる電撃は闘技場全域にまで拡散する。


「しまっ……あぁっ!?」


 バチバチを放電する光に包まれて、チカの体が反り返る。そして電撃が止むと、その場に倒れ伏してしまった。

 体を起こそうとしてもまるで動かない。肉体に電気が流れたことによる筋肉の収縮が起きていた。


「チカ選手、麻痺により戦闘を中止します! 回復できますか?」


 魔法で結界を張っていた審判が駆け寄って声を掛ける。チカは小さく頷いて麻痺回復の魔法をゆっくりと刻んだ。

 

「ふっふっふ。だから言っただろう。お前の攻略法は完了していると」


 ベルベットの余裕そうな声が響く。視線だけを移すと、同じ電撃の中にいたにもかかわらず彼は平然としていた。

 そして、ここでチカの魔法が完成する。


『キュアパライス……』


 体の痺れが消えた事で、ゆっくりと立ち上がった。


「鉄壁……なるほど。攻撃を無効にする魔法ですか」

「その通り。俺はどんな攻撃でも三回分のダメージを無効にするSSエスエスランクの魔法が使える。お前の神速で一発。自分の電撃で二発。もう残り一回分しか残量がないから新しく張り直すとしよう。『パーフェクトプロテクション・サード!』」


 再びベルベットの全身が薄く光り、すぐに治まる。


「さぁ、これでまた三回分のダメージが無効となった! お前は空を飛ばないし結界も張らないから、こうやって自分を守りつつ広範囲の魔法を使えば必然的に勝利する事ができる。これがお前の攻略法というわけだ。もう諦めて降参しろ!」


 勝ち誇るベルベットに、チカは小さくため息を吐いた。


「その程度で勝ったつもりですか? 私が負ける時はこの体が動かなくなった時だけです!」


 そう言って、ベルベットに向かって走り出した。そのベルベットは再び文字を刻もうと指で空をなぞらえる。


「させません!」


 一瞬で距離を詰めたチカが刀を振るう。しかし、ベルベットはその攻撃を杖でガードした。


疾風はやて!!」


 チカが凄まじい速さの連続攻撃を繰り出した。さすがにベルベットも刻む文字を中断して、その攻撃を防ぐことに集中する。


「く、くくく。段々と目が慣れてきたぞ。攻撃速度は速いが、最初に繰り出した神速二連撃に比べれば防ぐのは容易い。連続攻撃で俺のプロテクションを削ろうという作戦だろうが、我が鉄壁をなめてもらっては困る!」


 ベルベットはその巨体とは思えない身のこなしでチカの攻撃を巧みに捌いていた。三発どころか、一発もその鎧には届かない。


「別になめている訳ではありませんよ」


 フッとチカの姿が消え、一瞬でベルベットの背後に回り込む。


「全て私の計算のうちですから」


 そう言って、彼の背後から横薙ぎの一撃を繰り出した。


「くっ!? だが甘い!!」


 それでもギリギリの所で杖を盾にして、チカの刀から身を守る。

 しかしそのせいでバランスを崩し、グラリとその巨体が揺れて足元がふらついた。

 それを見た瞬間に、チカの体がまたしても消える。現れたのはベルベットから二十メートルほど離れた彼の背後だ。

 出現と同時に足を開き、刀を振り上げた状態のまま身を屈ませる。スゥっと軽く息を吸い、そのまま呼吸を止めた。


「光速刹那……」


 小さく呟いたその刹那、チカはベルベットに刀を振り下ろしていた。


「うおおおおおおっ!!」


 ベルベットもまた、バランスを崩しながらも背後から迫る気配を敏感に感じ取り、防御を試みようと杖を構える。


 ——ザン!!


 チカがそのスピードにブレーキをかけて止まる。その場所は、地を蹴った所と同じ場所であった。


「くっ!? 初撃すらガードが間に合わなかったか。しかし、二連撃を喰らおうとも、まだ一発分の猶予がある。再び広範囲の雷撃を浴びるがよい!」


 ベルベットはニヤリと笑い、途中だった文字を完成させる。


「使わない方が身のためですよ」


 ブレーキをかけるため、身を屈ませていたチカはそう言って立ち上がる。そしてそのまま刀を鞘に納め始めた。


「あなたのプロテクションはもうありません。と言うか、すでに決着はつきましたから」


 そう言って、チン! と音を立てて完全に刀を納めた。すると――


「何を言って……ぐはあぁぁ!?」


 突然ベルベットの体が傾き、地面へ倒れ込んだ。


「ば、ばかな!? ダメージだと!? 俺の体は三回分のダメージが無効となるはず……ま、まさか!?」


 困惑するベルベットだが、チカを見つめて何かを悟ったようであった。


「気付きましたか。そう、私は往復したんですよ。あなたの横を通過した後、すぐにまた戻り二連撃を繰り出しました。つまるところ、結果的にあなたは四連撃を喰らったという訳です」

「ぐぅ……最初に連撃を繰り出してきたのは……俺のプロテクションを削るためかと思っていたが……この四連撃を全て当てるための隙を作り出すためだったという訳か……神速、恐るべし……」

「……先ほどからあなたは私の事を神速と言いますが、これでもまだまだ修行中の身です。私はこの程度の速さで満足していませんよ。まぁ神速と言ってくれるのは嬉しいですけどね」


 そう言って、チカは照れたような笑みを浮かべる。それを見て、ベルベットは力が抜けたように地面へ顔を付けた。


「ククク、末恐ろしい娘だ。ぐふっ……」


 そしてついに動かなくなった。

 審判はそんな彼の様子を確認しながら、意を決して立ち上がる。


「ベルベット選手、戦闘不能! よって勝者は~~~チカ選手ぅぅぅ!!」


 ——ウオオオオオオオオオオォォォ!!

 歓声が巻き起こる。それも今までにないほどの大歓声だ。

 とても先鋒同士の闘いとは思えないほどの歓声に、チカ自身が驚くほどであった。それほどまでに今日の観客数は多く、また熱が入っているのだろう。

 そんな歓声を全身に浴びて、チカはさらに気を引き締める。これは勝ち抜き戦なのだ。戦いはまだまだ終わらない。

 自分の体を動かし痛む箇所は無いか、そんな確認をしながら次の相手を待つのであった。

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