切り込み隊長の戦にて①
「なんですか合併って!! 一体何がどうなっているんですかぁー!?」
アレフが控え室に戻った時、真っ先に掴みかかってきたのはチカであった。
アレフはどうどう、と落ち着かせるようにチカをなだめる。そうして、ソルティとの話を全てメンバーに伝えた。
「何それ無茶苦茶……絶対に負けられない……」
セレンが静かにそう答える。だがその表情は嫌悪感が漂っていた。
「みんなすまない。結局この試合に勝つ以外の方法が思いつかなかった。だから頼む。力を貸してくれ!!」
アレフの言葉に全員が頷く。
「ではまず、メンバーの配置を決めないといけないな。勝ち抜き戦だと言う事を考慮して、誰を先鋒にするか……」
「あ、あの、私を先鋒に置いてくれませんか!」
そう言ったのはチカであった。
「こんな方法で強引に約束を取り付けようだなんて極悪非道です! それは私の中の正義に反します! だから私が先鋒を務めて、『敵』の戦力を出来るだけ削ります。私にやらせてください!!」
真剣な表情でそう進言するチカを止めようとする者は誰もいなかった。
だからこそアレフは慎重に考える。
「ふむ……そう言えば三回戦の勝ち抜き戦の時にはアイリス君も先鋒をやりたがっていたね。五人抜きをするんだって張り切っていたが、今回はいいのかい?」
「……え……?」
アイリスが驚きの表情を見せる。なぜか今日は口数が少なく、あまり元気もないように思えた。
「あ~……うん、その辺は隊長に任せるわ。私はそれに従うから」
「ふむ。そうかね? ならチカ君を先鋒にするか」
アレフは配置表の先鋒にチカの名前を記す。
「なら、次鋒は私がやるわ」
そう言ったのはセレンだった。
「もしもチカが負けるとしたら、それは魔法の知識が豊富でそういった戦略を使って来る可能性がある。私ならそういう相手が得意だと思うの」
「そうですね。私の苦手な相手は、逆にセレンちゃんは得意そうなイメージがあります。次にセレンちゃんが控えていれば私も安心して戦えますし」
そうして二人はお互いにうなずき合う。
「ふむ。なら次鋒はセレン君にするか。……それにしても二人共、今日は特に仲がいいように見えるな。何かあったのかね?」
アレフにそう聞かれると、二人はクスクスと笑い出した。
「秘密特訓のせいでしょうか」
「秘密特訓? なんだいそれは」
「内緒……それは試合で見せるわ……」
何やら頼もしさを感じながら、アレフは次鋒にセレンの名前を記した。
「中堅は私が出よう。こんな大舞台で後を務められるほどの器は私にはない。すると残りは必然的に……」
全ての記入を終え、アレフは扉の前で待つ女性に記入用紙を手渡した。
女性はそれをフィールドまでもっていくと、しばらくしてから審判の声が響き渡る。
「それでは両者共に配置が決まりましたので、発表します!! じゃん!!」
ワイルドファング マグノリア支部
先鋒 チカ ― ベルベット
次鋒 セレン ― ザザ
中堅 アレフ ― クリス
副将 アイリス ― ジャック
大将 ガル ― ソルティ
ザワザワと観客の騒めきが風に乗り、控え室まで届いてくる。
それがある意味で戦いの前兆であり、緊迫した雰囲気へ変わるタイミングとも言えた。
チカはそんな雰囲気に気持ちのスイッチを切り替えたのか、ただ静かに目を閉じて、呼ばれるのを待つのであった。
「それではそろそろ先鋒戦を始めたいと思います。両選手は入場して下さい!!」
呼ばれたチカはゆっくりと目を開けて、かるく深呼吸をした。
「それでは行ってきます!」
「ああ、暴れてこい。切り込み隊長」
ガルにそう言われ、チカはクスリと笑いながら部屋を出る。ついにワイルドファングの運命を懸けた戦いが始まろうとしていた。
* * *
(切り込み隊長ですか。悪くないです)
チカは心を疼かせて、腰に携える刀を握りしめていた。
(正に、切り込んでいきますよ!)
そう気持ちを強く持ち、フィールドの中央で相手と対峙する。ベルベットと呼ばれた相手は巨漢であった。
厳つい顔に兜と鎧を装備して、魔法使いというよりも重戦士といった風貌である。しかし右手に持つ巨大な木製の杖を掲げているところが、かなりミスマッチであった。
(私にとって鎧なんてのはあって無いようなものです。むしろ動きが遅そうで戦いやすい気がしますが、果たして簡単に勝たせてくれるでしょうか)
お互いに睨みをきかせて審判の合図を待った。
「それでは早速、決勝戦第一試合を始めたいと思います! 先鋒チカ選手対、先鋒ベルベット選手。試合ぃぃぃ開始ぃぃぃ!!」
女性審判の宣言と同時に、お互いは両手で文字を刻み始める。
先に完成させたのはチカであった。
「『アンチグラビティ!』。『マジックセイバー!』」
前回の反省をもとに、重力操作の魔法を真っ先に発現させる。
すると、すぐにベルベットも後を追うように魔法を完成させた。
「『マジックセイバー!』。『パーフェクトプロテクション・サード!』」
スッと、ベルベットの鎧が光り輝き、すぐに治まる。
さらに両者の準備は終わらない。チカは自分の位置を特定されないように動きながら文字を刻み続ける。
『ストレングス!』
一早くいつもの強化が完了したチカは、ベルベットの魔法が完成する前に攻撃を始める事を決めた。
とてつもなく速い動きで側面に滑り込んだチカは、刀を横に振るい腰の辺りを狙う。例え鎧を着ていようとも、強化されたチカの一振りは金属程度なら簡単に切り裂けるのだ。
だがその一撃をベルベットに止められる。同じマジックセイバーを付与した大きな杖で、チカの攻撃をギリギリの所で受け止めていた。そしてその表情には余裕は無く、冷や汗すら流れているほどだった。
「へぇ、巨体でいい的かと思いましたが、なかなか良い反応をしますね」
「ふっ。確かに俺は動きは鈍い方だろう。しかし、そう簡単に攻撃を喰らうほど目は悪くないつもりだ」
そう言って、受け止めた刀をチカの体ごと強引に押し返した。
チカはクルリと身軽に体を回して着地をする。するとベルベットが微かに笑い始めた。
「ふふふ……今の一撃を防いで確信したぞ。貴様は俺に勝つ事は出来ない。もうすでに、俺にはお前の攻略法が完成しているのだ」
不気味にほくそ笑むベルベットに、チカは気分の悪さを感じるのだった。




