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魔法使いの世界にて  作者:
三章 マジックバトルトーナメントにて
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敗北の境地にて①

* * *


「痛ったた……ちょっと無理しすぎちゃったかな」


 アイリスは控え室に戻り、医療班の手当を受けていた。

 左腕は真っ赤に焼けただれ、右腕に至っては黒ずんで炭になりかけてる。そんな腕を目の当たりにして、チームの全員が愕然としていた。


「とりあえず痛みを取り除きます。『インタラプト!』」


 痛覚遮断の魔法をかけ、それからも医療班は懸命に処置を施していた。


「アイリス……無理しすぎだろ」


 ガルがようやく、そんな言葉をかけるのであった。


「だって……絶対に負けたくなかったんだもん。それにこうでもしないと次のチカに繋げないでしょ?」


 それを聞いたチカがビクリと震える。


「わ、私の番……私の結果で、チームの勝敗が決まる……」


 呼吸が乱れ、手が震えるのを必死に抑えようとしていた。


「チカ君、あまり気負ってはだめだ。いつも通りに戦えばいい」


 察したアレフが、そう言って落ち着かせようとしていた。

 そんな時、外から大将戦を始めようとする審判のコールが聞こえてきた。


「チカ、バシッっと決めちゃってよ~! アンタならできる!!」


 腕を診てもらっているアイリスが、ウィンクを飛ばす。

 チカは、小さく頷いて、そして控え室を出た。


(気負うな? いつも通りに? 無理ですよそんなの! 私が負けたらアイリスさんがあんな怪我までして勝った意味がなくなります! 絶対に勝たなきゃ……)


 鼓動が早くなる。

 太鼓でもならしているのではと錯覚するほど、自分の心臓の音で観客の声援がまるで聞こえなくなっていた。


(絶対に勝たなきゃダメなのに、私に勝てるんですか? 相手はリーダーなんですよ!? 三回戦で、師匠は相手のリーダーと戦いギリギリでした。四回戦のリーダーには、セレンちゃんでも勝てませんでした。そんな敵の大将に、私が勝てるんでしょうか……)


 ただ呆然と歩く。

 頭の中がグチャグチャになりながら、機械人形のように前進する。


(私なんて、三回戦で負けて四回戦でも負けて……全然チームの役に立ってません……)


 そんな時だった。


「やぁ。自分はリュウガン。よろしく」


 突然声をかけられた事で、チカはハッと我に返る。気が付くと、すでにフィールドの中央に着いていて、さらに相手のリュウガンの目の前まで歩み寄っていた。

 かなり渋い声で、その佇まいは修羅場をくぐり抜けてきた歴戦の猛者といった貫禄さえ感じるほどである。

 四十代くらいに見える彼は、チカに握手を求めていた。


「あ、はい、こちらこそよろしくお願いします!」


 ボーっとしていた事を悟られないように、握手をしてから距離を離れる。

 そうして、二人は所定の位置で対峙した。


「それではこれより、大将戦を始めたいと思いまっす!!」


 審判が元気よく呼びかけるのと同時に、チカは思い返す。作戦会議の時に話し合った、この相手との闘い方を。

 しかし……


(あ、あれ、この人ってどんな戦い方をするんでしたっけ!?)


 何も浮かんでこない。頭の中が混乱して、うまく記憶を呼び起こせない。

 チカは確かにみんなとの話し合いには参加している。しかし、ひどい緊張と混乱のせいで、頭の中が真っ白になっていた。


(どんな魔法に気を付けるんでしたっけ!? 開幕なんの魔法を優先して使うべきでしたっけ!?)


 グチャグチャになった頭はさらに混乱して、よりいっそう考えがまとまらなくなる。


「さぁさぁ、現在チームの成績は一勝一敗二分け。泣いても笑っても、この勝負に勝った方が決勝戦進出です! それでは~~~、チカ選手対、リュウガン選手、試合ぃぃぃぃ始めぇぇぇ!!」


 高らかに宣告する審判と同時に、リュウガンがすばやく文字を刻む。


(こ、この人、早い!?)


 ギリギリまで思考していたチカだが、結局思い出す事はできずに出遅れてしまっていた。

 仕方ないので、いつも通りに文字を刻む。


「フライ!」


 一早くリュウガンが飛翔の魔法を発現して、一気に上空に飛び上がる。

 それに次いで、チカが魔法を完成させた。


「ストレングス! マジックセイバー!」


 筋力状増強魔法と、魔法の刃を刀に付与する。

 そして次に、アンチグラビティを使用するために再び文字を刻む。

 そこに……


「ハイグラビテーション!!」


 空に浮かび上がったリュウガンが魔法を発現させる。

 すると、ズシンとチカの体が重くなった。


「な、なんですか!? いきなり体が重くなって……あっ!?」


 そしてチカは思い出す。リュウガンが重力を操る魔法を得意とする事に。


「ア、アンチグラビティ!」


 チカは遅れて、自分の周囲の重力を操作するアンチグラビティの魔法を発現させようとした。しかし、アンチグラビティは作用しない。いや、正確に言えば作用しようとしてはいるが、その効果がついてこない状態であった。

 これによりチカは青ざめる。自分が手順を間違えた事を理解したのだ。


 魔法と言うのは重ね掛けができない法則がある。

 チカのストレングスやマジックセイバーは、自分の体や武器に直接かけているのに対して、アンチグラビティは自分の周囲にかける魔法である。これによって、この三つの魔法を同時に使用する事が出来ている。

 しかし、今この空間にはリュウガンが先に使った重力系の魔法が施されている。よって、チカの使うアンチグラビティは効果を発揮できないでいた。

 そしてこの事は、チームで行われた作戦会議でも話し合われていた。

 もしもチカがリュウガンと当たる事になった場合、一番先にアンチグラビティを使用して真っ先に効果を得ろと、そう言われていた。

 最初に発現させてしまえば、その効果が優先されるからである。

 しかし、チカはアイリスの怪我を見て酷い緊張状態へと陥った。勝たなければいけないという責任が、プレッシャーが、その全てが彼女にのしかかり、頭の中が真っ白になってしまっていたのだ。


(と、とにかく、重力を重くしている範囲から抜け出さないと。その後でアンチグラビティを使えば……)


 そう思い、重くなった足を動かして走り出す。

 しかし、そんなチカにリュウガンが空中から声をかけた。


「警告する。今すぐ降参したまえ。キミの得意なスピードはすでに封じた。なぜならば、このフィールドの全域を重力魔法で覆ったからだ。どこに行ってもキミの得意なステータスを向上させる魔法は使えない! キミだって分かっているだろう。魔法の重ね掛けは出来ないという事に。繰り返す。今すぐに降参したまえ」


 それを聞き、チカは再び青ざめる。もうすでに、自分の得意な戦術は封じられてしまったのだから……

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