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魔法使いの世界にて  作者:
三章 マジックバトルトーナメントにて
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女同士の喧嘩にて➂


「あっははは! バーカ!! アンタのアクティベーションが未完成だって事はわかってんのよ! あんな不自然な魔力の発光なんて見れば大体わかるんだから! つまりアンタは本気を出す事ができない! この勝負もらった!」


 カリンが杖を構える。すると先端から青黒く、けれど中心に一筋の光がこもった球体が現れる。


「この魔法に私の体内で凝縮した魔力を一気に押し出す事で、威力を跳ね上げる事ができる。さぁ、アンタはどんな魔法を見せてくれるの?」


 アイリスは黙って、同じように杖をカリンに向ける。するとアイリスの周囲から炎が溢れ出した。

 それを見たカリンは驚愕する。


「な、なんて魔力。あまりにも活力がありすぎて自分の体からあふれ出てる……ま、まさかコイツ、本気なんじゃ……?」

「あたしはいつだって本気よ。だからさ……あたしの左腕、あんたにあげるわ!!」


 ブワッっと、さらに熱風が吹き荒れ、アイリスの周囲に炎が広がる。

 左手で杖を握り、右手は添えるように構えて、アイリスが今、魔法を解き放つ!


「これがあたしの最強魔法。『イフリート……ロア!!』」


 ゴウンと放たれた魔法は真っ赤な閃光となりカリンへと向かう。

 その巨大で、熱を帯びた閃光は小さな家なら包み込んでしまうほどの波動である。

 そんな膨大なエネルギーに向かって、カリンも負けじと魔力を解き放った!


「なめるな!! 『ヴァニシングライト!!』」


 周囲の光を取り込むような、青黒いエネルギーが放射され、アイリスの真っ赤な閃光とぶつかり合う。すると激しい音を立てながら二つの魔法は動きを止めた。

 互角の威力を持つ魔法はお互いを押し返そうと絶え間なく放射される。それに加えてアイリスの閃光は灼熱の魔法だ。周囲の気温はドンドンと上昇していった。


 ——ジュウゥゥゥ……


 アイリスの左腕から煙が上がる。膨大な魔力を常に流し込める事で、その活性化した魔力によって腕が焼かれ始めていた。肌が赤みを帯び、皮が焼けただれる。それでもアイリスは魔法を止めようとしなかった。


「絶対に負けない……うおおおおおおおおおおっ!!」


 足が地面にめり込むほどの衝撃を支え、さらに力を込める。すると、アイリスの閃光がカリンの魔法を押し始めた。


「ぐうぅ……そ、そんな! 私の魔法が押されてる!? こんなことって……」


 アイリスよりも魔法を発現させるのが遅れたカリンは、ギリギリの位置で魔法を食い止めている。しかしそれが押され始めた事によって、全く余裕のない状況に追い込まれていた。


「や、やばいやばいやばい!! こうなったら……離脱!!」


 バオン!!

 カリンがブーストを発動させた。

 高ランクの魔法の維持で動けない体が強制的に動き出す。一気に弾けるように飛び出す事で、アイリスの閃光から間一髪抜け出す事に成功していた。

 アイリスの放った魔法は天高く昇っていく。そして上空の雲に到達すると、一瞬にして周囲の雲を散らして見渡す限りの青空を広げた。


「な、なんつー威力……けどこれで私の勝ちね! アンタはもう魔法が使えない。これで終わりにしてあげる!」


 そう言ってカリンはダブルマジックで同じ魔法を発現させる。

 杖の先端に青黒い塊を作り出し、体内で弾け飛ばす魔力を溜め始めた。

 一方のアイリスは、左腕から煙が上がるほど真っ赤に焼けただれていた。まるで熱湯に長時間腕を突っ込んでいたかのような有様である。

 しかし……


 ――ブワリッ!!


 再びアイリスの周囲に炎が巻き起こる。

 杖が煌々と輝き出し、その先端をカリンに向けた!


「な、何!? もう左腕は使えないはず……って、まさか!?」


 カリンの顔色が青ざめていく。


「確かにあたしの左腕じゃあ、もう魔法は使えないわ。けどさ、なら今度は右腕で撃てばいいだけじゃん?」


 ギロリと、アイリスの鋭い視線がカリンを捉える。


「ア、アンタ、両腕を捨てるつもり!? 正気じゃない!!」

「言ったでしょ。あんたなんかに絶対負けない! 死んでも負けたくない! それだけよ!!」


 アイリスから更なる魔力が吹き荒れる。吹き荒れる魔力はガソリンの如く、炎に変わり周囲に広がる。その中心で、アイリスは杖を構えた。

 先程とは逆で、右手で杖をしっかりと掴み、焼けただれた左手はそっと添えるだけ……


「こ、こいつ狂ってる……もういい加減、潰れなさいよおおぉぉぉ!!」


 体の魔力が溜まったカリンが、魔法を解き放つ!

 先程と同じ魔法がアイリスに向けて放出された!


「あたしは絶対に負けない!! 連発だあああああああっ!!」


 イフリートロア。灼熱の炎を凝縮させ、閃熱にすることによって威力を跳ね上げたアイリスの最強魔法。それにアクティベーションをかける事で、もはやこの魔法は暴走状態である。しかしアイリスはそれを制御しようとは思っていない。むしろ自分の怒りを乗せて、好き勝手に暴れさせるのみ。

 そして二つの魔法はぶつかり、大きな衝撃はが周囲に広がる。

 状況は先に放出したカリンのヴァニシングライトが押しているように見える。しかし、やはりアイリスの魔法のほうが威力が上であった。

 少しずつ、ジワジワと追い上げて、カリンの魔法を押し返していく。


「ぐうぅぅ……まだよ、まだ負けじゃない! こうしている間にもアイツの右腕には負荷が掛かってる! 私が時間を稼げばアイツの腕は勝手に消滅するんだ! ギリギリまで抑え込めれば私が勝つ!」


 ジワリジワリとカリンの魔法は押し返されていく。しかし、必死に食い止めようとカリンも必死に魔力を絞り出していた。

 ジュウウゥゥっと、アイリスの右腕から煙が上がる。左腕と同じように赤く腫れあがり、水膨れで肌の表面がブツブツと腫れあがっていた。

 それでも、アイリスは魔法を止めようとはしない。むしろさらに力を込める。


「あんたなんかに……絶対負けない!! 全身全霊、全力全開。フルパワーだあああああああああああああああああああっ!!」


 声を張り上げる! 魔力を振り絞る!

 するとカリンの魔法を押し上げる勢いがさらに上がっていった!


「い、いやぁ……負けたくない、この私が負けるなんてありえない……」


 もはやすぐ目の前までアイリスの魔法に押し込まれ、カリンはその目に涙を浮かべていた。


「いやぁ……そんな……いやああああぁぁぁ……」


 ついにアイリスの魔法に全身を包まれて、その波動砲と一緒にカリンは天へ昇っていく。

 空に巨大で真っ赤な光が立ち昇った後に、ようやくアイリスの魔法は治まっていった。

 しばらくすると、空からはボロボロとなったカリンが真っ逆さまに落ちてくる。それを女性審判は真剣な表情で見つめていた。


「カリン選手、戦闘不能! よってこの勝負――」


 審判はマイクを通して高らかに宣言する。そして、頭から落ちてくるカリンを抱きかかえるように受け止めた。

 もはや、勝敗など決まり切っていたのだ。


「――アイリス選手の……勝ぉぉぉぉ利ぃぃぃぃ!!」


 ワアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!

 闘技場は観客のざわめきに包まれる。

 カリンの敗北に喚き散らす者。アイリスの勝利に興奮して吠える者。さまざまである。

 そんな中、アイリスもまた僅かな時間ではあるが、両腕の痛みを忘れて勝利の余韻に浸るのであった。

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