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魔法使いの世界にて  作者:
三章 マジックバトルトーナメントにて
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自信とやる気の行方にて

* * *


「すみません。引き分けになってしまいました……」


 自陣の控え室に戻ってきたガルが、伏し目がちでそう言った。


「仕方ないさ。実力勝負を避けられて、特殊ルールに変更されたのだからね」


 アレフがそう言ってガルを励ます。セレンもその言葉に、うんうんと力強く頷いていた。


「でも、どうして審判に化けてるってわかったの?」


 そうセレンが聞いてきた。


「審判をよく見たら、服のデザインが僅かに変わっている事に気が付いたんだ。恐らく、あの一瞬では精密に再現できなかったんだと思う」

「へぇ~……よく見てるのね」


 セレンの声がワントーン下がる。


「まぁ、人目を引く格好だからな」

「そうだよね。あの審判の格好って露出多いものね……」

「……」


 不穏な空気を感じ取り、ガルは恐る恐るセレンを見る。するとセレンは疑惑に満ちたようなジト目でガルを見つめていた。


「あれを見てたんだ。違いが分かるくらいずっと……」

「……」

「ガルのエッチ」


 ついにセレンが目を合わせなくなった。


「いや、違うぞ? あくまでも審判の位置を常に確認しておかないと、魔法で巻き込んでしまうかもしれないという配慮であってだな……」


 ガルが必死に言い訳をしていた……

 そこに――


「それよりもさ、次は隊長の番よね。負けるの覚悟で強い相手を自分に向けるように配置したんでしょ? 大丈夫なの?」


 そうアイリスが話題を戻した。

 しかし、それに対してアレフはフッと笑みを浮かべた。


「確かに私以外の四人で三勝するのがうちのチームの作戦だ。しかし、だからと言って私が必ず負けるとは言っていない。私はもう、過去に捕らわれていた自分とは決別したのだから」


 そう言って、ばさりとマントを翻す。その姿はやる気と自信に満ち溢れていた。


「ま、まさか……隊長、本気で勝つつもりですか!?」

「ふっ。私はこのチームの隊長であり、リーダーでもある。いつまでもみんなにばかり戦わせて自分だけ何もしない訳にはいくまい」


 驚くガルに、アレフはそう答えて部屋のドアに手をかける。


「たまには私を頼ってくれたまえ。それじゃ、少しばかり本気を出してくるよ」


 そう言い放ち、アレフは部屋を出る。後ろからはメンバーの期待と尊敬のオーラを感じながら、今、アレフの闘いが始まろうとしていた!


 ——そして中堅戦が始まり……


「試合終了~!! アレフ選手、戦闘不能! よってベルガモット選手のぉぉ、勝ぉぉ利ぃぃ!!」


 試合時間、約一分三十秒。

 闘技場のフィールドで、アレフは目を回しながら地面にへばり付いているのであった……

「いや~負けてしまったよ。あっはっは!」


 速攻で控え室に戻ってきたアレフは、ベッドに横たわりながら治療を受けている。そんな様子を、メンバーは呆れた表情で見つめていた。


「し、仕方ないですよ。隊長の得意魔法、『ストルレイト』の効果が相手に知られていたんですから」


 そうガルがフォローする。

 アレフが唯一レベルの高い相手に対抗できる魔法、『ストルレイト』。その効果とは、一直線ではあるが、超高速で移動できる魔法である。だがその代わり、何かの物質に触れるまで止まる事は出来ない。

 この魔法をダブルマジックで使用すれば、ブースト級のスピードを二連続で繰り出す事が可能である。しかし、対戦相手のベルガモットには通用しなかった……

 前回の闘いで使用した所を見られ、徹底的に究明したのだろう。むしろ使ってくるのを待ち望んでいたかのように対応され、その結果アレフは負けたのであった。


「もうちょっと頑張れるかと思ったのだけど、そう甘くはいかなかったな。あっはっは」


 この結果にはもはや笑うしかないと、アレフは弾けて笑う。


「たまには私を頼ってくれたまえ♪」

「少しばかり本気を出してくるよ♪」


 そしてアイリスとセレンが、アレフの試合前の台詞を真似して遊びだす。

 もちろんガルは、そんな二人を必死に止めようとしていた。

 そこへ……


「しかしこれで0勝一敗二分け。我々は追い込まれたわけだ」


 そうアレフが呟く。治療が終わり、今ではうつ伏せになって背中を指圧してもらっている最中である。


「いや隊長、そんなくつろいでいる状態で急に真面目に語られても説得力ないわよ……」


 セレンがすかさずツッコミを入れる。


「我々が勝つには、この後の副将戦、大将戦で二連勝するしかない……」


 アレフは構わずにキリッとした表情で現状を整理する。しかし彼は今、指圧の真っ最中であり、セレンの言う通り言葉に重みが足りない……


「な~に言ってんのよ」


 だがそこで、アイリスがいつもと変わらない口調で答えた。


「あたしは絶対に負けたりしない。そんで、そんなあたしの勢いに乗ってチカも勝つ。だから全く問題ないでしょ」

「いつにも増して自身満々だな……」


 ガルが呆れ顔でそう呟く。


「当然! あたしってば絶好調だからねぇ。今のところ負けなしだし!」

「いや、勝ち抜き戦のときに辞退したから一敗は記録されてるだろ……」

「うぐっ……あ、あれはいいの! あたしは戦ってないから負けてないし!」


 アイリスにとっては謎理論で無効のようだ。

 そんな時、外から副将戦の選手を呼ぶ審判の声が響いてきた。


「よっしゃ! そんじゃ~サクッと勝利して大将に繋げますかね~」


 そう言って、アイリスは控え室を出て行った。それにつられてガルとセレンもフィールドが一望できる窓の近くへと移動する。

 アレフは未だに医療担当の者にマッサージをしてもらっていた。

 そこに――


「……どうして隊長さんはそんなに気楽でいられるんですか……」


 元気のない声でチカがそう言った。

 アレフはチラっと彼女の顔を確認する。するとその表情は影を纏い、まるで余裕なんてない感じであった。


「気楽という訳ではないが、負けてしまったものは仕方ないからね。引きずってもしょうがないだろ」


 あえて明るく、さらりとそう言い放つ。


「私はそんな風に思えません……自分の勝敗が試合の結果を左右する。そう考えただけで怖くなります……」


 やはりそうかとアレフは思う。彼女は今、自分の実力や戦いの責任で押しつぶされそうなのだ。四回戦の敗北から焦りを感じ、心を落ち着かせるだけの余裕がないと、そう感じた。


「チカ君、これは一種のスポーツだ。イベントだ。別に負けた所で命を奪われる訳じゃないし、何かペナルティがある訳でもない。誰もキミを責めたりしないのだから、もっと気楽に行きたまえ」


 しかしチカは首を振る。


「ダメなんです。私は勝ちたいんです! 師匠は、私はもっと強くなれるって言ってくれました。私も侍は最強だって証明したいんです! だから……負けるのが怖いんです……」


 ふむ、と、アレフは考える。


「焦っても仕方がないよ。今は自分にできる戦いを精一杯やるだけさ」

「自分のできる戦い……」

「そう! 相手と一戦交えて、その中で自分の実力を精一杯相手にぶつけるんだ。それで負けてしまったのなら、次は勝てるようにもっと工夫する。我々はそうやって少しずつ成長していくしかないんだ」


 チカが固く握り拳を作る。


「わ、私は……」


 未だ彼女の心は曇ったままか。と、そうアレフはそう感じていた。

 そんな二人を差し置いて、副将戦が今、始まろうとしているのであった。

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